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東海道新幹線 お盆のダイヤ混乱 原因と再発防止策

中村 幸司  解説委員

お盆休みとも重なった2023年8月15日から3日間、新幹線のダイヤが大幅に乱れました。台風7号の接近に伴って、東海道・山陽新幹線で「計画運休」が実施されたのに続いて、翌日、静岡県で降った大雨の影響でダイヤが乱れ、これがなかなか解消されませんでした。
特に8月16日から17日にかけてのJR東海の対応は、課題を残しました。

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この3日間を振り返ってみます。

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8月15日、台風7号の影響で、東海道・山陽新幹線の一部区間で計画運休が行われました。16日には、静岡県内で大雨が降り、特に東海道新幹線のダイヤが大きく乱れました。その影響は、静岡県の大雨がおさまったあとも続きました。
今回、課題として指摘されているのは、ダイヤの乱れが、日をまたいで翌日の17日まで続いた点です。
長時間のダイヤの乱れの原因と、再発防止策を考えます。

何が起こったのか、時系列でみてみます。

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8月15日。台風7号が接近、通過しました。これに伴い、東海道新幹線と山陽新幹線では、名古屋駅と岡山駅の間で「計画運休」が実施されました。JR東海と西日本が、計画運休について最初に発表したのは、10日でした。早めに情報提供したことから、お盆休みの計画を変更した人も多く、駅に大勢が詰めかけるといった混乱はありませんでした。
計画運休が、鉄道会社、利用者ともに定着してきた印象を受けました。
ただ、あとで述べますが、この15日の運休が、16日、17日のJR東海の判断に影響することになります。

16日。台風の影響は解消され、東海道新幹線、山陽新幹線ともに始発から通常通りの運転を始めました。

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しかし、静岡県内で雨が強まり、午前8時半ころから11時半ころまで、静岡県内の雨量計が断続的に規制値を超えました。雨による運転見合わせの区間は、三島-静岡の間から、次第に広がりました。そして、東京から博多までの全線が、運転見合わせになりました。

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その後、東海道・山陽新幹線は、直通運転を取りやめ、新大阪駅で折り返し運転することになりました。昼を過ぎて、山陽新幹線と東海道新幹線は、順次、運転を再開しました。
これで運行は正常に向かうように思えますが、そうはなりませんでした。
折り返し運転をしたことで、列車本数の多い東海道新幹線は、JR東海の担当者が経験したことのない事態に向かい始めていました。

どういうことなのか、直通運転と折り返し運転の違いを見てみます。

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直通運転のときは、上り下りとも新大阪駅で、2分ほど停車して、出発します。一方、折り返し運転では、到着した時、すべての乗客を降ろすため、停車時間が長くなります。また、発車するときも、しばらく停車する必要があり、駅での停車時間は、合計6分から10分程度と長くなります。これによって、新大阪駅の空いているホームが少ない状態が続くようになりました。

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さらに、折り返しでカギを握っているのが、新大阪駅の京都駅よりにある車両基地です。多くの列車を留め置く施設で「鳥飼車両基地」と呼ばれています。
折り返しでは、車内清掃や座席向きの転換といった作業をしますが、新大阪では、その多くを駅ではなく、車両基地で行っています。折り返しで車両基地に入ってくる列車が多くなりました。
その結果、駅から車両基地に入れるのにも、車両基地から出すのにも時間がかかるようになり、ダイヤの乱れが解消できなくなりました。

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状況を改善させるには、運転本数を減らす必要があります。しかし、ここで、前日15日の計画運休が影響してきます。お盆で移動したい人が多いことが予想されるため、JR東海の担当者は、「なるべく多くの列車を走らせようと考えた」と話しています。新幹線を利用する人たちの利便性を考えた判断でしたが、このことが、結果的に遅れの解消を難しくしました。

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新大阪駅では、帰れなくなった乗客用に3つの編成を「列車ホテル」として用意しました。これにより、空きホームが少なかった新大阪駅は、ますますホームを確保しにくい状況になっていきました。

こうして通常ダイヤに戻せないまま、17日の始発時刻=午前6時を迎えました。

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JRは、車両基地の列車を効率的に減らそうと、博多方面にだけに出発させる措置を取りました。

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一方、東京方面の列車はやりくりがつかず、新大阪発東京行の始発が出発できたのは午前8時16分。2時間あまりの遅れでした。次第に、車両基地の列車の数が減少するなど、問題が解消されてきました。東海道新幹線のダイヤがほぼ正常に戻ったのは、午後4時ころでした。

では、ダイヤの混乱を、なぜ防げなかったのでしょうか。

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原因の第一は、運転本数を減らす措置が十分ではなかったことにあります。
JR東海によると、新大阪駅での折り返し運転は、これまでも経験していて、担当者は、当初、「対応できる」と考えていました。しかし、駅の空きホームが少なくなり、車両基地にここまで列車が多くなったのは、初めての経験でした。事態を収束させるために、どこまで運転本数を減らす必要があるのか、適切に見極めることができず、影響が17日まで長引くことになりました。

再発防止に、何が求められるのでしょうか。
ひとつは、今回の状況を検証することです。

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そのうえで、シミュレーションを重ねるなどして、新大阪駅や車両基地が限界になるのはどういった時なのか、その条件を把握することが大切になります。限界に近づいたときに、適切なタイミングで運転本数を減らせるようにする、いわば「予防策」につなげる必要があります。

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もう一つは、今回のように駅と車両基地の双方が限界を超える事態も、想定しておかなければなりません。そのために、例えば、車両基地や新大阪駅に滞った列車を東京方面や博多方面に回送で移動させる方法も検討しておく必要があると思います。

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山陽新幹線を運行しているJR西日本との調整は必要になりますが、東海道・山陽新幹線全体として、乱れたダイヤを回復する最適の手段として、どうすれば良いのか。今回を機会に検討することが求められます。

さらに、今回、課題とされているのが、利用者への情報提供です。特に、17日の始発の運転見通しの伝え方には問題がありました。

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16日午後10時半の時には、遅れや運休が発生する可能性に触れてはいますが、17日は「始発からおおむね通常通りの運転を見込んでいる」と発表しています。始発が遅れることを発表したのは、午前5時55分。始発発車時刻の5分前でした。

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16日夜というと、東京発の列車に4時間以上の遅れが出ていました。また、新大阪駅と車両基地では、経験したことのない事態が起きていました。これだけ不確定要素が多いことを考えれば、運行の計画が大きく変わることは、ある程度、想定できたのではないでしょうか。状況が見えてきた段階で、少しでも確度の高い情報を出せるように、未明であっても、1時間おき、あるいは2時間おきと時間を定めて、情報を発信することが必要だったと思います。
利用者が必要な情報を、よりきめ細かく伝えるためにどうすればいいのか、検討を進めることが大切です。

8月16日と17日に、東海道新幹線のダイヤの乱れの影響を受けた利用者は、合わせておよそ51万人にのぼりました。大勢の乗客が利用する日本の交通の大動脈=新幹線には、ダイヤが乱れた際に、その影響を最小限にする対策を追求していくことが求められています。


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