来年度の予算編成作業が本格化しています。各府省庁が少子化対策の加速化や防衛力強化などの予算を要求し、要求額は過去最大となりました。様々な予算要求にどう優先順位をつけ、財源をどう確保するのか課題は山積しています。
解説のポイントは三つです。
1) 過去最大の予算要求が抱える課題
2) 必要性高まる新たな財源の確保
3) 教訓に~過去の予算の使われ方
1) 過去最大の予算要求が抱える課題
まず、来年度にむけた各省庁の予算要求の内容についてみてゆきます。
要求総額は一般会計で114兆3852億円となり、過去最大となりました。このうち政策に関する予算がどれだけ増えたかをみてゆくと、防衛省が、弾道ミサイルも含めたさまざまなミサイルに対する防衛能力を高める「統合防空ミサイル防衛能力」に1兆2713億円を要求するなど、要求額はあわせて7兆7385億円と今年度の当初予算よりも1兆円近く増えました。また厚生労働省が、高齢化に伴う社会保障費の増加を踏まえ、33兆7300億円と、今年度よりも5900億円増えています。
このほか、今回は、少子化対策の加速化の予算が、年末にかけて具体策の規模や開始時期が決まるのを待って予算額が見積もられることから、現段階で具体的な金額を示さない「事項要求」という形で予算が要求され、実質的な要求額はさらに膨らむ見通しです。
こうした予算要求が抱える課題の中で、まず事項要求についてみてゆきます。
事項要求というのは、来年度に予算が必要となることが見込まれるものの、どのくらいの額が必要となるか、8月末時点では見極めがつかない場合に、例外的に項目だけ要求できるというものです。感染状況が見通せない時点では予算がいくら必要になるかわからないコロナ対策などが典型的な例ですが、去年は防衛費などで行われたのに続き、今年は、少子化対策を加速化させる政策など、適用される範囲が広がっています。
しかし事項要求をめぐっては、予算の査定が甘くなるのではないかという懸念が出ています。通常財務省は、8月に締め切る予算要求に先立って、各府省庁からの要求額の上限を決めます。そして、各府省庁は財務省に要求する前に、所管する政策の優先順位を見定めて要求額を絞り込み、その後財務省が時間をかけて査定し予算案を作ります。
ところが事項要求は、金額を明示しないため、上限の枠の外で行われます。その結果、各府省庁段階で予算を絞り込むフィルター機能が低下してしまうというのです。専門家の間では、事項要求の事業について、適切な査定が行われたかを、事後的に検証する仕組みが必要だという指摘が出ています。
2)必要性高まる新財源の確保
次に今回の概算要求で、政策のための経費以外の予算で注目されるのが、国債費の大幅な増加です。
国債費とは、発行積みの国債=つまり政府の借金の返済や金利の支払いに必要な予算のことで、来年度に向けての要求額は今年度より2兆円余り多い28兆1400億円に膨らんでいます。このうち金利の支払い=いわゆる利払い費だけで、一兆円以上増えています。これは予算を見積もる際に、前提となる10年もの国債の金利を、去年は1.3%だったのを、今年は1.5%に設定したためです。背景には、今年7月、日銀が10年の長期金利の上限を0.5%に抑え込む政策を修正するなど、金利の上昇を容認する政策を段階的に進めてきたことがあります。利払い費はこれまで超低金利の中で増加のペースがゆるやかなものとなっていましたが、今後は金利上昇で増加のペースが速まり、歳出圧力が高まるおそれもあります。そうなると重要になってくるのが、新たな財源を確保し、借金に過度に依存しない財政です。
こうした中で、政府は、少子化対策をめぐって今後3年かけて年間3兆円台半ばの予算を確保する方針です。財源は、歳出改革や、社会保険財政を活用した「支援金制度」などでねん出しますが、足りない分は借金で賄うとしています。また防衛費については、今年度から5年間で43兆円程度に増加させ、その増加分の財源の一部を増税で賄うとしています。ただ、増税の開始時期については、当初は「2024年以降」としましたが、今年6月の経済財政の基本方針いわゆる「骨太の方針」では「2025年以降とすることも可能」とされました。増税開始の時期が遅れれば、その間別の財源で賄う必要がでてきます。重要な政策の裏付けとなる財源をどう確保し、借金の増加をどれだけ抑えることができるか。国民にわかりやすい形で、議論を行ってもらいたいと思います。
3) 教訓に 過去の予算の使われ方
さて、効率的な予算を組んでいくためには、過去の予算の使われ方を振り返り教訓を見出すことが必要だという指摘があります。ここからは、コロナ対応で膨らんだ予算がどう使われたかみてゆきたいと思います。
日本の予算は、コロナ禍をきっかけに感染防止対策や経済対策などの予算が増えたことで、大きく規模が膨らみました。こうした中で今年の骨太の方針では、「歳出構造を平時に戻していく」方針が打ち出されています。
ではコロナ対策の予算はどのように使われていたのか。実は、政府は、コロナ関連の予算が、どの事業にどう使われたかの全体像について公表していません。そこで政府から独立する会計検査院が調べたところ、令和3年度までの3年間で、感染症防止策でおよそ15兆9000億円、経済・雇用対策でおよそ50兆8000億円の支出が行われていたことがわかりましたが、中には、残念な使われ方をされたケースもあったといいます。
例えば、「新型コロナ感染症対応地方創生臨時交付金」を活用した事業の中の、596の市区町村で行われた商品券の無償配布事業。この事業では、自治体が住民に商品券を無償で配布し、住民が店での買い物に商品券を使います。そして多くの自治体では、店が受け取った商品券を換金する業務を地元の商工会などに委託し、換金に必要な資金の総額を前払いしていました。しかし実際には、配られた商品券の一部は使われず、換金されなかった資金が商工会などの手元に残るケースもありました。問題は、30の市区町村で、残った資金を自治体に返すなどのルールを決めておらず、国から受け取った6695万円分あまりの交付金が滞留したままになっていたということです。本来であれば、使われずに余ったお金は早期に国に戻され、貴重な財源として他の形で有効に活用されていなければならないはずです。
もう一つの例は、コロナ禍で生活が苦しくなった市民を支えるため、水道料金を減免する事業です。会計検査院が検査した293の市町村のうち、84の市町村で、管内のすべての契約者の水道料金を減免していたことがわかりました。この結果、たとえば堺市では、警察署や刑務所などの公的機関の利用に関わる2177万円あまりについても減免の対象となるなど、多くの市町村で公的機関の水道料金が減免されることになりました。この交付金をめぐっては、ほかにも、政策の趣旨に沿わない使い方がされたケースが見られたということです。
今後本格化する予算編成過程で、政府としては、各府省庁から要求された予算項目について、政策の必要性や、他の予算との間の優先順位を見極めて厳しく査定するのは当然ですが、実際にその予算が政策の趣旨に沿って適切に使われていたか、効果的にその役割を果たしていたかなどを事後的に検証し、その教訓を将来に生かしていくことも、大事なのではないでしょうか。
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