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ブロック塀倒壊はなぜ防げなかったのか 福井県鯖江市で通学途中の児童が重傷

中村 幸司  解説委員

危険なブロック塀は、いつになったら、なくなるのでしょうか。2023年9月、福井県で、通学途中の小学生が倒れてきたブロック塀で足の骨を折る大けがをしました。
これを聞いて、2018年の大阪府北部の地震(=「大阪北部地震」)で小学生の女の子が倒れてきたブロック塀で亡くなったことを思い出す人も多いと思います。この大阪の地震をきっかけにブロック塀の安全対策が全国で進められました。それなのに、なぜ、また、ブロック塀が壊れ、子どもがけがをしたのでしょうか。
今回は、ブロック塀の倒壊をなくすために何が求められるのか考えます。

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ブロック塀が壊れたのは、福井県鯖江市です。下の写真がその現場です。

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ブロック塀倒壊現場(鯖江市 2023年10月撮影)

9月26日の朝、通学途中の小学6年生の男の子が、倒れてきたブロック塀に挟まれ、足の骨を折るなどの大けがをしました。男の子が他の児童を待っていた際に、塀を手で触ったところ、塀が崩れてきたということです。

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鯖江市教育委員会によりますと、このブロック塀は、もともとは6段積みで、基礎部分を含めて高さは1メートル30センチです。上から2段のブロックが崩れたということです。

このブロック塀がなぜ倒壊したのか、詳しい原因は教育委員会などが調査しています。
ただ、この塀については、構造上重要な鉄筋に問題があったと指摘されています。

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建築基準法では、ブロック塀の内部に縦方向と横方向の鉄筋を定められた間隔で通すことになっています。

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しかし、崩れた上2段のブロックには、少なくとも縦方向の鉄筋が通っていなかったとみられています。

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また、縦の鉄筋に別の鉄筋(上の図で青色で示した鉄筋)を引っ掛けて、道路側に倒れないようにする「控え壁」という支えを塀の裏側に1つ以上設置する必要があります。しかし、控え壁はありませんでした。

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この鉄筋や控え壁については、1971年の建築基準法の改正で規定が盛り込まれました。市教育委員会によりますと、この塀が作られたのが1971年より前か後かは、10月11日現在確認できていないということです。ただ、いずれにしても、今の建築基準法には適合していない疑いがあるとされています。

危険なブロック塀が、なぜあるのでしょうか。

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ブロック塀の倒壊というと、2018年の大阪北部地震が記憶に新しいところです。大阪・高槻市で小学校のプールのところにあったブロック塀が道路側に倒れて、通学途中の当時小学4年生の女の子が亡くなりました。

その後、どのような対策がとられたのでしょうか。
文部科学省は、
▽学校施設のブロック塀の安全点検、
▽そして、通学路の安全性についての確認などを行うこと
などを全国の学校関係者に通知しました。
国土交通省は、
▽学校に限らず、ブロック塀の所有者に対し、安全点検をするよう注意喚起を行いました。
▽また、危険なブロック塀の撤去・改修などに、国や自治体の補助制度を利用するよう促しました。

しかし、安全点検の進め方は、自治体によって様々です。

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鯖江市では、大阪北部地震の後、子どもたちの集合場所などから学校までの通学路については、教職員らが点検して回りました。通学路以外の塀は、保護者や地元の人たちに点検してもらいました。そして、危険とみられる塀があった場合、専門家に見てもらうようにしたということです。

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今回、塀が崩れた場所は自宅と集合場所の間で、通学路以外にあたります。しかし、保護者などから「危険な塀がある」といった連絡はなかったということです。
こうして、この塀は撤去や改修などの措置はとられないままでした。

大阪北部地震の後の対策には、全国的にも課題があります。

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点検の対象は、学校の周囲や通学路が中心で、それ以外の塀は、一部しか点検していない自治体が少なくありません。また、ブロック塀の点検には、専門的な知識がないと危険性を見逃すことも考えられます。
そして、国土交通省の対策に「所有者への注意喚起」とありますが、所有者つまり住宅であれば住んでいる人が、どれだけブロック塀の点検をしたでしょうか。

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ブロック塀の安全に詳しい専門家は、「ブロック塀は、適切に作り、適切に維持管理することが重要だ。そうしないと人がけがをするなどの被害があったとき、所有者としての責任を問われることもありえる」と話しています。所有者は、自分の塀の安全性に高い関心を持つ必要があります。

では、どうすればいいのでしょうか。
ここで参考になるのが、宮城県石巻市の取り組みです。石巻市では、大阪北部地震の後、2年かけて、点検をしました。

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注目点の1つは、点検の対象が市内にある高さ1メートルを超えるブロック塀「すべて」としたことです。その数は、およそ1万6700か所にのぼりました。
もう一つ注目されるのは、点検の方法です。現場の調査は、講習を受けた地元の業者が行いました。塀の傾きや、ひび割れの入り具合、控え壁があるかどうかといったことはもちろんですが、外観を見ただけではわからない鉄筋が基準通りに入っているかどうかについても、金属探知機を使って調べました。
そのうえで、危険性の判断は、ブロック塀について専門知識のある市の職員が担当しました。

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その結果、「緊急に改善する必要」があるとされた塀は、718か所ありました。このうち、72か所は通学路にありました。
石巻市では、この調査結果を学校に情報提供しています。受け取った学校では、危険なブロック塀があれば、通学路を変更するといった措置を取りました。

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緊急に改善が必要な塀については、
▽市の職員が個別に訪問して、所有者に塀の問題点や危険性の度合いなど調査結果を説明し、対策を求めました。
▽通学路の危険な塀については、その場所を市のホームページ上の地図に掲載しています。
こうすることで、通行する市民らも危険な塀の位置を知ることができます。
取り組みの結果、通学路の危険な塀は、72か所から17か所(2023年8月時点)にまで減ったということです。ホームページに掲載したことが、結果として所有者に対策を促すことにつながったのだと思います。
石巻市の取り組みは、全国的にも先駆的なものと言えます。一方で、ここまで対策をしても、危険な塀をなくすことができないという限界も感じます。

では、いま、何が求められているのでしょうか。

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文部科学省と国土交通省は、福井県で子どもが大けがをしたことを重く見て、「必要な対策を検討している」とコメントしています。
取材をして感じるのは、自治体によって取り組みに差があることです。
安全点検は、実効性を上げるためにも、正確な判断をするためにも、より多くの塀を専門知識のある担当者が行うことが大切です。そうした徹底した対策が全国に広がるよう、国は取り組みが遅れている自治体を支援するなど、対策のレベルを引き上げていくことが重要だと思います。
そして、塀の所有者の意識も大切です。ブロック塀が倒壊して命を落としたり、けがをしたりするのは、多くの場合、所有者ではなく、たまたま近くにいた人になります。所有者は、自分のブロック塀の安全性確保に責任があるという認識のもと、対策をする必要があります。

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ブロック塀の問題には、長い歴史があります。1978年の「宮城県沖地震」では、15人が塀の倒壊で死亡しました。亡くなった人の多くを占め、大きな社会問題となりました。
それから45年。この間、塀の倒壊は繰り返されました。地震が起きていないのに塀が倒れた、今回のケースは、今も危険な塀が身近なところにあることを示しています。
ブロック塀は、適切に設置し、管理しなければ、人の命を奪うことがあります。そのことをあらためて認識し、国、自治体、そして所有者は対策を進めなければなりません。


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