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能登半島地震 災害関連死の拡大を防げ!

松本 浩司  解説委員

能登半島の被災地ではきわめて厳しい環境のなかでお年寄りをはじめ多くの人たちが避難生活を続けていて「災害関連死」を防ぐことが最大の課題になっています。また避難の長期化は避けられない状況で、先を見すえた対応を始める必要もあります。命を守るために何が必要か考えます。

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解説のポイントは
▼関連死リスクが高まる被災地
▼2次避難の必要性と課題
▼避難の長期化見すえて今すべきこと

【関連死リスクが高まる被災地】

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被災地ではいまも1万5000人を超える人が市町の避難所に避難しています。
また孤立状態あるいは道路状況が悪く支援が必要な集落が数多く残されています。

避難所はほとんどのところで断水が続きトイレが使えないほか、停電が続いているところも少なくありません。

先週末、七尾市の学校と体育施設の避難所を取材しましたが、暖房が行き届いておらず毛布を重ねて寒さをしのいでいる被災者がいました。市の担当者から「お年寄りが遠慮をして寒いフロアでがまんをしている」という話も聞きました。いまだに温かい食事はあまり食べられず、使い捨てトイレでしのいでいるところもあり、お年寄りたちには過酷な状況でした。

【2次避難の必要性と課題】
災害関連死を防ぐためにリスクの高い人たちの被災地外への2次避難が進められています。最も急がなければならないのが施設の高齢者です。

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災害派遣医療チームDMATは被災地の高齢者施設の入所者を被災地外の施設に移すことに力を入れています。ライフラインが復旧せず職員の疲労も限界に達していて、入所者の命が危険にさらされているからです。これまでに330人を移送しましたが、きょう(1月17日)現在さらに250人が待機していて、このうち37人は一刻を争う状態です。

DMAT事務局の近藤久禎次長は「高齢者施設における最低限の環境を整えて、そのうえでそれに耐えられない方々は域外に出していく。搬送が必要な人、その地域での生活には耐えられない、そういった方々がいまだに被災地におられます。その人たちを搬送しなければならない。それが一番の課題になっています」と話しています。

一方、石川県は被災地全域の住民に被災地外への2次避難を呼びかけています。

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旅館やホテルを2次避難所として無料で受け入れるもので、受け入れ先が決まるまで金沢市の1.5次避難所に滞在するケースもあります。

優先されるのは孤立した地区の住民、次に妊婦や高齢者、障害のある人などの要配慮者とその同伴者でまず命を守ることがねらいです。避難所の混雑を緩和し感染症のリスクを下げるねらいもあります。
3万人分が確保されていて、1500人あまりが2次避難をしています。

しかし過酷な環境の避難所にいても、2次避難をためらう人が少なくありません。

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被災した地域は高齢化率が50パーセントを超えていますが、地域のつながりが強く、ふるさとを離れることへの抵抗感が強いと言います。仕事があって離れられなかったり子育て環境に不安を感じたり、それぞれが事情を抱え、決断しかねている人も多いと考えられます。
2次避難を判断してもらうために何が必要でしょうか。

▼まずインフラ復旧のメドを示すことです。道路や水道がいつ復旧するのか、言い換えると水道のない過酷な生活をどのくらい続けなければいけないのか、地区ごとに示す必要があります。
▼2次避難先へ地域の人と一緒に移ることができるのか
▼どういう支援を受けられるのか
お年寄りにもわかるように、できるだけ丁寧に説明する必要があります。

ふるさとを離れるのは不安だと思いますが、お年寄りたちや無理をしてとどまっている人は、いったん旅館やホテルに移り、身体を休めてほしいと思います。

【長期避難を視野に入れたサポート体制確立を】
災害関連死を防ぐために、もうひとつ指摘しておきたいのは長期的な支援体制づくりです。被害の大きさから避難生活が長期化するのは避けられない状況です。
今2次避難の段階ですが、その先をいまから考えておく必要があります。

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現在は被災地から1.5次避難所か、2次避難所の旅館やホテルに移る段階です。その後は仮設住宅や、公営住宅や既存の民間賃貸住宅を借り上げる「みなし仮設住宅」に移ることになります。

全国の自治体が公営住宅での受け入れを表明していて、遠くの公営住宅や親戚宅に避難をする人もいて、被災者が広範囲に分散することが予想されます。

そして被災地のインフラが整って、全員が自宅を再建したり、災害公営住宅に入居したりできるようになるまでには、かなりの時間がかかると見られます。

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そこで次に心配されるのが、安全なはずの避難先に移っても、高齢者などが避難先で孤立することで体調を崩し死に至るケースです。これまでの災害での大きな教訓です。

では避難の長期化を見すえて、いま何に着手する必要があるのでしょうか。
3つあげたいと思います。

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まず2次避難所でも、その先の仮設住宅やみなし仮設住宅についても地区の人たちができるだけまとまって暮らせるように住まいを割り振る必要があります。

次に避難先ごとに高齢者など要配慮者をサポートする見守り体制を作る必要があります。そのためには受け入れた自治体や医療・福祉関係者、住民の協力が欠かせません。東日本大震災では避難先のNPOなどが被災者の見守り活動を担いました。国はそのための枠組みづくりを急いでもらいたいと思います。

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3つめは被災者の名簿づくりと共有です。
避難先が変わることで支え手も変わっていくことになります。支え手は当面、福祉や医療関係者やNPOなどですが、自宅の再建や修理、支援金などの手続きが始まれば法律や建築などの専門家も加わることが求められます。被災者の状況についての引継ぎが十分でないと対応を誤ったり、支援が抜け落ちたりする恐れがあります。

分散して避難する被災者も取り残さず、「支え手」が変わっても支援をスムーズに継続できるようにするため、被災者の状況や必要なサポート、受けてきた公的支援などの情報を行政が一元的に把握し、「支え手」と共有することが求められます。

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そのために行政は今から被災者名簿づくりに着手し、被災者からその人の情報を「支え手」と共有することに同意を得ておく必要があります。
2次避難所に入ったり、り災証明の手続きをしたりする際に名簿に記入し、同意を得るのがよいでしょう。
ラインなどSNSを使って被災者に登録をしてもらう方法も検討すべきです。

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過去の災害で多くの関連死を出してしまった教訓から作られた「災害ケースマネジメント」という被災者支援の手法があります。行政と医療や福祉、法律、建築などさまざまな専門分野の「支え手」が、被災者ひとりひとりに寄り添って生活再建まで継続して支援をするという考え方で、国は防災基本計画に明記し、自治体に取り入れるよう求めています。その実践のためにまず名簿の作成と共有が必要になります。

【まとめ】
「災害関連死」という言葉は、29年前のきょう、1月17日に起きた阪神・淡路大震災でできました。その後も大災害のたびに試みと失敗を繰り返し、関連死を防ぐための組織や仕組みがつくられてきました。危機にあるお年寄りたちなどを守るために、その経験と準備を最大限に生かしてほしいと思います。


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