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日大アメフト部廃部の波紋

小澤 優子  解説委員

ことしは大学の運動部員による薬物事件が相次ぎました。
なかでも注目を集めたのが日本大学のアメリカンフットボール部の部員による薬物事件です。2018年にいわゆる悪質タックル問題でチームの管理体制が批判を浴び、再建を図ってきたはずのアメフト部で起きた今回の薬物事件。
大学は12月15日に廃部を決め、83年の歴史を持つ伝統チームの廃部は波紋を呼びました。
しかし、12月21日になって新しい部を立ち上げる方向性が示されました。
日大アメフト部を巡って何が起きているのか。
そして学生スポーツはどうあるべきなのか考えます。

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まずは経緯について振り返ります。

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最初にアメフト部員が逮捕されたのは2023年8月5日でした。
事件を受け8日に行われた大学の会見で、2022年10月から11月にかけて大麻使用に関する情報提供や部員から「大麻と思われるものを使用した」と自己申告があったにもかかわらず警察に正式に通報するなど、適切な対応を取らなかったことや、7月6日に寮内で大麻と疑われる植物片を発見したにもかかわらず、すぐに警察に届けず保管していたことなどが明らかになりました。

2018年の悪質タックル問題もあり、もともと日大アメフト部に対する世間の目が厳しかったことに加え、のちに第三者委員会によって「事実を矮小化する姿勢」や「ガバナンスの機能不全」と指摘された大学の対応もあり、世間の批判は高まりました。

大学のアメフト部への対応も二転三転。
部員の逮捕を受け無期限の活動停止処分にしたものの、その5日後に処分を解除。
しかし再び寮が捜索されたことなどを受け、9月1日に部を再び無期限の活動停止としました。

そして、11月28日に大学の競技スポーツ運営委員会で廃部の方針が示され、12月15日に廃部が決まりました。

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1940年に誕生し83年の歴史を持つ日大アメフト部。
チームカラーの赤と「フェニックス」の愛称で知られ、1959年から40年以上監督を務めた篠竹幹夫氏の指導のもと、「ショットガン」と呼ばれるパスを多用する攻撃のフォーメーションで日本のアメリカンフットボール界を席けんしました。
学生日本一を決める甲子園ボウルの優勝21回、日本一を決めるライスボウルでも優勝4回の輝かしい成績を残しています。

廃部の方針が明らかになると、さまざまな意見が出ました。

「複数の逮捕者が出た時点で廃部はしかたがないだろう」という意見がある一方、事件に関係していない部員までが「廃部」という形で連帯責任を問われることに疑問を示す意見もありました。
インターネット上では廃部撤回を求める署名活動が行われ、およそ3万の署名が集まりました。

大学の対応を巡っては学生ファーストの姿勢が見られず、学生が置き去りになっていることに疑問を感じざるを得ませんでした。

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廃部の方針が決まった際、監督からメッセージアプリを通じて連絡があったのみで、説明会が開かれたのは部員に方針が伝えられた8日後の12月6日でした。

NHKの取材に応じた部員は、「物事が起きるたびに世間の人たちと一緒に知るような感じだった」「大学側とはまったく話し足りないので、大学側と部員全員が話す機会をつくってもらいたい」と話しており、納得できる説明がないと訴えました。

企業やスポーツのガバナンスに詳しい名古屋学院大学の坂東洋行教授は、「学生自治を優先し、学生にとって不利益な処分がある時は、 学生の意見を聞かなければいけない」とし、「自分たちがその不祥事をどう受け止めて自分たちでどう解決しようとしているのか、まず学生に話をさせる。廃部の方針を決める前に大学はそういった機会を設けるべきだった」と指摘しています。

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様々な意見が出る中、12月15日の臨時理事会には部員も出席して廃部の撤回を求める意見を述べる場が設けられましたが、廃部が決まりました。

廃部の理由について、益子俊志スポーツ科学部長は12月4日の会見で、「当初は、最初に逮捕された学生の単独犯だと判断したが、 大学が管理する寮での集団的、常習的なものでないかという結論になった。大学として安全配慮義務があり、部を継続することで学生や部員の安全を担保できないという結論に至った」と説明しています。

3人が逮捕され、警察による捜査が続いている状況。
裁判で部員が薬物を使っていた部員を「10人程度だと思う」と話している状況などを考えれば、廃部の決定を明らかにした際に大学が「断腸の思い」とコメントした通り、非常に重い決断だったと思います。

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ところが12月21日になって、新たな情報が入ってきました。
大学は部員や保護者などを対象に開いた説明会の中で、新たな部を立ち上げる方向性を示したというのです。

具体的な結論は出ていないもののこれまでどおり予算面で優遇され、推薦入学で入部する学生も受け入れられる部を目指しているようです。

「廃部」という結論はいったい何だったのでしょうか。

3年生以下の部員はおよそ80人。推薦で入学する予定の高校生もいます。
受け皿をつくることは大切ですが、部員たちからも「すぐに新しい部を作るのになぜ廃部にしなければならなかったのか」と不満の声が上がっています。

依然として厳しい目が大学に向けられる中、新しい部が「看板のかけかえ」にならないようにして欲しいと思います。

続いて学生スポーツでこうした不祥事が起きないようにするためにはどうしたらいいのでしょうか。

11月30日に日大が国に提出した改善計画などをまとめた「今後の対応方針」の中では部活動が教育の一環であることを明確にし、▽競技の観点だけでなく、レポートや課題の提出状況や取得単位をモニタリングすることや▽学力の担保を明確にできる新たな入試制度の導入も検討することなどが盛り込まれています。

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坂東教授はこうした取り組みについて、「競技実績者などに競技部の運営を任せっきりにすると、どうしても競技結果のみが優先され、学生の学業成績や生活面の指導が疎かになり、不祥事を起こしやすい構造になる。大学のガバナンスとして、大学教員がクラブの運営に積極的に関わり、学業成績等のモニターをしていくことは、どこの大学にも共通する課題だと認識している」としています。

大学の運動部、スポーツ部といえば、学生が主体的に運営するものでしたが、最近は大学が運営に関わろうという流れがあります。
大学スポーツを統治する団体として2019年に発足したUNIVASという組織があります。
この団体では大学が運動部やスポーツ部に積極的に関与するようよびかけている他、不祥事への対応やガバナンス向上のための手引書を作り大学を支援しています。
また、不祥事の芽を摘むため、学生向けにコンプライアンスを学んでもらうための5分間の動画5本作成。こちらは1万5000回以上視聴されているということです。

大学でスポーツをしている学生の多くが卒業までの限られた時間の中で、仲間たちと1試合でも多く、1日でも長く戦いたいという思いで、日々、練習に取り組み、競技に打ち込んでいます。
日大アメフト部の廃部を巡っては大学の一連の対応で、事件に関与していない多くの部員が振り回されています。
今回のことで、大学が学生スポーツにどう向き合っていくのか。
考える機会にしなければいけないと思います。


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