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どうなる?大阪・関西万博

米原 達生  解説委員

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再来年開かれる大阪・関西万博の先行きが不透明になっています。会場の建設にかかる費用は当初の1.8倍に増加、海外パビリオンの建設の遅れも表面化し、開幕に間に合うのかといった声も出ているのです。しかし、課題はそれだけではありません。開幕まで1年半を切った大阪・関西万博について、次の3つのポイントで考えます。

▽大阪・関西万博の現状と課題
▽問われてきた万博の意義
▽テーマの原点に立ち返れ

【現状と課題】
■大阪万博の概要

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再来年の2025年4月から半年間にわたって開かれる大阪・関西万博は先端医療の研究機関が多い大阪で超高齢社会の課題解決を考え、地域経済の起爆剤にしようと誘致されました。
国内で開催される万博としては6回目、参加国が自らパビリオンを建設する大規模な万博としては1970年の大阪、2005年の愛知に続いて、3回目です。

会場となるのは大阪湾に浮かぶ人工の島・夢洲です。ここに150余りの国々が参加し、円周2キロの大屋根をシンボルに100を超えるパビリオンが並ぶ予定になっています。
国内外から2820万人の入場を見込み、経済効果は2兆円と試算されています

万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。アンドロイド研究の第一人者や映画監督など8人がプロデューサーとして「命」をテーマに、それぞれ展示を行います。
空飛ぶクルマの国内初の商用運行や、培養肉の試食など、近未来を感じる技術の展示や体験が予定されています。

■見えてきた課題
しかし開催まで1年半を切った今、課題が表面化しています。

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まず明らかになったのは準備の遅れです。こちらは前のドバイ万博の海外パビリオン。個性的なデザインから「万博の華」とも呼ばれています。今回も50か国余りが、自前で建設する予定です。しかしまだ着工した国はなく半数以上は建設会社も決まっておらず、遅れが顕在化しているのです。2020年に開かれるはずだったドバイ万博が新型コロナで1年延期されたため準備の開始が遅れたことに加え、2024年に運輸や建設の現場の労働時間規制が強化され深刻な人手不足が予想されること、会場の島にアクセスする道路が2つしかなく、渋滞など工事の不確定要素が大きいことが、受注のハードルになっていると指摘されています。博覧会協会は準備が遅れている国には箱形の建物を代わりに発注・建設することを提案していますが、自前のデザインで建てたい国からは建設会社との調整を求める声も出ています。
海外パビリオンは建物さえ間に合えばいいという訳ではなく、その展示内容や入場者との交流は万博の魅力を大きく左右します。参加国の希望をどのように実現できるか、ホスト国としての力量が問われる局面です。

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課題はパビリオンの建設だけではありません。催事場や大屋根などの整備に充てる会場建設費について、博覧会協会は先週、最大2350億円に上振れる見通しを公表しました。1250億円だった当初の額から2度目の増額で、1.8倍以上になります。背景にあるのは資材価格などの高騰で、実際、この3年で30%ほど上がりました。

会場建設費は国と大阪府・市、経済界で3等分する仕組みで、これまで通りであれば国民負担も増えることになります。専門家や市民からは「限られた予算でやるべきだ」「そこまで費用をかけて開催する必要があるのか」という声もでています。

協会には工事の削減や変更をして建設費を抑える努力をするのはもちろん、その内容を具体的に説明し理解を得ることが求められると思います。

【問われてきた万博の意義】

多額の費用をかけて万博を開催する意味はあるのかという議論は今に始まったものではありません。万博は国際的にも時代遅れという批判に直面してきました。

■万博の歴史をひもとくと…

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エジソンの蓄音機や世界初の観覧車など、最新の製品や技術を体験できた万博は、世界中のモノと人が出会う場として欧米各国が競って開催してきました。パビリオンはその国を代表する場であり、開催することが国威発揚につながりました。1970年の大阪万博には当時の過去最多の6400万人が入場し、一つのピークを迎えます。

しかし、大規模な万博は、1992年のセビリア万博まで22年の空白期間に入ります。交通が発達し世界各地で見本市が開かれ「万博でなければ見られないもの」が少なくなる中で、費用がかかる大規模な万博に手をあげる国が少なくなり、開催が決まったにもかかわらず中止する国も出たためです。

これを受けて、BIE=博覧会国際事務局は新たな方針を打ち出します。
1994年の決議で「現代社会の要請に応えられる今日的なテーマ」を必須とし、「国家の見本市」から「地球規模の課題の解決策を考える場」へと位置づけを変えたのです。

■新たなスタイルを見せた愛知万博
こうした方針転換を受けて開かれたのが「自然の叡智」をテーマに掲げた愛知万博でした。

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開催予定地で絶滅危惧のあったオオタカの巣が見つかり、開催への反対運動もあったことから、計画を大幅に変更。会場の面積を縮小し環境問題への対応を打ち出しました。

環境の変化で絶滅し、今度は温暖化の影響で永久凍土から見つかったマンモスを展示したことが注目されましたが、ゴミを9種類に分別し生ゴミから発酵させたガスを再利用するなど、会場の運営にもテーマが色濃く反映されました。

苦肉の策として押し出した「環境万博」は、その「メッセージ性」が評価されてリピーターを中心に入場者が増加。目標の1500万人を上回る2204万人が来場しました。

BIEは「来場者の満足度が高く、万博に対するポジティブなイメージを一般の人々に伝えた」と異例の宣言を出して評価するに至りました。

【③テーマの原点に立ち返れ】
こうした万博のテーマを本質的に掘り下げ、開催の意義を説明することこそ、私は今の大阪・関西万博に求められていると思うのです。

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大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」、「いのち」や「人生」を初めて正面に掲げます。
出展者に取材を進めると、「最先端医療」や「高齢社会の課題」、人工知能による「生成AI」そして「コロナ後の社会」など重要で多様なキーワードが出てきます。

誘致構想の策定に関わった大阪公立大学の橋爪紳也教授は「紛争で多くの人が命を落とすなかで、開幕までに間に合うかよりも、いのち輝く未来社会のモデルを構築し世界に提示できるのかが最も重要な課題だ」と話しています。

命をめぐる多様な問いかけを協会は展示や会場デザイン、運営、催事を担当するプロデューサーたちと定期的に会合を開いて議論しているとしていますし、重要な決定は理事会で議論されます。

しかしどのようなことが議論され何を打ち出したいのか、多くは明らかになっていませんし、理事会の議事録も公開されていません。

万博を意義あるものとして理解してもらい機運を高めるためには、議論の過程を説明し、対話していく必要があるのではないでしょうか。

建設を間に合わせるために労働時間規制を除外することも議論になりましたが、万博の準備から後片付けまで何が「いのち輝く」につながるのか、常に原点に立ち返って考えることが必要だと思います。

11月末には運営予算のもととなるチケットの販売が始まり、大阪・関西万博は開催がどれだけ支持されているか問われる局面を迎えます。課題を乗り越えて国民の理解と支持を獲得していくには、今なぜ万博なのか、命というテーマをどのように具体化していくのかを、積極的に説明していくことが求められているのです。


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