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総統選挙で頼氏勝利 台湾情勢の行方は

宮内 篤志  解説委員

台湾で13日に行われた総統選挙は与党・民進党の頼清徳氏が勝利し、中国が警戒する民進党政権が継続することになりました。
一方、議会の選挙で、民進党は単独での過半数を失い、頼氏は厳しい政権運営を迫られることになります。
「統一は歴史の必然だ」とする中国の圧力が強まることも予想される中、今後の台湾をめぐる情勢について考えます。

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台湾総統選挙は、与党・民進党の頼清徳氏と副総統候補の蕭美琴氏のペアが558万6019票(得票率40.05%)を獲得。最大野党・国民党、野党第2党・民衆党の候補を破り、当選しました。
記者会見で頼氏は、「選挙イヤーの最も注目された最初の選挙で、台湾は民主主義陣営の勝利を成し遂げた」としたうえで、「民主主義と権威主義の間で、台湾は民主主義の側に立つことを選んで全世界に示した」と強調しました。
台湾では1996年に初めて総統の直接選挙が導入され、2000年以降は2期8年ごとに政権が交代しています。同じ政党による政権が3期続くのは初めてです。

今回の選挙戦では、頼氏のリードが伝えられる中、野党側は与党への批判票の分散を防ごうと、総統候補の一本化に向けて一時、歩み寄りましたが、最終的に協議は決裂。その結果、頼氏は2人を抑えて勝利しました。
しかし、頼氏の得票数は前回の蔡英文氏より大きく減り、政権の長期化に対する一定の批判もあったことがうかがえます。

では、頼氏の勝因はどこにあったのでしょうか。
私は、大きな争点となった中国との関係をめぐり、今の蔡英文総統の路線を継承することを強調した点にあったと思います。

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「台湾は中国の一部だ」と主張する中国は、台湾の「独立」の動きに神経を尖らせてきましたが、蔡総統はむしろ、台湾で多くの人々が望んでいるとされる「現状維持」を掲げながら、中国を刺激するのを避けるとともに、台湾防衛の最大の後ろ盾であるアメリカとの関係を強化してきたのです。
蔡英文政権では、中国の切り崩しによって、台湾と外交関係がある国は減りましたが、一方で、「民主主義」や「自由」といった価値観を共有する欧米や日本などとの連携に力を入れ、さらに中国への経済的な依存度を下げようと努めるなど、安全保障や経済の面で体制強化を図りました。
頼氏は、かつて「自分は現実的な台湾独立工作者だ」と発言したように、独立志向が強い人物とみられていました。
しかし、最近はこうした姿勢は封印し、「独立」をめぐる議論が大きく争点化するのを避けました。
さらに、副総統候補に台湾当局の駐米代表を務め、アメリカの政界に太いパイプを持つ蕭美琴氏を擁立したことも功を奏したといえます。

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一方、同じ日に行われた一院制の議会「立法院」の選挙では、民進党は議席を11減らし、単独での過半数を失いました。
今、台湾では、物価や不動産価格の高騰、それに若者の低賃金に対する不満が根強いとされます。
民進党が議席を減らした背景には、こうした課題に十分な成果を出していないという有権者からの厳しい目があったといえそうです。

民進党が少数与党となったことで、台湾の安全保障への影響も懸念されます。
頼氏は、同じく民進党で少数与党だった陳水扁政権を振り返り、アメリカから武器を購入する予算案が、国民党の反対によって69回にわたり阻まれたと批判しています。
頼氏は厳しい政権運営を迫られますが、最大野党の国民党も過半数にとどいていません。
このため、若者の支持を背景に勢力を伸ばした野党第2党の民衆党の動向が鍵を握ることになりそうです。

では、中国の反応はどうでしょうか。

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中国政府は談話を出し、民進党が議会で過半数を失ったことを念頭に「民進党が民意の主流を代表できないことが明らかになった」とけん制しました。
中国は、「1つの中国」という考え方を認めない民進党を強く非難し、対話を拒否してきました。
頼氏を名指しで「トラブルメーカー」などと呼んで警戒感をあらわにしていたほか、「台湾は平和か戦争かの選択に直面している」として、民進党政権の継続を阻むため、有権者を揺さぶろうとしました。
年明け以降、連日、台湾に中国からの気球が飛来したことなども、揺さぶりの一環という見方があります。
一方、中国は、対中融和的な国民党による政権交代を期待しました。
去年12月には、中国が輸入を禁止していた水産物について、「国民党の要望を受けたため」として輸入再開に踏み切るなど、露骨なほど国民党の顔を立てました。
しかし、頼氏が勝利したことで、中国の政治的な意図は、台湾の有権者に見透かされた可能性があります。
「統一は歴史の必然だ」とする習主席ですが、策を弄するほど、台湾の民意は離れているのではないでしょうか。

中国の今後の出方はどうなるのでしょうか。

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今の習近平政権は、習国家主席への権力の一極集中が進むあまり、政策が硬直化していると指摘されます。
民進党を敵視してきたこれまでの方針を大胆に転換するような柔軟な対応は難しいでしょう。
それだけに、台湾への軍事的・経済的な圧力はこれからも強まることが予想されます。
ただ、習政権は多くの課題を抱えています。経済の回復は思わしくなく、さらに国防相をはじめとする軍高官の失脚が相次ぎ、軍内部で動揺が広がっているとの見方もあることから、直ちに大規模な軍事行動に出る可能性は低いのではないかと分析する専門家もいます。
中国はむしろ、民進党が議会で過半数を失ったことに着目し、国民党を中心に野党側を懐柔しながら、対中政策の分断を図ろうとするとみられます。

その中国との対立で、台湾が大きな争点となっているアメリカは、どうでしょうか。

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ブリンケン国務長官は声明を出し、「台湾の人々は確固たる民主主義の制度と選挙プロセスの強さを示した」と歓迎しました。
さらに非公式の代表団を台湾に派遣し、頼氏との緊密な連携を確認しました。
しかし、バイデン大統領は記者団の質問に答えた際、「われわれは台湾の独立を支持しない」とくぎを刺しました。
中国による一方的な現状変更に反対するものの、台湾独立も支持しないという従来の方針に変わりはないと念を押したものです。
ウクライナや中東の先行きが見通せない中、台湾も加えた「3正面」で対応を迫られる事態を避けたいと考えているのかもしれません。
11月に大統領選挙を控える中、アメリカが中国との関係をどう安定させるかが、台湾情勢の大きな焦点となりそうです。

では、日本は、台湾とどのように向き合うべきでしょうか。
戦後の長い間、一党独裁による弾圧に苦しみながらも、民主化を成し遂げた台湾の人々の努力は高く評価されるべきだと思います。
中国がみずからに都合のよい国際秩序を作り出そうと躍起になる中、東アジアの安定のためにも、台湾の民主主義を支持していく姿勢が問われていると思います。

頼清徳氏は5月に総統に就任します。
就任演説で中国との関係について、どのような考え方を示すのか。それに中国はどのように反応するのか。
台湾、そして東アジアの情勢はことしも緊張をはらんだ状況が続きそうです。


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