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旧統一教会問題 被害者救済法と今後の課題

清永 聡  解説委員

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旧統一教会の被害者救済の法律が13日、成立しました。教団の資産を把握し被害者の司法手続きを支援する内容ですが、財産の保全をめぐっては、弁護団や被害者から不満の声もあります。
新たな法律の内容と課題、そして今後行政も含めた必要な支援について解説します。

【被害者救済はまだ】

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旧統一教会をめぐっては、去年、不当な勧誘行為を禁止する法律ができたほか、10月には解散命令請求も行われました。
この結果、一連の問題は、区切りがついたと思っている方もいるかもしれません。
しかし、去年の法律は新たな被害を生み出さない仕組みが中心。そして解散命令請求は審理中です。
一方で元信者らは今も、教団に献金などを返還するよう求める「集団交渉」を行っています。「全国統一教会被害対策弁護団」によるとこれまで合計120人あまり、請求額は40億円。
しかし教団は「個別に対応する」としていて、今後も交渉が長引きそうです。つまり被害者の救済は、まだ進んでいないのです。

【教団資産散逸への心配】
この過程で弁護団や被害者らが心配しているのは、教団の資産が散逸するのではないかということです。

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今後、仮に解散命令が確定すれば、裁判所が選んだ清算人が財産を管理することになります。そうなれば勝手に資産を動かすことはできなくなります。
しかしそれまでは、現金などを持ち出すことも海外へ移すことも可能です。
この点、旧統一教会の田中富広会長は、11月の会見で「解散命令の裁判が確定するまでは、法人の資金を海外に移すことは考えていない」と説明しています。
一方で弁護団は「信者が個別に現金を持ち出し、韓国などに送金される危険性がある」と指摘しています。

こちらはオウム真理教の事例です。
95年6月に解散命令が請求されてから高裁で決定し、清算人選任までおよそ半年。この間、主な不動産だけでも10件で名義が移されていました。当時、資産隠しはひそかに行われ問題となりました。
結局オウムの被害者への賠償金は、被害総額のおよそ40%と半分にも届かなかったのです(2008年)。

【被害者救済法の内容は】

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今回成立した法律は、教団資産の把握と被害者の司法手続きのサポートを、ともに強化するものです。対象は公的機関から解散命令請求が行われた宗教法人などです。
▽不動産を処分する場合は少なくとも1か月前に通知し、なければ処分は無効。
▽3か月おきに財産目録などを提出し、被害者が閲覧できる。
▽さらに、被害者に法テラスが援助を行い、費用の免除を拡大するなどとしています。

ただ弁護団や被害者団体は「これでは、財産の散逸を防ぐことができない」と批判し、すべての資産を「包括的に保全」し動かせないようにしてほしいと求めていました。
一方で、財産の保全については「信教の自由に抵触するおそれがある」という意見もありました。
結局、法律の付則に「3年後をめどに財産保全のあり方を含め検討」などとする記述にとどまりました。

【民事保全法の限界】
この財産を動かせないよう保全する仕組み。現在もすでに民事保全法という法律があります。

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例えば1億円のお金を取り戻そうとする人が、相手の資産1億円分を仮差し押さえするよう裁判所に求め、裁判所が命じれば、その部分は勝手に処分できなくなります。これは被害者が自分で申し立てることが前提です。

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しかし相手の資産が例えばトータルで数百億円分ある場合。これを「包括的に保全」しようとすれば、今の仕組みでの考え方としては、例えば1億円の債権がある人が数百人集まって、全員で仮差し押さえを求めることになります。
さらにこの申し立ては集団ではできません。1人ひとりが裁判所へ行う必要があります。
財産を特定し、「疎明」つまり一応確かと言えるような証拠などの書類や、担保金も個別に必要です。そして、その都度、裁判所の判断となります。

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新たな法律には「担保金」のサポートもあります。
それでも弁護団は、現在の仕組みで教団の資産を「すべて」動かせないようにするのは難しいとして、国が裁判所を通じて広く網をかける「包括的な財産保全」の仕組みを求めていたわけです。
中には、解散命令が確定して初めて声を上げることができる被害者もいるでしょう。その時にはもう資産が処分され、何も残ってないという事態は避ける必要があります。
国会は付則にとどめて終わるのではなく、教団の動向を注視し、問題が起きたときに備えて、財産保全の仕組みも引き続き検討してほしいと思います。

【行政の宗教2世支援は?】
私はこのところ宗教2世の方々から、「行政の支援の動きが鈍くなった」という意見を聞くことがあります。

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国の「旧統一教会問題」に関する関係省庁連絡会議は、ほぼ1年間開かれませんでした。
10月末にようやく開かれましたが、特に宗教2世への支援は、多くが去年以降継続中の取り組みで、「複数の省庁が連携した新たな大がかりな支援」は、今回見られませんでした。

しかも事務局役として会見した法務省人権擁護局の幹部は、会見での質問に「詳しい取り組みは各省庁に聞いてほしい」という説明を繰り返し、法務省自身の取り組みについて質問が出たときも「詳しくは担当部局に聞いてほしい」などと述べました。
この時の対応は、私の目には支援の熱意に乏しいと感じざるを得ませんでした。
なお、次回の会合は「未定」ということです。

【宗教2世の思いは】
宗教2世は、多くが子どもの時から親の教えや影響を受け続けています。
脱会しても、家族とのきずなは断たれ、ほとんどゼロから社会に出て仕事を見つけ、自立しなければならない、という二重三重の困難を抱えている人も少なくありません。
ある宗教2世は私の取材に「一連の問題が明らかになった去年以降、相談窓口は増えたが、依然として各省庁縦割りで相談や要望を転々とすることがある」と言います。
また、「窓口の担当者がマインドコントールについてや宗教の知識をもっと持ってほしい」という意見もありました。

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住居・生活・就職・子供の教育と、旧統一教会に限らず助けが必要な宗教2世を総合的に支援できるよう、行政は自治体を含めて一層連携を深めてほしい、彼らの話を聞くと切実にそう感じます。
また、通常の生活相談とは別に専門的な知識も必要です。
オウムの際には、医師などによる「研究会」も作られ、報告書もまとめられました。今回も各省庁が連携し、専門知識や精神的な支援に関して研究を行うことも可能でしょう。

【“様子見”になっていないか】
特に今年に入ってから立法や司法の議論や動きが続く中で、このところ行政は「様子見」になっていないでしょうか。
あるいは解散命令請求が行われたことで、「舞台は司法に移った」などと、腰の引けた受け止めをしていないでしょうか。
宗教2世や元信者の社会復帰に向けた支援は、政府や自治体を含めまず行政が率先すべき課題です。
仮に解散命令が出た場合、そこで初めて教団を離れる人も出てくるでしょう。新たな人たちへのサポートも今から考える必要があります。
この問題はこれまで長く放置されてきました。その経緯も踏まえ、行政は今こそ積極的に取り組むことが求められます。

【声を上げられない被害者も】
今回の法律は主に、自ら立ち上がり救済を求める被害者を支えるものです。しかしその一方で、声を上げられない被害者が数多くいることも、決して忘れてはなりません。
「信教の自由」への配慮は必要ですが、信教の自由は被害者の人権侵害を正当化する理由には、まったくなりません。
多様な被害者に対し各機関は積極的に手を差し伸べ、総合的に支援できるよう、連携を強めてもらいたいと思います。


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清永 聡  解説委員

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