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外国人"技能実習"から"育成就労"へ 制度の行方は

清永 聡  解説委員

外国人が働きながら技術を学ぶ「技能実習制度」。政府の有識者会議は24日、新たな制度、「育成就労」に向けた提言を盛り込んだ最終報告書をまとめました。
会議は最終盤で議論が難航し、その内容には批判の意見もあります。
今回は技能実習制度をめぐる問題の背景と、望まれる仕組みを解説します。

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【ポイント】
解説のポイントは、「今や欠かせない働き手」。「難航した議論」。そして「選ばれる国になるために」です。

【技能実習生とは】

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外国人の技能実習制度は、人材育成を通じた「国際貢献」が理念でした。現在は主にアジアからおよそ35万8000人、様々な職場についていて、賃金は日本人労働者と同じとされます。
4年前からは「特定技能」という新たな在留資格も始まりました。実習生は3年働けば無試験で特定技能へ移行することもできます。特定技能は食品製造・農業・建設などで1号が最長5年。2号になると永住も可能となります。

【厳しい実態と制度の問題】

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しかし現実はどうか。
来日する時点で、多額の借金を抱えている実習生が少なくありません。そして職場を変えることが、原則3年間認められません。
「借金」があり「転籍できない」ため、パワハラや暴力、残業代の不払いなどがあっても職場を変えられない。
失踪する実習生は去年、9000人を超えました。また、違法な行為を理由に国から許可や認定を取り消された事業者などは、昨年度126件に上ります。
特定技能に移れば、転籍も自由です。ところが現在、特定技能1号は現在およそ17万人いますが、職種は12分野に限られ、衣類・繊維などは特定技能がありません。
さらに特定技能2号は、いま新たに職種が増えているところですが、まだ全国わずか12人。
つまり、今は実習生がキャリアを重ねづらくなっているのです。

【欠かせない人材に】
特に働き手の少ない地方では、実習生は欠かせない存在になっています。

j231124_v1.jpg岐阜市の縫製会社

岐阜市の縫製会社を訪ねました。ここでは従業員18人のうち10人が海外からの実習生です。ここで技術を学び、ジャケットやワンピースなど様々な衣類を製作しています。
「アイエスジェイエンタープライズ」の井川貴裕代表は、実習生がいなければ事業が成り立たないと言います。
ところが、衣類・繊維の職種は、現段階では特定技能の仕組みがありません。

j231124_v2.jpg技能実習生のジャン・ティ・フエさん

従業員の1人、ベトナム人のジャン・ティ・フエさんも来年で技能実習の期間が終わり、春には帰国する予定です。せっかく覚えた技術を長く生かすことができません。
フエさんは「もっと仕事を続けたい。縫製を早く特定(技能)に追加してほしいです」と話していました。

【中間報告で改善策を示す】

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政府の有識者会議は、今年春、見直しの中間報告を発表しました。
▽技能実習制度は「廃止」。
▽どの職種も技能実習から特定技能に移ることができるよう一致させる。
▽原則不可能だった転籍を認める、などです。いずれも大きな改善です。

【転籍めぐる議論は】
ところが24日にまとまった最終報告書は、最終盤で議論が難航しました。中間報告との違いを見てみます。

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▽「廃止」という言葉は「発展的な解消」に。新制度は「育成就労」。
▽職種の一致は維持されました。キャリアパスを明確化した点は前進です。ただ、特定技能への準備がまだ明確に進んでいない職種もあり、今後の課題です。
そして▽特に議論となったのは「転籍」です。
当初の案は、最初の職場に「1年」勤めれば転籍できるというものでした。それが「2年以内」に伸び、最終的には「分野ごと当分の経過措置」として、転籍まで「1年以上」の期間も認める、となりました。
「1年以上」で上限となる数字が書かれていないため、「結局、長期間転籍させないことも文面上可能になる」という指摘も出ています。この点は、曖昧さを残し、実習生側からすれば「腰くだけ」でしょう。

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実習生を支援している指宿昭一弁護士は「これでは看板の掛け替えだ。議論が後退しており、実習生の人権を守ろうとしていない」と批判します。

転籍をめぐる議論の背景には、特に地方の企業から「1年で賃金の高い都市部に出て行ってしまう」という懸念があったためです。企業からすれば「できるだけ自分の所にとどまってほしい」という気持ちも理解できます。
しかし実習生にとって制度は3年なので、転籍の制限が長くなるほど、職場を変えて新しい場所で働ける期間は短くなります。

【天秤のように揺れ動く議論】

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ここまでの有識者会議の議論を追いかけていくと、この問題は企業と実習生、2つのバランスの間で揺れ動いているように感じます。
企業からすれば、入国や技術の習得などで時間や手間をかけた上、金銭的な負担もかかります。
一方で実習生からすれば、転職できない期間が長くなれば、仮に不当な扱いを受けても、我慢するほかなくなります。失踪する人も出かねません。
転籍をめぐる議論の経緯は、この問題の複雑さと難しさを示しているようです。

【解決策はあるか】
では、どうすれば良いのでしょう。
確かに賃金は地方が不利です。例えば先ほど紹介した縫製会社のある岐阜県の最低賃金は、隣の愛知県と比べて時給で70円あまり低くなります。

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しかし、「アイエスジェイエンタープライズ」の井川貴裕代表は、「同じ職種での転籍の緩和は、労働者の権利でありやむを得ない。魅力的で働きやすい職場になるよう、経営者が努力していくしかない」と話していました。井川代表は3か月に1度、従業員に仕事や生活の要望を母国語で書いて提出してもらうなど、実習生の働きやすい環境作りに努めているということです。

もともと見直しの会議が始まったのは2年前。
実習生への暴力や残業代の未払いなど、国際的にも批判を受けた数々の人権侵害を解消するためでした。
ならば、まずは実習生の権利を擁護し、その上で「労働力の確保」につながる仕組みを目指すことでしょう。

私は外国人の働く現場をいくつも見てきましたが、暮らしやすい地方を選び、経営者からも頼りにされて長く働く人も少なくありません。
賃金の格差を減らすことも重要ですが、人材確保のためには、今後も問題を生み出す余地をまず根絶する。そして職場や生活環境を整えることが、欠かせません。
求められるのは、「働きやすさ」を作る総合的な取り組みではないでしょうか。

【選ばれる日本へ】
最近、取材していて聞く話題があります。
それは実習生の確保も、他の国などと競争になっているという話です。

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入管庁がまとめた海外の移住労働者の統計があります。ベトナムの移住労働先は、台湾が日本を上回り、インドネシア、フィリピンも香港、サウジアラビア、UAEなどに押されて日本は5番目。円安もあるとみられますが、すでに日本を選ばない外国人労働者も多くなっているのです。
JICA・国際協力機構がまとめた試算では、2040年に必要な外国人労働者は674万人。現在の3.7倍です。
大幅な不足をどうするか。この問題は少子化が続く日本の将来の姿にも関わってくると言えそうです。

製造業や農業、介護分野など、すでに外国人労働者がいなければ成り立たない現場も出ています。
新たな制度がもし企業にだけ都合の良い仕組みになってしまえば、日本はやがて海外の労働者から敬遠されてしまうでしょう。
人口の減少と高齢化で国内の働き手不足は今後、一層深刻になります。これからは選ばれる日本を目指す、そのための取り組みが欠かせないのではないでしょうか。


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