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防衛装備品の輸出ルール見直し ライセンス生産や次期戦闘機は?

山下 毅  解説委員

自衛隊が使用する戦闘機やレーダーといった防衛装備品。
その輸出ルールの見直しをめぐる自民・公明両党の実務者協議が政府への提言をまとめました。
外国企業から技術を導入し国内で生産するライセンス生産品の輸出緩和などが盛り込まれています。
一方で、次期戦闘機など共同開発する完成品の第三国輸出などは、公明党内に慎重な意見が強く年内合意は見送られました。
見直しの内容や今後の課題を解説します。

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【解説のポイント】
▽日本の戦後の武器輸出
▽提言に盛り込まれた見直し
▽先送りされた課題

【日本の戦後の武器輸出】

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日本は戦後、朝鮮戦争による特需のなかで在日アメリカ軍向けに武器を生産したほか、東南アジアへピストルなどを輸出していました。
しかしその後、1967年に佐藤総理が国会答弁で共産圏などへの武器輸出禁止を表明した武器輸出三原則。
その後の三木総理の答弁で実質的に武器輸出が全面禁止されました。
平和国家として国際紛争を助長しないという考えからです。
2014年に武器輸出三原則に代わって閣議決定された防衛装備移転三原則のもとでも、厳格な審査で武器などの防衛装備品の輸出を判断するとしてきました。
新たな三原則のもとで輸出した完成品はフィリピンへのレーダーのみです。
日本の大手電機メーカーが製造した警戒管制レーダーは10月にフィリピン軍に引き渡され南シナ海をのぞむ基地に設置されました。

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フィリピンは南シナ海で領有権をめぐって中国と対立しています。
そして政府は1年前に閣議決定した国家安全保障戦略で、防衛装備品の輸出を推進するためルールを見直す方針を打ち出しました。
そこには海洋進出を強める中国による一方的な現状変更を抑止するため、装備品輸出を通じて東南アジア諸国などと連携を深めるねらい。
そして海外への輸出拡大で日本の防衛産業の基盤を強化するねらいがあります。

【提言に盛り込まれた見直し】

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これを受けて防衛大臣経験者などをメンバーとする与党の実務者は4月から23回協議し政府への提言をまとめました。
その内容です。
▽「ライセンス生産」の装備品の輸出緩和。
▽戦闘機など完成品に殺傷能力があっても、エンジンや翼といった部品について、部品自体に殺傷能力がなければ日本と安全保障面で協力関係がある国に移転可能とする。
自衛隊が使い終えたF15戦闘機のエンジンを東南アジアに輸出することなどが念頭にあります。
▽殺傷能力のない防弾チョッキなどの装備品は、ウクライナに限らず、侵略を受けている国に移転できるとしています。
政府は提言を受け年内に見直しを決めるとしています。

【「ライセンス生産」】
提言のうち「ライセンス生産」を詳しく見ていきます。

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防衛装備庁によりますと、日本にライセンスを供与している国は、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなど少なくとも8か国で、アメリカからの供与が多くなっています。
アメリカがライセンスを持つ装備品には地対空誘導弾パトリオットやF15戦闘機などがあります。
今のルールではアメリカのライセンス生産品の部品に限って輸出が可能で、F15のエンジンなどの輸出が認められた実績があります。

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提言によるルールの緩和では、アメリカとアメリカ以外のライセンス元の国に部品に加え完成品も輸出できるとしています。
アメリカはウクライナ支援で弾薬不足に直面し、ライセンス生産した迎撃ミサイルなどを提供できれば同盟強化につながるという見方があります。
そしてライセンス元の国から第三国への完成品の輸出もできるとしています。
与党の実務者協議で焦点になったのは、戦闘地域に移転されないよう歯止めをかけることでした。
このため、ライセンス元の国から第三国への輸出については、日本の事前同意を条件とし、ウクライナやイスラエルなどを念頭に「現に戦闘が行われていると判断される国」に対しては認めないとしています。
ただ、いったん海外に移転された装備品の輸出を管理するのは容易ではないという指摘もあります。
それだけにルールが見直される場合には、戦闘が行われている国への移転を防ぎチェックする効果的な仕組みを構築できるかが問われます。

【先送りされた課題 次期戦闘機などの共同開発】

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こうした合意の一方、共同開発する装備品の完成品の第三国への輸出については来年以降も議論が続くことになりました。
念頭にあるのは日本がイギリス、イタリアと共同開発する次期戦闘機です。
与党協議では現在はできない日本から共同開発国以外の第三国への輸出を認めるかどうかが焦点になりました。
第三国も含め輸出が拡大すれば日本の防衛産業の強化にもつながるという思惑があります。
政府は8月に第三国に直接輸出できるようにすることが望ましいとする見解を示し、実務者協議に参加するメンバーの間では容認する方向で一致していました。
しかし公明党の幹部らから「殺傷能力のある戦闘機の輸出を可能にする大きな転換で国民の理解が必要だ」といった慎重な意見が相次ぎ、完成品の第三国輸出について年内合意を見送りました。

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公明党としては「平和の党」を看板に掲げるだけに、平和国家としての歩みを重視しているものとみられます。
次期戦闘機をめぐっては14日に日英伊の防衛相が会談し、開発の司令塔となる機関を設立する条約に署名しました。
自民党側はこの会談もにらんで結論を急いできただけに見直しが遅れれば共同開発に支障が出かねないと懸念します。
自民党内には実務者同士で積み重ねた方向がひっくり返るのはおかしいという不満がくすぶっています。
ただ一方、自民・公明両党は、共同開発国が第三国に完成品を輸出した場合、日本から第三国に部品や技術の提供を可能にすることでは合意しました。

【先送りされた課題 5類型の見直し】
また、安全保障面で協力関係がある国に対する輸出の対象は「救難」「輸送」などの5類型に限定されています。
この5類型の見直しについて、自民党側には撤廃すべきだという意見が強いのに対し、公明党側は「教育訓練」などの類型の追加にとどめるべきだという立場で議論を継続することになりました。
先送りされた課題について、岸田総理は年明け早々に議論して欲しいとしていますが、両党の立場の違いが浮き彫りになっていて議論の行方は見通せません。

【議論深まるか 国民への説明は】

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防衛装備品の輸出をめぐって、野党の中には輸出の拡大に積極的な意見がある一方、憲法の平和主義に反し、武器輸出が紛争を助長しかねないと反発もあります。
また与党の議論の進め方に対し、国民的な議論なしに結論だけ国民に伝えるもので民主的ではないという批判も出ています。
かつての武器輸出三原則などは野党も交えた国会論戦の中で総理答弁の積み重ねを通じて形づくられました。
しかし、先週閉会した臨時国会などで見直しをめぐる議論が深まったとは言えません。
新たに就任した林官房長官は、「国民の理解は非常に大事で、政府の方針を国会での質疑などを通じて適切に説明していきたい」と述べています。
見直しの背景には厳しさを増す安全保障環境への対応や防衛産業の基盤強化といったねらいがあり、戦後日本の政策の大きな転換につながります。
それだけに政府や与党には国民に丁寧に説明し、透明性の高い議論を進めていくことを期待したいと思います。


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