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2024年世界経済の課題 世界銀行の最新の予測は?

櫻井 玲子  解説委員

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ロシアによるウクライナ侵攻や、イスラエルとハマスの紛争が続く中、ことしの世界経済の成長率が去年をさらに下回り、3年連続で減速する、という見通しが世界銀行から発表されました。
不透明な国際情勢を背景に、各国の間の貿易や投資が細り、日本、アメリカ、中国のいずれもが景気減速に直面すると予想されているからです。
2024年の世界経済の展望とリスクについて、考えたいと思います。

【ことしの経済成長、またしても3%を下回る予測】

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まずは世界銀行が発表した最新の見通しです。
ことしの世界経済の成長率は2.4パーセント。
ロシアのウクライナへの侵攻が始まった2022年の3%、去年の2.6%に続き、3年連続で減速するという予測です。
新型コロナウイルス感染拡大前の10年間の平均成長率、3.1%を大きく下回る、低い成長が予想されています。
国別にみると、
▼アメリカは、去年、物価高を抑えるために利上げした影響が、ことし、より鮮明になり、去年より1パーセント近く、成長の伸びが小さくなるとみられています。
▼中国も、成長が減速する見込みです。
不動産市場の低迷や、個人消費の冷え込み、若者を中心とした高い失業率を背景に、コロナ禍を除くと、過去30年あまりでもっとも低い水準になるとしています。
▼そして日本も、コロナ禍からの回復が一服し、去年は1.8パーセント成長だったのが、ことしは0.9パーセントと、半分程度にとどまる予想です。

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国際情勢の悪化も、暗い影を落としています。
経済成長を支えるはずの世界貿易は、去年は前年比で、ほぼゼロ成長。
この半世紀で最も伸びが低くなりました。
2024年も、2.3%の低い伸びにとどまる予測で、その低成長のしわ寄せは、途上国に及びそうです。
去年からことしにかけての、途上国の国民一人あたりの投資は、過去20年間の平均の、半分程度にとどまるとみられます。
多くの途上国の収入源になっている資源や食料も、ことしは、価格が去年より下落する見込みです。
このため世界銀行は途上国各国に、景気循環を和らげる、安定的で規律のある財政運営や柔軟な為替政策、をとるよう促しています。
チーフエコノミストのインダーミット・ギル氏は低成長の影響で途上国に必要な資金が入っていかないことについて「大幅な軌道修正がない限り、2020年代はさらなる成長や貧困克服の機会を無駄にした10年として語り継がれることになるだろう。多くの貧しい国では巨大な債務を抱え、3人に1人が食料の確保もままならない状況が続く」と警鐘を鳴らしています。

【3つのリスク リスク①海上物流の停滞】
さて、今、さらに心配されているのは、実態がこの世界銀行の予測より一層悪くなるおそれもあるということです。
そこで3つのリスクに焦点を当て、詳しくみていきたいと思います。

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一つ目は、中東における紛争がさらにエスカレートすることや気候変動の影響により、海上物流が停滞するリスクです。
こちらは世界の主なチョークポイント、戦略的に重要な海上水路を示した地図です。
チョークとは英語で首根っこを押さえることを指しますが、今、関心を集めているのが、ヨーロッパとアジアを結ぶ海上輸送の要である紅海と、それに連なるスエズ運河です。
イスラエルとハマスの紛争に呼応し、イエメンの武装勢力・フーシ派が紅海で相次いで船舶を攻撃しています。
これに対抗し、アメリカ軍とイギリス軍が合同で、フーシ派の拠点への攻撃を始めました。
海運会社は紅海を通ることを見合わせ、アフリカの喜望峰をまわる、より遠い迂回ルートに切り替えることを余儀なくされています。
中東の紛争がさらに周辺の国を巻き込む事態に発展すれば、スエズ運河を経由する航行ルートをとるのが事実上できなくなります。
一方、大西洋と太平洋を結ぶパナマ運河では、干ばつの影響で水位が下がり、通航が制限されています。
現地では雨不足、水不足が以前より頻繁に起きており、気候変動の影響が指摘されています。
海上物流が滞り、輸送に時間がかかったり、保険料があがったりすれば、コストがかさみ、インフレを再燃させかないだけに、その動向が注目されます。

【リスク②中国経済の悪化】

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二つ目のリスクは、中国経済です。
世界銀行は中国の不動産市場がさらに悪化し、家計支出が悪化すれば、コロナ禍を除いてこの30年で最低の水準という、4.5%成長の予想から、さらに、1ポイント下方修正となる可能性を指摘しています。
また来年以降も、高齢化がすすんで潜在成長率が下がるとみていて、今年より弱い、4.3パーセントに減速すると予測しています。
中国が力強い成長軌道に戻る気配がないのは、海外から中国向けの直接投資額が急減していることも背景にあります。
去年7月から9月の投資額は、1998年の統計公表開始後、初めてのマイナスとなりました。
去年夏にはアメリカのレモンド商務長官が北京を訪問し、「中国はリスクが高すぎて、投資できない国になりつつある」というアメリカ企業の声に言及する一幕もありました。
中国は秋以降、対米外交、対日外交がこれ以上悪化しないよう、微妙な変化もみせていますが、各国の企業からさらなる投資を引き出せるかは、習近平体制の覇権主義的な動きへの懸念を払しょくできるかにかかっています。
13日の台湾総統選の結果などに対する中国の姿勢を、ほかの国がどうみるかも、一つのカギになりそうです。

【リスク③世界の「ブロック化」定着か】

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そして3つ目は、世界の対立構造が固定化し、いよいよブロック化していくかが焦点です。
例えば、アメリカの最大の貿易相手国は中国からメキシコへと、すでにシフトが始まっています。
原油の輸入も、中東ではなく、カナダからが増えています。
一方、ロシア産の原油は中国やインドが買っており、ロシアに対する欧米の制裁の効果を弱めています。
1月からはイラン、サウジアラビアなど5か国が新たにBRICSに加盟し、世界のブロック化がさらにすすむことも懸念されています。
また、輸出規制を導入する国も増えています。
アメリカは中国に対して半導体やAIの分野で輸出管理を強化。
これに対し中国も車載用電池などに使われる天然黒鉛の輸出を許可制にすると発表しています。
こうした動き、米中・二か国にとどまりません。
世界シェア4割を占める最大のコメ輸出国インドは、国内の安定供給を理由に、去年、一部のコメに、輸出規制をかけました。
結果、世界のコメ価格は27%も上昇しました。
このような輸出規制が思わぬ価格高騰を招き、途上国をはじめ多くの国に打撃を与える可能性があります。
ことしはロシア、インド、アメリカなどで重要な選挙を控え、戦争をおわらせたり、対立を抑えたりしよう、という、リーダーシップの欠如も心配されています。

日本はことしこそ実質賃金の上昇や暮らし向きの改善が期待されていますが、2024年は海外の動向にいつも以上に警戒を怠ることができない一年になりそうです。
国際情勢を安定させるための外交努力を尽くしながら、人々の生活を守るために、自らの経済の足腰を強くすることが求められていると思います。


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