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不登校約30万人 過去最多~誰一人取り残さない支援を

木村 祥子  解説委員

不登校の小・中学生の数は増え続け、過去最多を更新しています。
さらに深刻なのは、学校やそれ以外の教育機関など、どこからの支援も受けていない多くの子どもたちの存在です。
子どもたちの孤立を防ぐにはどうしたらよいのか考えます。

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【不登校~現状と背景】

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文部科学省が公表した昨年度、全国の小中学校で30日以上、欠席した不登校の児童・生徒の数はおよそ29万9000人。10年連続で過去最多を更新しました。
注目したいのが特にこの2年間で一気におよそ10万人が増えたことです。
35人学級の場合、1クラスあたりに1人、不登校の子どもがいるという計算です。
ではなぜ、ここ最近、不登校が急速に増えたのでしょうか。
文部科学省は「不登校の理由は様々なので一概には言えない」としつつも、「コロナ禍の長期化で生活環境が変化したことや、学校生活でのさまざまな制限で交友関係が築きにくくなったことなどが背景にある」と分析しています。
社会はかつての日常を取り戻しつつありますが、子どもの心はそう簡単ではありません。
一度、関係が断たれた友達との付き合い方や先生との関係、学校生活の楽しさを取り戻せるように、大人たちが日々、丁寧に向き合っていく必要があると思います。
さて、不登校を減らそうという取り組みはこれまでも行われてきました。
ただ、最近は不登校に対する親の考え方が変わってきているように思います。
それを後押ししているのが、2016年にできた「教育機会確保法」という法律にあると考えます。

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この法律の趣旨は「学校に行けない子どもに休養を与え、その間は学校以外の場所で学びを推奨していく」というもので「一人ひとりにあった多様な学びの場を保障する」と書かれています。
学校以外というのはフリースクールや塾、自宅なども含まれているため、無理して学校に通う必要がないと考える保護者の理解が進み、数の上で今、不登校の増加につながる一因になっているのではと思います。
不登校の子どもを持つ保護者に聞くと「この法律のおかげでゆっくり休んでも大丈夫だと言われているようで少し、気持ちが軽くなりました。最近、子どもが元気を取り戻しつつあり、無理に学校に行かせていたら、親子関係が壊れていたと思います」と話していたのが印象的でした。
心と体をしっかり休めたことで、その後、元気を取り戻し、社会で活躍している人を私は取材を通して見てきています。
ただ、周囲の無理解による軽率な発言によって不登校の子どもや保護者を傷つけているという状況も起きています。
法律の趣旨を理解し、不登校の数だけに一喜一憂するのではなく、子どもたちが再スタートを切れるように、国や教育委員会、学校などが必要な支援や情報をきちんと提供していくことこそが大切だと思います。

【孤立する子どもたち】

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しかし、今回の文部科学省の調査で学校や学校以外の相談機関などから支援を受けておらず、必要な情報が届いていない子どもたちが大勢いることもわかってきました。
その数は11万4217人。
不登校の子どもたち全体のおよそ4割にあたります。

【子どもたちに居場所の確保を】
こうした子どもたちのために、取り組みを行っている学校を取材しました。

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千葉県松戸市の小金北中学校です。
不登校支援に取り組む養護教諭の海老原千紘先生がまず取り組んだのが学校での居場所作りです。
「学校には通いたいが、他の生徒に会うのが怖い」という生徒の声をきっかけに、放課後、校内でゲーム大会を開きました。
他の生徒が帰ったあとに登校する生徒が何人かいたので、横の交流を作りたかったといいます。コロナで制限されていた友達との交流の輪が少しずつ築かれ始めています。
そして次に始めたのが「オンライン保健室」という取り組みです。
保健室と生徒の自宅などをオンラインで結び、先生と生徒が自由に会話をします。
自宅に引きこもりがちな生徒に学校との接点を作ってあげたいと始めました。
取材に伺った日は久しぶりに登校した生徒に、オンラインでも相談できることを伝え、さっそく試していました。
利用した男子生徒は「学校に来られない日が結構、多いので、直接じゃなくても先生に会えるというのはよい」と話していました。
海老原先生が不登校支援に力を入れているのは、自身の不登校経験からでした。
小学校と中学校の時に3度、不登校になりました。
その時の心境について「友達とケンカとか、先生とトラブルとかではなく、ただただ疲れてしまった。学校に行けない自分は普通じゃないのだと思い、自分の人生に絶望し、ほとんど家にいてベッドの上で泣いていた」と話していました。
海老原先生はその後、母親の勧めで、フリースクールへ通い少しずつ元気を取り戻します。
そして4年前に養護教諭になりました。
不登校に悩む親たちの力になりたいと今月、学校で座談会も計画。
海老原先生が勤務する中学校の松尾利之校長は海老原先生について「不登校に対していろんなアイデアを持っていて、他の教員たちに対してもよい刺激になっている」と話し、海老原先生のきめ細かい支援に期待を寄せていました。
そして海老原先生は今後について「不登校の時に言われてうれしかった言葉を今も覚えているので、経験を糧に、今後の支援に生かしていきたい」と話していました。
不登校を経験した人が教師になっているというのは珍しいと思いますので、多くの学校で同じようにするのは難しいかもしれません。ただ見習うべき点は多いように思います。
義務教育の間は学校からの支援は受けられますが「卒業してしまうとどうなってしまうのか」という、その先を心配する声も取材を通して保護者からよく聞きます。
こうした不安を解消しようという取り組みが行われています。

【子どもたちに学びの場を】

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大阪市平野区の加美南中学校で校長を務める阪井千明先生が中心となって不登校を経験した生徒に手厚い支援がある高校の情報などを集めたパンフレットを作りました。
不登校の子どもが「高校に行けない」と諦めていたり、保護者が子どもの進路を自力で調べたりしているという話しを聞いたからです。
パンフレットには大阪府内の全日制や通信制の高校、それにフリースクールなど50の教育機関の情報が掲載されています。
先生たちが実際に学校やフリースクールに学校やフリースクールに足を運んで調べた内容が盛り込まれています。
阪井先生は「これまでは私たち教師も情報を持ち合わせておらず、選択の幅がなかった。
ただ、調べてみると教育的な配慮をしてくれる学校があることがわかった。手作りのパンフレットだが、生徒も保護者も喜んでいるので、ずっと続けたい」と話していました。

【社会全体で不登校支援を考えよう】
ここまで松戸市と大阪市の中学校の取り組みを見てきましたが、両方に共通しているのは先生が日々の業務と並行して不登校支援の取り組みを行っているということです。
いわば先生たちの熱意や善意に頼っているといっても過言ではないと思います。
学校だけで取り組んでいくには限界があり、各自治体の教育委員会や国と連携した取り組みが必要でしょう。
大阪の例でいうと、義務教育を卒業したその先の進路について国が全国の情報をとりまとめて発信する仕組みをぜひ、整備してほしいと思います。
また最近では家族の介護や家事などをしなければならず「学校に通うどころではない」という子どもたちもいます。

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問題の解決には学校だけでなく、福祉や医療、法律の専門家の協力も必要になるでしょう。
不登校の理由は子どもの数だけあり、一筋縄では解決できない難しい問題です。
だからこそ、どうしたら子どもたちが安心して学べる環境を提供してあげられるのか。
社会全体で知恵を出し合いながら考えていく必要があるのではないしょうか。


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