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「こども未来戦略」決定 少子化に歯止めかかるか

岸 正浩  解説委員 成澤 良  解説委員

政府は、次元の異なる少子化対策の実現を目指して、「こども未来戦略」を決定しました。日本の少子化に歯止めがかかるのか。また、厳しい財政状況の中、財源をどのように確保していくのか。対策の評価や課題について、政治面から成澤委員が、財政面から岸委員が考えます。

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岸)
まず、日本の少子化の状況から見ていきます。

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去年、生まれた子どもの数は過去最少の77万人あまり。1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標も1.26と最も低くなりました。少子化に伴い、人口減少も進んでいます。なかでも、急速に出生数が下がった2000年以降に生まれた人たちが30代を迎える2030年までに対策をとらないと、その後、経済や社会システムの維持ができなくなるおそれもあります。そこで、岸田政権は、2030年までが少子化トレンドを反転できる「ラストチャンス」として、「こども未来戦略」を決定しました。
成澤さん、対策は数年をかけて行われますね。

成澤)
政府は、今後3年間を集中取組期間としています。

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具体的には、児童手当が拡充されます。2024年10月分から、支給対象が中学生までから18歳までに広がります。所得制限を撤廃し、▼0歳から3歳未満は1人あたり月額1万5000円、▼3歳から18歳の年度末までは1万円を支給します。▼3人以上の子どもを扶養する世帯では、第3子以降は3万円に増額します。
ただ、児童手当の拡充に伴い、16歳から18歳までの扶養控除は縮小する案をもとに議論が行われていて、2024年に結論を得ることになっています。児童手当の拡充と扶養控除の縮小を組み合わせても、すべての所得層で手取りが増える設計にするということですが、与党内では「アクセルとブレーキを同時に踏むようなもので、異次元の対策にならない」と懸念する声が出ています。

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大学の授業料を減免する支援も強化されます。2025年度からは、3人以上の子どもを扶養する「多子世帯」を対象に所得制限を撤廃し、大学の授業料は、全国平均などを目安に、国公立で54万円、私立で70万円を上限に補助します。大学の入学金も上限付きで補助することにしていて、「多子世帯」では“実質的に”無償化されるとしています。
政府が「多子世帯」への経済的な支援を手厚くする背景には、子育てや教育にお金がかかりすぎるので、理想の人数の子どもを持てないと考える人たちが多いことがあります。少子化トレンドを反転させるためには、「子ども3人以上を」という指摘が出ていますが、夫婦の理想や予定の子どもの数は2人あまりという調査結果もあります。さらなる対策が必要になる可能性もあると思います。

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「こども未来戦略」では、経済的な面だけでなく、子どもや子育て世帯を切れ目なく支援することを掲げています。親が就労していなくても子どもを保育所などに預けられる「こども誰でも通園制度」は、2024年度に一部の自治体で試験的に導入し、2026年度には全国すべての自治体での実施を目指しています。
子育てにあたっては、夫婦で仕事と家事・育児にあたる「共働き・共育て」の推進も重要です。育児休業の取得を促すため、両親が共に14日以上取得した場合、手取りの収入を、今の休業前の8割相当から10割相当になるよう給付率を引き上げる方針です。給付率は28日間を上限に引き上げます。2025年度からの開始を目指しています。
岸さん、こうした給付やサービスを実現するには、かなりの規模の予算が必要になりそうですね。

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岸)
これだけのメニューだけあって、政府は、2026年度までに年間3兆6000億円程度まで予算を増やす予定です。▼経済的な支援の強化などで1兆7000億円程度、▼子ども・子育て世帯への支援拡充で1兆3000億円程度、▼共働きや共育てを推進するために6000億円程度、増やすとしています。
一方、課題は財源です。政府は、2026年度より先の2028年度までに安定的な確保をすると説明しています。▼すでにある子ども・子育てに関連する予算などを最大限活用することで1兆5000億円程度、▼医療や介護などの歳出改革で1兆1000億円程度、さらに、▼企業や国民から広く集める「支援金制度」を創設して1兆円程度、それぞれ、ねん出するとしています。ただ、対策が始まってから安定的な財源が確保できるとする2028年度まで期間があることから、つなぎとして、国債を発行せざるをえません。

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「支援金制度」のあり方も気になるところです。政府は、2026年度から公的医療保険を通じて集め始め、2028年度には全体で1兆円の規模とする見通しです。その時の負担額は、医療保険の加入者1人あたり月に数百円程度になるとみられています。これについて、政府は、支援金を集めても、歳出改革を進めるとともに、賃上げによって、「国民に実質的な追加負担は生じないようにする」と説明しています。ただ、社会保障費が拡大する中で、歳出改革を進めて医療や介護などの給付を抑えていかなければ、ゆくゆくは負担が生じる可能性も否定できません。政府は、歳出改革への取り組みと実質的な追加負担の意味について、丁寧な説明が欠かせないと思います。
成澤さん、岸田政権はどう対応するのでしょうか。

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成澤)
岸田総理大臣も、これまでの国会答弁で、「賃上げと歳出改革で国民に実質的な追加負担は生じさせない」と述べていますが、具体的で明確な道筋を示した説明とは言えないのではないでしょうか。また、今は、自民党の派閥の政治資金をめぐる問題で、政権の“体力”が奪われています。野党側から「裏金疑惑」と指摘され、国民の不信を招く中、年末の予算編成や税制改正の検討にあたっては、「国民の負担増につながる議論ができる環境になかった」という指摘も出ています。政府は、社会全体で子どもや子育て世代を応援するという機運を高め、社会の意識改革を図りたいとしています。そのためには、政治のリーダーシップが重要で、政治への信頼回復は不可欠です。岸田政権が政策の“一丁目一番地”に掲げる持続的な賃上げとともに、少子化に歯止めをかけるという結果を出せなければ、国民の信頼がいっそう揺らぐ可能性も否定できません。

岸)
今回、少子化対策の財源が議論され、介護サービスの利用料で2割負担の人を増やす案も検討されましたが、実施は見送られました。財源が限られる中で、誰がどの程度の負担を負っていくのか、議論を尽くす必要があると思います。さらに、政府には、少子化の背景にあるとみられる若者たちの将来不安の解消や働き方の見直しなど、日本社会が抱える課題にも正面から取り組むことを求めたいと思います。


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