NHK 解説委員室

これまでの解説記事

新時代の日本・ASEAN関係は 特別首脳会議で信頼と共創を目指す

藤下 超  解説委員 山下 毅  解説委員

日本とASEAN=東南アジア諸国連合の協力50年を記念する特別首脳会議が東京で開かれます。米中対立の激化など、国際環境が大きく変わる中で、新しい時代の両者の関係はどうあるべきかを考えます。

j231215_01.jpg

【拡大するASEAN】
藤下)
まずASEANとはどのような組織なのでしょうか。

j231215_03.jpg

1967年、5か国で発足したASEANは、冷戦終結後、ベトナムなど旧共産圏諸国も取り込んで、いまの10か国体制になりました。域内の人口は6億8千万人です。経済統合を進めて高成長を実現し、国際社会での存在感を高めています。
対話や連携のハブとしての役割も果たしてきました。日中韓も参加するASEAN+3や東アジアサミット、北朝鮮も参加して安全保障問題を話し合うASEAN地域フォーラムなどです。

j231215_04.jpg

日本の外務省は今回の特別首脳会議を年内の最重要行事と位置づけています。17日に特別首脳会議、18日には脱炭素の連携の枠組み「アジア・ゼロエミッション共同体」の首脳会議が開かれます。
山下さん、日本は、なぜASEANを重視しているのでしょうか。

【日本はなぜASEANを重視するのか】

j231215_05.jpg

山下)
まず世界の成長センターとしての活力があります。この50年間、日本はODAなどで成長を支援する立場でした。しかしASEAN全体のGDPは2030年ごろには日本を追い抜く見通しで、消費市場としても大きな魅力です。日本が名目GDPで世界第4位に転落するという見通しも示されるなかで、日本経済の力強さを取り戻すにはその活力を取り込むことが欠かせません。
またASEANは国際社会で影響力を増すグローバル・サウスの一角を占め、インドネシアはそのリーダーを自認しています。岸田政権の幹部はいちばん近い存在であるASEANとうまく組めるかがグローバル・サウス全体との信頼関係を築く試金石になると指摘します。
そして安全保障面での協力が比重を増しています。シーレーンの要衝であるこの地域の安定は日本の国益に直結します。そして南シナ海での領有権をめぐって、フィリピン、ベトナム、マレーシアなどは中国と厳しく対立しています。日本は東シナ海で、ASEANの国々は南シナ海でともに中国の海洋進出の脅威に直面しています。中国の力による一方的な現状変更を抑止していくことが共通の課題となっています。
藤下さん、ASEANは中国にどう向き合おうとしているのでしょうか。

【米中対立の中の日本・ASEAN関係】

j231215_07.jpg

藤下)
ASEANは、対中国で一致して対応することが難しくなっています。フィリピンのように、中国と対峙し、アメリカとの安保協力を強化する国がある一方、カンボジアのように、中国から多額の支援を受け、中国寄りの立場をとる国もあるためです。
地域が分断されることを懸念したASEAN首脳会議は、4年前、「インド太平洋に関するASEANアウトルック」という独自の方針を打ち出しました。その中で、ASEANは、「競合ではなく、対話と協力のインド太平洋地域」を目指すとして、米中双方に、暗に自制を求めました。
そして、国際法の尊重などを原則に掲げ、海洋協力やSDGsなどの分野に協力の重点を置くとしています。主体的に自らの方針を示すことで、地域の分断を避けたい狙いがあります。
しかし、米中の綱引きは、年々激しさを増しています。習近平国家主席は、今週、6年ぶりにベトナムを訪問して、両国が「運命共同体」を構築するとの共同声明を出し、同じくベトナムとの関係強化をすすめるアメリカをけん制しました。
米中のバランスに苦慮するASEAN諸国の中には、アメリカの同盟国ながら、価値観を押し付けず、アジア外交の機微も分かる国として、日本との連携強化に期待する声もあります。
山下さん、米中対立の中、日本はASEANとどのような関係を築こうとしているのでしょうか。

j231215_08.jpg

山下)
「インド太平洋に関するASEANアウトルック」は、日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」と重なります。このため日本はASEAN全体と法の支配や人間の尊厳といった共有できる原則を確認したい考えです。一方、二国間ではフィリピンに対し沿岸監視レーダーの無償供与を進め、アメリカも交えた共同訓練を行うなど連携強化を図る方針です。ASEAN全体とは原則の確認にとどめ、二国間で安保連携に踏み込むという両輪で中国への抑止力を強めようとしています。そこには米中対立に巻き込まれたくないとするASEANにどちらにつくかは迫らない配慮があります。

j231215_09.jpg

また経済や社会の課題に共に取り組むなかでも中国への意識が見え隠れします。日本が協力の柱に掲げる重要鉱物などのサプライチェーンの強化は中国による経済的威圧に備えるねらいもあります。さらに温暖化対策としてアジア・ゼロエミッション共同体を通じてASEANとの連携を深めたいとしています。ASEANのさらなる経済成長のために電力の確保は欠かせませんが、石炭火力発電に多くを依存しています。このため日本は二酸化炭素を排出しないアンモニアを石炭に混ぜて燃やす混焼技術を活用し、アジアの実情に即して脱炭素に貢献したいとしています。
岸田総理としては、政治資金をめぐる問題で厳しい政権運営が続いていますが、協力50年を迎えたASEANの首脳たちを東京に迎え、地域の平和と繁栄を築くリーダーシップを発揮したい考えです。

【人的交流で信頼強化を】
藤下)
ASEANの人たちは、日本をどう見ているのでしょうか。

j231215_10.jpg

東南アジアの研究者や官僚など識者を対象にした調査で、日本は5年連続で最も信頼される国になりました。その理由は「国際法を尊重する責任ある国だから」が最も多く、41%でした。
日本は「ルールを守り、安心して付き合える国」と評価されているようです。
しかし、一般の人たちを対象にした調査では様相が変わってきます。外務省の対日世論調査の結果です。最も信頼できる国を選ぶ設問で、去年、日本は中国に抜かれ、2位になりました。中国が、最大の貿易相手国として存在感を強めていることが一般の人たちの信頼度にも影響したものと見られます。
山下さん、日本への信頼度を、識者だけでなく、一般の人たちの間でも、高めていく必要性を感じますね。

山下)
そうですね。日本側が信頼を基礎に新時代の関係を築く上で重視するのが若い世代の人的交流です。このため留学生や若いビジネスリーダーの交流、東南アジア諸国の青年などを対象に親日派や知日派を発掘・育成するプログラムを促進したいとしています。1977年の「福田ドクトリン」は「心と心のふれあい」や「対等なパートナー」といった東南アジア外交の原則を掲げました。国際情勢が様変わりし、ASEANが経済的にも政治的にも存在感を増すなかで、今こそお互いに学び合い、支え合う名実ともに対等な信頼関係を築けるかが問われています。

藤下)
対等のパートナーとして信頼関係を築くには、日本社会が東南アジアの実情についてさらに理解を深めることも重要です。今回の会議が新しい時代の人と人との交流のきっかけになることを期待したいと思います。


この委員の記事一覧はこちら

藤下 超  解説委員 山下 毅  解説委員

こちらもオススメ!