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GDP3期ぶりのマイナス 物価高と円安の行方は

岸 正浩  解説委員

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ことし7月から9月までのGDP=国内総生産が3期ぶりのマイナスとなりました。物価高や人手不足を背景に、個人消費や設備投資が減っていることが主な要因です。陰りを見せる日本経済の行方は、私たちの暮らしはどうなっていくのでしょうか。

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GDPは重要な経済指標で、いわば、その国の経済の状況がわかる温度計のようなものです。

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3か月ごとに公表されていて、今回は7月から9月までが発表されました。物価の変動を除いた実質のGDPの伸び率は前の3か月と比べてマイナス0.5%となりました。これが1年間続いた場合の年率に換算しますと、マイナス2.1%となります。ことしに入ってGDPは伸びていましたが、3期ぶりにマイナスとなりました。

<個人消費と設備投資がマイナス>

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GDPの半分以上を占める個人消費は、マイナス0.04%とわずかですが、マイナスとなりました。前回よりマイナス幅は縮小しましたが、2期連続のマイナスです。物価高の影響で食料品や日用品などの販売が振るわなかったとみられています。物価が上がってもそれを上回るだけの賃金が上げっていかなければ買い物に行く人は増えないでしょう。しかし、現状はそうではありません。物価の変動分を反映した実質賃金は、18か月連続でマイナスです。こうした状況の中で、個人消費はさえない状況が続いていると思われます。
マイナスのもうひとつの要因が設備投資です。0.6%の減少でこちらも2期連続のマイナスとなりました。今回、指摘されたのが半導体関連産業の投資の落ち込みです。コロナ禍で在宅勤務が増えた去年やおととしは、パソコンやスマホへの需要が増え、半導体へのニーズが高まりました。しかし、ことしに入って需要が落ち着き、半導体の市況は低迷していて、その影響で半導体の製造装置の投資が減少しました。ただ、半導体業界の中では、生産を絞ることで来年に向けて市況は回復するという見方が多く、これについてはあまり心配する必要はないかもしれません。一方で、設備投資の落ち込みで懸念されるのが人手不足と資材費の高騰です。省力化のためのデジタル化や脱炭素化への対応もあり、企業の間では投資への意欲は高いということですが、人手不足や資材費の高騰で建設や工事にかかるコストが増加しており、工事の延期に追い込まれたケースが目立っています。こうしたことも設備投資のマイナスに繋がったものとみられます。「住宅投資」もマイナス0.1%、資材の高騰などで住宅価格が上昇したことなどが影響したということです。

<輸出と輸入も気になる点が・・・>

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GDPと、輸出・輸入の関係は、輸出が輸入を上回れば、外貨を稼ぐことになり、GDPを押し上げますが、逆に輸入が輸出を上回ると、GDPを押し下げる関係です。今回、輸出は0.5%のプラスでした。自動車などの輸出は増えましたが、統計上、輸出に含まれる外国人旅行者による「インバウンド消費」は、これまでの大幅な伸びの反動もあって、やや減り、輸出全体でみるとプラスですが、前の3か月より減少しました。
一方、輸入は1%のプラスでした。中でもアメリカの動画配信サービスやスマホのアプリの著作権の支払いが増えたことが寄与したとみられます。実はこうした海外の定額料金でのサブスクサービスを使うと著作権という形で海外に使用料を支払っているのです。こうしたことから今回、輸入が輸出を上回り、GDPを押し下げる形となりました。

<物価高の壁と円安>
日本経済はコロナ禍を経て回復してきましが、ここに来て物価高が壁となっています。今後、再び回復軌道に戻ることができるのか、低迷していくのか、分かれ道を前に、物価高が課題となっているのです。では、物価高の背景には何があるのでしょうか。

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大きな要因のひとつが円安です。円安になると輸入品は値上がりします。円相場は今年に入って値下がりが続いています。最近は一時、1ドル・151円台と、およそ30年前の円安水準となっています。その背景には日本とアメリカの金融政策の違いがあります。日本は、日銀がデフレ脱却のために大規模な金融緩和政策をとっていて、金利を極めて低い水準に抑え込んでいます。日本の長期金利は1%をやや下回る水準です。一方、インフレで苦しむアメリカは、FRB=連邦準備制度理事会が金利を上げて物価を抑える政策をとってきました。このところ利上げを止めていますが、アメリカの長期金利は5%をやや下回る水準で、日米の金利差は歴然です。このため、金利の高いドルを買って金利の安い円を売る動きが続いています。今後、日銀は来年の春闘に向けて、物価上昇を上回るような大幅な賃上げの動きを確認できれば、大規模な金融緩和をやめる可能性もあります。ただ、その状況を確認できるには、まだ時間がかかると見られていて、市場関係者の間では来年の前半になるという見方が多くなっています。一方、アメリカもインフレが落ち着くには時間がかかるという見方が多く、なお金融の引き締めが続くとみられています。このため、円安の流れは、続く可能性があり、物価高も短期間では収まらないとみられます。

<日本経済に必要なこととは>

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まず、岸田政権が打ち出した新たな経済対策の実効性が問われると思います。減税と給付では所得税などで一人あたり年間4万円の定額減税と、住民税の非課税世帯では7万円の給付などが固まりました。ただ、税金を払っていても、収入が低くて減税額にあたる4万円に満たない人への支援の具体的な検討は、これからです。物価高が続く中で、政府はこうした人たちへの迅速な対応が求められるでしょう。
そして、物価高に負けない賃上げが実現できるかが重要です。連合は来年の春闘で5%以上の賃上げを要求しています。政府と経済界、労働界の3者による「政労使会議」が開かれ、岸田総理大臣が、ことしを上回る水準の賃上げが実現するよう協力を要請しました。企業側がどこまで応えるかが鍵です。中小・零細企業に賃上げの流れを広げることができるかも極めて大切です。大手企業が中間決算の発表のピークを迎え、業績を大きく伸ばすところが目立っていますが、高い賃上げを続けるにはさらに多くの企業が一段と力を付けることが欠かせません。

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デジタルサービスで稼ぐアメリカのIT企業の姿が垣間見える中、日本の企業も技術革新や生産性の向上を図り、より付加価値が高い商品やサービスを生み出すなど、稼ぐ力をこれまで以上に、つけることも重要だと思います。IMF・国際通貨基金が名目で、ことしの日本のGDPがドイツに逆転されて世界4位になるという見通しを示しています。GDPがすべてではありませんが、日本は成長力を高めて、人々の暮らしを良くできるのか、その岐路に立っているのが現状だと言えそうです。


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