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問われる政治の覚悟

伊藤 雅之  解説委員長

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ことしの日本の政治は、能登半島地震への対応で国民の命と暮らしを守ること。そして、政治とカネをめぐる問題で、国民の信頼を取り戻す道筋をつけることができるのかという課題に直面しています。ことし問われる政治の覚悟について考えます。

【能登半島地震対応】

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岸田総理大臣は、年明け、二つの課題に先頭に立って取り組む考えを強調しました。
最優先の課題は、能登半島地震への対応です。記者会見で、「令和に入り最大級の災害で、被災地、被災者に寄り添い、努力しなければならない」と述べました。
被災地は厳しい寒さによって低体温症などで、避難生活の中で命を落とす災害関連死が強く懸念されています。被害の全容をつかみ、必要な支援を迅速に届け、被災者の命を守らなければなりません。
また、家や仕事を失った被災者の生活の再建や地場産業など被災地の再生に向けた息の長い支援も必要です。
さらに、被災した地域は、人口減少と高齢化が進み、行政や地域の支えあいにも限界があります。こうした地域で災害への備えをどう進めるのかも考えていなかなければなりません。
岸田総理は、与野党の党首と会談し、「災害対応に万全を期す点で、与野党の立場に違いはない」と述べたうえで、新年度予算案について、内容を変更して予備費を増額する方針を伝え、早期成立に協力を要請しました。
国民の命と暮らしを守ること、国民の安心・安全、将来に対する不安を取り除くこと。これは政治本来の役割です。その役割を果たす覚悟が、いま、与野党を超えて求められていると思います。

【政治資金問題】

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もう一つ岸田総理が先頭に立つとしたのが、自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題です。「国民の政治への信頼を回復すべく、自民党の体質を刷新する取り組みを進めていく」と強調しました。そして、総裁直属の「政治刷新本部」を発足させ、政治資金の透明性の拡大や派閥のあり方に関するルール作りを進める方針で、今月中に中間的な取りまとめを行い、必要に応じて関連法案を国会に提出する考えを示しました。

【事態の深刻さ】

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私は、今回、これまでの政治とカネをめぐる問題とは違った深刻さがあるとみています。
まず、問題の広がりです。政治資金規正法違反の疑いで池田佳隆(いけだ・よしたか)衆議院議員が逮捕される事態になっていることに加えて、最大派閥の安倍派と二階派が捜査対象になり、不適切な資金の処理があったとされる派閥や国会議員、議員側の政治団体の数が多く、その額も億の単位という多額に上っています。
これに対して、自民党、各派閥からは、捜査中であることなどを理由に、実態について十分な説明は果たされてはいません。
さらに指摘しておきたいのは、自民党内で、この問題に対する具体的な行動が目立っていないことです。30年あまり前、リクルート事件の際には、議員が勉強会を作って改革案を提言したり、若手議員が改革を断行するよう執行部を突き上げたりもしました。事件の捜査状況を見極めたいという面もあるのかもしれませんが、今回、議員の多くが口をつぐむ背景に、不適切な資金の処理が日常化し、疑問を感じなかったうしろめたさ。世話になった派閥や有力者にはモノが言えないというような配慮があるのだとすれば、自民党の党運営が派閥依存の体質になっている深刻な事態を浮き彫りにしているともいえます。

【派閥をどう考える】

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派閥は自民党の正式な機関ではありません。
リーダーを総裁に押し上げようとするグループという性格に加えて、政府や党、国会の人事は、派閥の意向も踏まえて、調整やポストの割り振りが行われてきました。また、選挙の支援や若手議員の指導、有望な新人を発掘する役割も果たしてきました。さらに、政策や政権構想を取りまとめ、党の方針やトップの政局に対する考え方など情報を共有する場でもあります。
しかし、議員が派閥のために資金を集め、派閥から資金の提供を受ける。それが議員を囲い込む原動力となっているのではないかと批判されてきました。
リクルート事件の後、平成元年に取りまとめられた自民党の「政治改革大綱」では、「政治倫理」「政治資金」「選挙制度」「国会」という柱とともに「党改革」の最終的な目標として、「派閥の解消」を打ち出し、派閥の弊害を取り除くとしています。
党の体質を刷新するというのであれば、政治刷新本部で、派閥の解消を含めた議論が行われるのかどうかが、焦点になりそうです。
党の主導権を得るために、人のつながりでグループができることは否定できない側面はあります。岸田総理は「派閥のあり方に関するルールを作る」という考えを示し、派閥の存在を必ずしも否定はしてはいません。派閥の存在を認めるのであれば、派閥がなぜ必要なのか、派閥のどこに問題があり、何を改めるのか、自民党、そして各派閥のリーダーが自らの言葉で国民に明確に説明すべきではないでしょうか。

【国会での議論は】

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では、国会で各党は、実態解明と再発防止に向けた取り組みをどう進めるべきか考えます。衆参両院には、▽議員が法令などに違反し、政治的道義的責任があるかどうかを審査し、勧告を行う「政治倫理審査会」があります。▽政治倫理の確立と公職選挙法改正に関する特別委員会は、政治資金規正法の改正案を取り扱います。しかし、多くの場合は、衆参の予算委員会が、実態解明と再発防止の方向性を議論する場となってきました。
ただ、今月召集される通常国会で議論が始まる予算委員会では、能登半島地震への対応や新年度予算案に盛り込まれた物価高対策、賃上げ、少子化対策、防衛力の強化とその財源、外交・安全保障の基本方針など議論すべき重要課題が山積しています。
こうした課題の議論をおろそかにしてはなりません。予算委員会だけでなく、政治倫理審査会や特別委員会を並行して開くなど、議論の場を仕分けて、重要政策の議論も十分にできる工夫を与野党に求めたいと思います。

【政治資金規正法は】

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再発防止を考えるうえで、ポイントとなるのが政治資金規正法を見直すかどうかです。論点は、すでに明確になっています。政治資金パーティーについては、現在、1回20万円以下ならば購入した人や金額を収支報告書に記載する義務はありません。この公開基準を引き下げるかどうか。
罰則の強化をめぐっては、立憲民主党、与党の公明党などからは、政治資金規正法に会計責任者だけでなく国会議員も処罰の対象とする連座制の導入。国民民主党からは、政治資金で問題があった政党の政党助成金を減額する措置を検討すべきだという意見が出ています。日本維新の会と共産党は、企業団体献金を禁止すべきだとしています。

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政治資金をめぐっては、さらに課題もあります。政党助成金の制度があることを踏まえ、新たなに独立した機関を設け、政治資金をチェックすべきだという意見もあります。これは、政治資金の問題解決を政党や政治家に委ねてよいかという論点になります。
政党によって、政治資金の集め方や党の財政基盤は大きく異なります。また、政治資金そのものを集めにくくするような規制や制限を強めることで、金持ちや資産家でなければ政治家になれないような事態は望ましくないという指摘もあり、合意形成は容易ではありません。しかし、政治とカネをめぐる問題が後を絶たず、事件の捜査によって是正されることが繰り返され、政治の対応が先送りされれば、国民の不信は解消されません。

【まとめ】
能登半島地震への対応に万全を期し、内外の重要課題に十分な議論を行いながら、
与野党が、今月召集される通常国会で政治とカネをめぐる問題で実効性のある答えを出し、国民に説明を尽くし理解を得られるか、政治に、これをやり遂げる強い覚悟があるかどうかが問われています。


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