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政治資金パーティー事件 捜査と派閥解消は

清永 聡  解説委員 曽我 英弘  解説委員

自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる事件で、東京地検特捜部は政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で、安倍派と二階派の会計責任者を在宅起訴し、岸田派の元会計責任者を略式起訴しました。
事件と派閥の解消をめぐる動きについて、司法担当の清永委員と政治担当の曽我委員でお伝えします。

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【国会開会までの1か月】
事件は去年12月から急展開しました。
特捜部は12月19日に安倍派「清和政策研究会」と二階派「志帥会」の事務所を捜索。安倍派の5人の幹部を事情聴取。1月7日には衆議院議員の池田佳隆容疑者らを逮捕しました。

26日以降開かれる国会では、能登半島地震や新年度予算案の審議が行われます。検察としては影響を与えないよう、国会が開かれていないこの1か月ほどを捜査の「メド」としたのだということも推測されます。

【岸田派立件の波紋】
事件の立件の対象が岸田派にも及んだことによる岸田首相の政治的ダメージ、政権への影響は計り知れません。

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岸田首相は18日、「事務的ミスの積み重ね」と釈明する一方、岸田派を解散することを明らかにしました。また安倍派、二階派も19日夜、解散を決めました。安倍派は「5人衆」ら幹部の立件は見送られましたが、中堅若手を中心に「けじめをつけるべきだ」いう声や、このままでは次の選挙を戦えないという危機感が急速に高まっていました。岸田首相の判断について党内では、派閥に所属しない議員を中心に理解や評価の声がある一方で、「何の議論も説明もなく唐突だ」とか「派閥自体を否定するのは違う」といった戸惑いや反発も出ています。主導権確保のため先手を打ったとみられますが、立件されなかったほかの派閥に直ちに波及するかは現時点で見通せず、展開次第では政権が不安定化する可能性も否定できません。

【「出」も「入」も書かず“裏金化”も】
事件の構図はどのようなものか。ここでは安倍派を例に説明します。

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関係者によりますとパーティー券は販売ノルマがあり、議員は企業などに依頼して購入してもらいます。この際ノルマを超えた収入は議員側にキックバックされていました。
▽このノルマを超えた分を派閥の収支報告書に収入として記載せず、議員へのキックバックも支出として書かれず、さらには議員側の収支報告書にも収入として記載されていなかった疑いが持たれています。
つまり安倍派は「出」も「入」も書かず、「裏金化」していたとみられます。
▽さらに、複数の所属議員側がノルマ超えたパーティー収入を、そもそも派閥側に納入していないケースがあることが明らかになっています。

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東京地検特捜部によりますと、収入は一昨年までの5年間で、安倍派が6億7503万円、二階派が2億6460万円、岸田派は2020年までの3年間でおよそ3059万円を派閥の収支報告書に記載していなかったなどとして、それぞれ会計責任者や元会計責任者が、政治資金規正法違反の虚偽記載の罪に問われています。

【派閥側の幹部を立件しないのはなぜ】

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また、逮捕された池田議員・在宅起訴された大野泰正参議院議員・略式起訴された谷川弥一衆議院議員は、キックバックを受けた側です。
一方で、一連の問題の元となった派閥の収支報告書。こちらは派閥幹部が立件されていません。釈然としない、という人もいるでしょう。

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政治資金規正法は、政治団体に収支報告書の提出を義務づけていますが、義務の対象はその団体の会計責任者やそれを補佐する人となっています。
政治家本人が罪に問われることもありますが、それは不正に積極的に関与して「共謀」した事実が認められた場合に限られます。
幹部らはいずれも虚偽記載への関与を否定していました。特捜部は今回「共謀していたとは認められない」として立件しない判断をしました。

しかし、そうなると、キックバックのスキームを誰が考え出したのか。収支報告書の虚偽記載を決めたのは誰か。特に安倍派は「出」と「入」をともに記載せず、「裏金化」させたのはなぜか。その狙いは何だったのか。
未解明の点は数多く残されています。現在の法律では限界があるとも指摘されています。
法律や制度の見直しはどのような議論になっているのでしょう。

【政治資金透明化】

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再発防止に向けた論点はすでに明確で、政治資金透明化の徹底です。事件につながったパーティー券の購入者などの公開基準の引き下げ。さらには政党から議員個人に支出されながら議員に公表義務はなく、パーティーとともに「裏金の温床」との批判もある「政策活動費」の使途公開に踏み切るべきだとの意見もあります。また罰則の強化も浮上しています。「連座制」を導入し、政治家も処罰の対象とすべきだと野党だけでなく公明党も主張していて、自民党の対応が焦点です。政治資金規正法の実効性とともに、法律を作る以上誰よりも守るべき立場の政党・政治家の順法意識が厳しく問われています。

【派閥のあり方は】
岸田首相の発言をきっかけに、自民党内の議論がいっそう激しくなっています。

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焦点は派閥の解消を、党の「政治刷新本部」でも打ち出すのかどうか。もし仮に、党全体としても解消するならば、これまで派閥の力の源泉ともなってきた資金集め、資金配り、さらには人事ポストの調整を党がどこまで担い、担えるのか。
そのことにより執行部の力が今以上に強くなることへの弊害はないのか。リーダーを総理総裁に押し上げるため同じ志を持った議員が集うグループ活動の扱いをどうするのか。具体的な検討が必要になってくるでしょう。
一方で派閥の存続を引き続き認めるのであれば、党内ルールを明確にする必要があります。「政治刷新本部」のこれまでの議論では、政治資金パーティーは禁止し、人事への介入やポストの要求も認めない方向です。一度決めながら、なし崩しにするようなことがあれば自民党の信用は失墜するでしょう。

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自民党は派閥の集合体と言われ、政策の研鑽や、人材の発掘・育成なども担ってきました。
岸田首相自身、党の方針に反し首相就任後も派閥の会長を続けるなど、派閥には強いこだわりを見せてきました。他の派閥には解散を強いることはないという岸田首相ですが、自らの決意が本気であるならば、これまでの議論を脇に置くようなことはせず、党内にきちんと説明し説得もすべきでしょう。それを怠れば、政治改革が叫ばれるたびに派閥解消を掲げながら掛け声倒れに終わった歴史を再び繰り返すのは確実です。

【国民の納得と信頼を取り戻せるか】
「政治改革」からおよそ30年。その後も問題は一向になくならず、最近は半年足らずで自民党議員3人が逮捕される異常な事態となっています。通常国会で今一度改革を検証・前進させ、国民の納得と信頼を取り戻せるか。政治全体が問われています。

安倍派の幹部などを刑事告発している市民団体は、不起訴になれば検察審査会への申し立ても検討しています。検察審査会は国民の代表が審査し、議決によっては再捜査が行われるほか、強制的に起訴する権限もあります。
この問題は依然、終わっていません。
一連の事件では、派閥に対して国民の厳しい目が向けられていることを、忘れないでほしいと思います。


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