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秋の政治展望

曽我 英弘  解説委員

岸田内閣の支持率下落が止まりません。マイナンバーカードをめぐるトラブルは終わりが見えず、看板政策の財源確保にも結論を迫られています。衆議院議員の任期がこの秋、折り返しを迎えるのを前に、政治に問われるものを考えます。

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【内閣支持続落】

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8月14日に公表された最新のNHK世論調査の結果です。岸田内閣の支持率は7月より5ポイント減って33%。一方「支持しない」人は4ポイント増えて45%。支持率が59%とピークだった去年7月から26ポイント減らし、去年11月、ことし1月とともに最も低くなりました。

【支持低下は自民も】

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岸田内閣が発足して1年10か月。この間、旧統一教会をめぐる問題などで内閣の支持率が落ち込んでも、自民党は大きくは下がらず、逆に上昇する月もありました。しかし今年に入って異なるのは、自民党の支持も徐々に低下している点で、8月は34.1%と最も低くなりました。岸田政権は現在、各派閥が支持し、衆目の一致する「ポスト岸田」も見当たらないこともあり党内基盤は比較的固いと言えますが、今の傾向が続けば、不安定化する可能性も否定できません。

【秋以降の政治 焦点は衆院解散時期】
こうした状況で、秋以降の政治はどう展開するのでしょうか。

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焦点は衆議院議員の任期が10月に折り返し、残り2年となる中で、岸田首相が先の通常国会で見送った解散にいつ踏み切るのかに絞られます。最も早くて、9月中旬にも内閣改造・党役員人事を行ったうえで、秋の臨時国会で解散するケースですが、支持率が下げ止まらず、マイナンバーカードをめぐるトラブルの総点検が終わらないうちは難しいという見方もあります。次が来年1月の通常国会の冒頭、または来年度予算成立後の4月以降のケースです。9月の自民党総裁の任期満了前に衆院選で勝利すれば、総裁の再選が確かになるのではというのが首相周辺の見立てですが、あくまで来年の政権の状況次第とも言えます。この後となると、再来年10月の衆議院議員の任期満了まで1年を切ることになり、政権に有利な形で解散を打つタイミングを失うことへの懸念が党内にあります。

【先送りの懸案①マイナ保険証】
衆院解散の時期を考える上で重要な判断材料が、結論を先送りしてきた懸案事項に岸田政権が秋以降、どう決着をつけるかでしょう。

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中でも今の健康保険証を廃止してマイナンバーカードと一体化させる「マイナ保険証」。岸田首相は健康保険証を来年秋に廃止する方針は当面維持する一方、11月末を期限とした総点検の結果を待って、廃止を延期するか改めて判断するとしています。その結果次第では、健康保険証の廃止の是非も含め再び大きな議論になる可能性があります。
また岸田首相は、「マイナ保険証」を持たないすべての人を対象に、保険医療が受けられる「資格確認書」を配布するとしています。確認書は有効期間1年の更新制とするのが当初の計画でしたが、最長5年まで利用可能としたことで、現行の健康保険証と何が違うのかといった疑問の声も上がっています。また地方自治体や健康保険組合などにとっては確認書によって新たな事務負担やコストを強いられることになります。
医療のデジタル化は行政の効率化にとどまらず、医療情報を患者と医師などが共有することで、よりよい医療が受けられるほか、不正請求を防ぐなどのメリットもあります。それだけに、個人情報の保護を含めた国民の理解と納得が、円滑な制度導入のカギとなります。

【先送りの懸案②財源確保】

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また看板政策の裏付けとなる財源確保についても秋以降、結論を迫られています。このうち少子化対策をめぐって政府は、今後3年かけて年間3兆円台半ばの予算を確保する方針です。歳出改革や、社会保険財政を活用した「支援金制度」などでねん出しても足りない分は特例公債、つまり借金で賄うとしていますが、与党との調整はこれからです。
また防衛費の増額について政府は、今年度から5年間で43兆円程度とする増加分の一部を増税で賄うことにしています。ただ開始時期について政府はこれまで、「2024年以降」と説明してきましたが、6月の「骨太の方針」では「2025年以降とすることも可能」と書き込みました。国民負担にもつながる一連の問題をどう判断するのかも、政権の行方を左右しそうです。

【内閣改造・自民党役員人事】

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そして9月中旬にも行われる今回の内閣改造・党役員人事。岸田首相にとって一連の重要課題に取り組む態勢を強化するとともに、次の衆議院選挙、さらにおよそ1年後の自民党総裁選挙に備える狙いもあるとみられます。このため麻生副総裁、茂木幹事長ら政権の「骨格」は維持するのではないかという見方があります。中でも茂木氏の処遇が注目されるのは、去年の参議院選挙などを勝利に導いた一方で、「ポスト岸田」への意欲を隠さないことに首相周辺には警戒感もあるためです。また連立を組む公明党との意思疎通が時に十分でなく、次の衆院選で東京は選挙協力を解消するに至ったことに与党内の不満や批判も少なくありません。
一方前回2年前の総裁選で争った河野デジタル相や高市経済安全保障相を今後も閣内に取り込むかどうかや、新しい体制をめぐる議論が続く安倍派から誰を起用するかもポイントです。党内にはこれを機に顔触れを大幅に変えるべきだとの声もありますが、去年夏の人事後、閣僚4人が相次いで辞任したような事態を再び招けば政権の浮揚はいっそう難しくなるだけに、人選は慎重に行うとみられます。

【どうする野党】
では野党は秋以降、どう臨むのでしょうか。

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立憲民主党は支持率で日本維新の会を下回って押され気味で、国民民主党との連携はうまくいかず、共産党との関係は党内の火種にもなっています。これに対し維新は野党第一党を目指して地盤の関西以外の地方選挙でも新人候補が当選するケースが増える一方で、幹部や党所属議員の言動が物議を醸すことも目立ちます。野党内は次の衆議院選挙に向けた協議どころか非難や挑発の応酬が続く状況で、このままでは共倒れに終わる選挙区は少なくないとみられます。このため候補者の調整が無理ならいっそのこと野党間で予備選を行い一本化すべきだという声も一部にはあります。その効果や実現可能性に見方は分かれますが、次の衆院選でどの野党も単独で政権を獲得する姿が見通せない以上、自民・公明両党と互角に渡り合うため野党同士で何らかの連携を優先するのか。それともまずは野党内での競争に勝ち抜き勢力を広げた上で、与党側と政権の座を争うのか。与党との距離感も含め、立民と維新の戦略や路線の対立が激しくなりそうです。

【政治に問われるものは】
秋以降の政治は、次の衆議院選挙を政界全体が強く意識しながら展開するとみられます。ただ賃金や物価など国民生活の動向は依然予断を許さず、国際社会の緊張も続いたままです。また政治とカネをめぐる問題も後を絶ちません。これに真正面から向き合い取り組んでいるのはどの政党・政治家か。それとも選挙向けの単なるアピールにすぎないのか。その点を国民がしっかり見ていることを最後に指摘しておきたいと思います。


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