今月7日、地震の大きな被害を受けたアフガニスタンでは、その後も大きな揺れが続き、住民たちは屋外での避難生活を余儀なくされています。内戦と貧困、自然災害に加えて急進的なイスラム主義を掲げるタリバンと国際社会の関係が冷え込んでいる中で起きた災害は、被災者の支援をより難しくしています。厳しい冬が近づいているアフガニスタンの人々は今、何を必要としているのか、日本をはじめ国際社会が求められている支援について考えます。
アフガニスタンでは今月7日、マグニチュード6.3の地震が発生し、西部のイランとの国境に近いヘラート州が大きな被害を受けました。タリバン暫定政府は、7日の地震による死者は1000人以上、けが人は2000人以上に上ると発表しています。この地域では11日と15日にもマグニチュード6.3の地震が起き死傷者が出ました。ユニセフ・国連児童基金によれば犠牲者の9割が女性や子どもということで、女性は自由に外出できないため自宅にいて崩れ落ちた建物の下敷きになったと見られています。
アフガニスタンはこれまでも地震が頻繁に起きています。北側のユーラシア・プレートと南側のインド・オーストラリア・プレートがぶつかる地域にあるためで、去年6月には東部でマグニチュード5.9の地震が発生し、1000人以上が犠牲になりました。
ただ、西部でこれほど大きな地震は過去数十年なかったということです。
被災地ではその後も余震が続き、家を失った人だけでなく、家が残った人も倒壊のおそれから屋外での避難生活を強いられています。病院も危険なため屋外で治療を続けています。
アフガニスタンは世界で最も深刻な人道危機に見舞われてきた国の1つです。
1979年ソビエト連邦が侵攻し10年間にわたって占領、2001年にはアメリカ同時多発テロを引き起こした国際テロ組織アルカイダを匿っているとしてアメリカが軍事介入し、当時のタリバン政権を崩壊させました。カブール解放の瞬間を現地で取材した際、タリバンの圧政から解放された市民が安堵感に浸っていたのが印象的でした、しかし、それも束の間でした。治安は一向に改善されず、おととし8月アメリカ軍が撤退すると再びタリバンが権力を握り、女性の教育や就労を厳しく制限する強権的な支配が復活しました。長い内戦と政治の腐敗による貧困と格差の拡大、極端なイスラム主義による抑圧、洪水や干ばつなどの自然災害に加えて、コロナ禍とロシアのウクライナ侵攻に伴う物価の高騰によりアフガニスタンは疲弊し、国民の7割に上る3000万人近くが支援を必要としていると国連は指摘しています。そうした中で起きた地震は人々を極限まで追い込んでいます。
UNHCR・国連難民高等弁務官事務所によれば、アフガニスタンからは560万人をこえる人々が難民として国外に逃れている他、330万人が国内にとどまり保護を求めています。
きょう来日した国連のフィリッポ・グランディ難民高等弁務官にインタビューしました。
高等弁務官はガザやウクライナなど世界各地に人道危機が広がり、アフガニスタンの支援がますます難しくなっていると警告しています。
「非常事態が起きるペースがますます早くなり他の危機を追いかけているようだ。アフガニスタンは脇に追いやられて忘れ去られる危機の典型的な例です。他の地域の危機とまったく同じように人々は苦しんでいるのです」
国連はこの地震で20万人をこえる人たちが緊急援助を必要としているとしてテントや水、食料をはじめとする救援物資を提供し、保健衛生や感染予防、それにトラウマを負った子どものサポートなどにあたっています。しかし、国際社会の支援には大きな障害が立ちはだかっています。
▼1つは、アフガニスタンではインフラ整備や貧困対策に加えて去年6月の地震の被災者支援などに追われ、どの援助機関もすでに手一杯なことです。ロシアのウクライナ侵攻に加えてガザを舞台とした軍事衝突に世界の目が向けられ、アフガニスタンへの関心がますます低下しています。このため新たな支援を行うための資金と要員が決定的に不足しています。
WFP・世界連食糧計画によれば、アフガニスタンでは地震の被災者を含め1500万人が、十分な食料を得られないため命が危険にさらされている「急性食料不安」の状態にありますが、それらの人々を支援するために必要な資金は2割しか集まっていないということです。
▼もう一つの障害は、タリバンです。国際社会はタリバンをアフガニスタンを代表する政府とは正式に認めておらず、日本をはじめほとんどの国がタリバンへの直接支援を行っていません。タリバンによる厳しい規制や女性スタッフの活動制限などによりアフガニスタンから撤退したNGOも少なくありません。しかし、すべての被災者に支援が行き届くようにするためにはタリバンとの連携が不可欠です。
では国際社会はアフガニスタンとどう向き合えばよいのでしょうか。
▼最も重要なのはアフガニスタンを見捨てないことです。アフガニスタンが再びテロの温床とならないようにもっと関心をもち連帯のメッセージを送り続けるとともに現地の人々に寄り添った支援が必要です。
▼同時にタリバンが国際社会との協調の必要性を認識するように粘り強く働きかけていくことも重要です。医療や教育の分野では女性の活動も認められており、今回の地震の被災者支援にあたっても国連機関や国際的なNGOに協力的だと関係者は話しています。復興には女性の力が欠かせないだけに、これを機に女性の教育や就労制限の見直しを含めタリバンにさらなる歩み寄りを求めていくことが必要です。
▼また、アフガニスタンがこれ以上混乱を深めるとイスラム過激派の台頭を招きかねません。すでに東部を拠点とするIS・イスラミックステート系の過激派組織がこの数年、学校や病院などに対するテロ活動を繰り返し、人道援助団体も攻撃の対象となっています。アフガニスタン、さらには地域の安定のためにも国際社会は目を光らせていかねばなりません。
最後に日本はどのような支援が求められているでしょうか。地震の大きな被害を受けたヘラートで医療支援に携わっている国際的な医療・人道援助団体「国境なき医師団」の日本人看護師、畑井智行さんは、厳しい寒さに備えるため毛布や仮設住宅が必要になると指摘するとともに呼吸器系の病気が増える恐れがあると話しています。そのうえで長期的な支援の必要性を訴えています。
「一気に冬が来ています。テントだけでは寒さをしのげません。最初は支援が豊富ですがときがたつとともに減っていく。長期的な支援をしていただけるとたくさんの命が助かります。日本は地震大国として知られているので、地震が起きたときにどう対応したらよいかよく聞かれます」
日本はアフガニスタンに対してどの国よりも手厚い支援を行ってきました。そうした長年にわたる努力を無にしないためにも息の長い支援が求められます。地震対策など防災面でも日本ができることは数多くあります。
大国のエゴと歴史に翻弄されてきたアフガニスタンの人たちがこれ以上苦しむことのないようにアジアの一員として日本こそ果たすべき役割があるのではないでしょうか。
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