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来年度政府予算案~少子化対策などの財源確保はどれだけ進んだ???

神子田 章博  解説委員

来年度の政府予算案がまとまりました。少子化対策の大掛かりな拡充など、巨額の歳出が見込まれる中で、財源の確保は進んでいくのか。また巨額の予算の使い道は、きちんと説明がつく形で明らかにされているか。こうした問題について考えてゆきたいと思います。

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解説のポイントは3つです。
1)膨らみ続ける国債発行総額
2)重要政策の財源は確保されたか
3)コロナ禍からの正常化 道半ば
です。

1) 膨らみ続ける国債発行総額

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まず予算案の内容についてみてゆきます。
政策に使う一般歳出は、医療や介護などの社会保障関係費が、急速に進む高齢化を背景に、37兆7200億円程度、防衛力を増強する中で、防衛費が7兆9200億円程度と、いずれも今年度当初予算に比べて大幅に増えました。さらに過去に発行した国債の金利の支払いための歳出も、長期金利が急騰する中、想定金利を17年ぶりに引き上げたことで、一気に1兆2200億円程度増えて、9兆6900億円程度にのぼり、一般会計の歳出は総額で、112兆700億円程度となりました。一方で、歳入面では税収が69兆6100億円程度で、足りない分を補う新規の国債発行額は、34兆9500億円程度となり、財源の3割以上を国債に頼ることになります。その結果来年度末の国債発行総額は、1105兆円に達する見通しで、厳しい財政状況が続きます。

2) 重要政策の財源は確保されたか

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さて来年度予算をめぐる焦点の一つが、政府が打ち出したこども未来戦略を実現するための財源の確保です。政府は、児童手当の所得制限を撤廃したうえで支給対象を18歳までひろげることや、両親がともに育児休業を取得した場合、一定の条件のもとで、育児休業給付の給付率をひきあげるなど、少子化対策の拡充を打ち出しています。その実現には、2028年度までに、現在の8兆6000億円に加えて、3兆6000億円程度の追加的な財源を確保する必要があるとして、歳出改革や、すでにある予算の枠組みの活用に加え、医療保険などから財源を確保する「支援金制度」を新たに創設する計画です。

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このうち支援金制度は、企業や個人が資金を拠出する医療保険などを通じて1兆円程度を確保するというもので、国民にとっては新たな負担が懸念されます。
これについて政府は、医療機関に支払われる診療報酬などについて、人件費にあてられる本体部分を含めて減らし、そこで浮いた資金を支援金の財源にまわすことなどで、国民の追加的負担を抑えたいとしてきました。

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しかし、来年度は、他の産業に比べて低く抑えられている医療や介護従事者の賃上げも重要な政策課題です。結局来年度は、本体部分は前の年に比べて0.88%の引き上げ。一方、医薬品などの公定価格を決める「薬価」は1%引き下げられ、トータルで1700億円程度の負担削減を実現したとしています。しかし、そこには医療従事者の人件費の増加分はカウントされていません。人件費の増加分を計算に入れた場合には、負担削減は1700億円より低い額となります。計算に入れない理由について政府は、医療や介護などの公的な報酬の引き上げが、社会全体の賃上げにつながり、保険料収入が増加する部分があるので、それでカバーできるからだ、と説明しています。理屈はともかく、「とらぬ狸の皮算用」のように思えてなりません。
今年は防衛費拡大の財源を確保するための増税の開始時期の決定も、自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題の影響を受け、先送りされました。巨額の歳出が必要となる政策に財源の確保が追い付いてこなければ、財政のさらなる悪化を招きかねません。確実な財源を確保する取り組みが引き続き求められています。

3) コロナ禍からの正常化 道半ば

さて、来年度予算をめぐって政府は、今年6月、「コロナ禍を脱し、経済が正常化していく中で、歳出構造を平時に戻していくよう取り組む方針を打ち出していました。実際にはどうなったのか見ていきます。

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国の予算の規模は、以前は、100兆円前後で推移してきたのが、新型コロナの感染が広がった2020年度には、175兆円まで広がり、来年度予算でも縮小としたとはいえ、110兆円を超える規模となっています。なかでも気になるのが、自然災害への対応など予見しがたい歳出の予算をあらかじめ用意しておく予備費です。

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予備費は、予算の要求段階では、大まかな使い道しか決めず、内閣の判断で使用できるもので、コロナ前は5000億円でしたが、2020年度にはコロナ対策で10兆円近い額が上乗せされ、その後も、物価高騰対策やウクライナ対応などの名目が加わり、巨額の上乗せが続いています。

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来年度予算の予備費の上乗せ分は1兆円で、今年度を下回るとはいえ、1兆円という額は、リーマンショック時の対応と同じ規模で、平時に戻ったとはとてもいえません。
さらに、予備費の問題は、規模が巨額となっているにも関わらず、国の決算報告で、それがどの事業にいくら使われたかわからない仕組みになっていることです。どういうことでしょうか。

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ある事業に対して、Xという金額の予備費が使われたとします。しかしこの事業には、当初予算からYという金額があてられています。一方で、政府の予算は、事業ごとに管理するとされており、国会に提出される歳出決算報告書では、XとYを合わせた金額のみが示される決まりになっています。このため予備費がどの事業ごとにいくら使われたのかがわからない仕組みになっているのです。
こうした中で、政府から独立した立場で予算の執行をチェックする会計検査院は、令和2年度から3年度にかけてのコロナ関連の予備費の使われかたを検査しました。この中で、各省庁に対し、予備費の執行状況を事業別に把握していないかたずねたところ、実は各事業の担当部局ごとに、事業ごとに使った予算を記録する管理簿があることがわかりました。

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そのデータを集めたところ、例えば令和3年度の予備費では、営業時間の短縮などの協力要請のための事業が3兆965億円、ワクチン確保の事業に必要な経費に1兆6085億円など、巨額なものから、比較的規模の小さいものまで、事業ごとの詳しい支出の内容が初めて明らかになったといいます。予備費は、他の当初予算のように、事前に細かい使い道についてあらかじめ国会の承認を得ていません。それだけに、適切に使われていたのか、事後に検証できるようにするためにも、予備費の実際の使われ方について適切な情報開示が求められていると思います。

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さらに各省庁が予備費の予算を要求する際には、その予算が年度内に執行されることが前提となっています。にもかかわらず、予備費の要求を年度末に近い3月下旬などに行い、その予算の執行が全額翌年度に繰り越されたケースが、調査の対象となった2年間で、あわせて18件もあったといいます。この一部のケースについて、会計検査院が「年度内の事業の完了を想定していたのか」と確認したところ、その答えは「判然としなかった」としています。理由や経緯について納得のゆく説明が得られなかったものと見られます。予算を使う側の説明責任が問われています。

さて、毎年京都の清水寺で発表される今年の漢字は「税」でした。私たちが払う税金は、本当に必要な事業に、効果的で、無駄のない予算として使われているのか。政府には、事前のわかりやすい説明と事後の報告を真摯に、怠りなく行ってもらいたいと思います。


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