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信頼を得られるか マイナ保険証

岸 正浩  解説委員 牛田 正史  解説委員

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マイナンバーカードを巡るトラブルを受け、政府が総点検の結果を公表しました。
岸田総理大臣は、予定通り来年秋に今の健康保険証を廃止し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行する方針を表明しました。
マイナンバーとマイナ保険証の課題や今後のあり方について考えます。

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そもそもマイナンバーは「住民票をもつ、日本に住むすべての人」にひも付けられた12桁の番号です。
この番号と氏名や顔写真などが載っているマイナンバーカードを所有すると、コンビニエンスストアで住民票などを取ることができます。
また、ネット上の専用サイト「マイナポータル」で番号にひも付けた様々な個人情報を閲覧することができます。
このうち健康保険証の情報をひも付けて、マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにしたものが「マイナ保険証」と呼ばれます。

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しかし、マイナンバーを巡っては本人以外の誤った情報がひも付けられているミスが相次いで発覚。
政府がことし6月から総点検に乗り出し、このほど最終報告がまとまりました。
その結果、自治体などから集めた8200万件あまりのデータのうち、あわせて8351件のひも付けミスが見つかったということです。
このうち、▼他人の健康保険証の情報が登録されていたケースが1142件ありました。
これとは別に、今回の総点検以外に行われた調査結果も合わせると、8695件ミスが見つかっています。
それ以外にも▼マイナンバーに他人の障害者手帳がひも付けられたケースが5645件
▼国の給付金などを受け取る公金受取口座に、他人のマイナンバーがひも付けられたケースが1186件ありました。

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誤登録が相次いだマイナ保険証ですが、そもそも、なぜ導入を進めているのでしょうか。
国はマイナ保険証を、医療のデジタル化を進める上での、重要なステップとしています。
デジタル化はDXとも呼ばれ、その大きな狙いは「医療情報の共有化」です。
これまで、私たちが受けた治療、飲んだ薬、それに検査の結果などは、基本的に個別の病院や自治体などでバラバラに管理されてきました。
それをオンラインで結び、情報の共有化を図ろうというのです。
国はこれによって、医師はより多くの情報をもとに正確な診断や治療を行える。
患者側は、より質の高い医療が受けられ、似たような検査を何度も受けたり、複数の病院で同じ薬を出されたりする事態を防げるなどとしています。

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ただ、医療データは究極の個人情報です。
医師が患者の情報を把握する、あるいは患者本人が自分の情報を確認する際には、厳格な、患者の本人確認が求められます。
従来の保険証には、顔写真がなく、一部でなりすましが起きるなど、セキュリティーに不安があるという指摘がありました。
そこで、顔写真とICチップを内蔵したマイナンバーカードを、保険証として利用し、確認を厳格化することにしたのです。
いわばセキュリティーを強化するために導入したわけですが、実際に運用が始まると、他人の情報が誤って登録されるなど、個人情報が逆に脅かされるトラブルが相次ぎました。
この点については、本来の趣旨と逆行し、「本末転倒」と言われても仕方のない面があると感じます。

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そこで政府は今回、健康保険組合に、住民票による確認を必須にするなど、本人確認の徹底策を講じるとしています。
また、こうした再発防止策以外にも、認知症の人など向けに暗証番号を設定する必要がないマイナンバーカードを導入します。
コンビニでの証明書の発行など、暗証番号が必要なサービスは利用できませんが、マイナ保険証としては利用できるようにしました。
さらに、マイナ保険証を持っていない人に対しては、本人の申請がなくても保険証と同じ「資格確認書」を発行します。
有効期間について健康保険を運営する組合ごとに5年以内に設定し、更新も可能とします。
すべての人に、確実に医療を届けるということを考えると、こうしたやり方は仕方がない面もあると思います。
ただ、資格確認書は、いわば保険証を残すことになり、制度としてちぐはぐな印象も否めません。
いずれにせよ、政府はあの手この手で不安を払しょくし、来年の秋には今の保険証の廃止、つまり新規での健康保険証の発行をやめる方針です。

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しかし、肝心のマイナ保険証は利用が極めて少ないという課題があります。
マイナ保険証の利用率は、ことし4月には6.3%と低かったのですが、そこからさらに下がり、10月はわずか4.49%でした。
この動きの弱さは、医療機関にも言えます。
診療情報や薬剤情報を入手するなど、マイナ保険証を活用しているという医療機関は、病院、診療所で、ともに3割程度に留まっています。
また、ことし1月には、紙の処方箋が不要になる「電子処方箋」の制度がスタートしましたが、導入している医療機関や薬局は、わずか5%ほどです。
マイナ保険証の利用が進まないのは、やはり相次ぐトラブルによる不安や不信感が大きな要因です。これを払しょくすることが、まず不可欠です。
さらに、なぜマイナ保険証を導入するのか、何のメリットがあるのか、その点が広く伝わっていないという点も原因ではないかと考えます。
国の調査では、マイナ保険証のメリットを特に知らないと答えた人は、4割近くにのぼっています。これを見ても、まだ十分に理解が進んでいるとは言えません。

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国はなぜ、マイナ保険証や医療DXが必要なのか、もっと明確に示していく必要があります。
情報の共有化で、患者の利便性や医療の質を上げていくという目的以外に、DXは、厳しい財政に陥る医療保険制度を、今後維持していくためにも活用していくべきです。
民間のシンクタンクからは、国は医療の効率化を図るために、もっと踏み込んだ対策を打ち出し、医療費の伸びを抑えていくべきだという提言が出ています。
例えば、「患者に提供された治療や薬の効果をビッグデータで評価し、限りある医療財源を、どこに優先的に配分するかを検討する」などです。
政府の全世代型社会保障構築会議は、医療DXを歳出改革の1つに上げていますが、
その具体的な取り組みは、まだ国から十分に示されていないと感じます。
多くの人に、将来の医療に不可欠なシステムであると納得してもらわない限り、不満や疑念は、ぬぐうことは出来ないと思います。

【まとめ】
マイナ保険証の課題についてみてきましたが、そのもとになるマイナンバーカードの仕組みは、医療だけでなく、コロナ禍のような非常事態や経済対策で国が給付金を迅速に配ることに活用できることも考えられます。
ただ、それを実現するには個人情報を確実に守ることが大前提です。
政府や自治体などにはその点を肝に銘じて今後、対応することを求めたいと思います。


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