中古車販売大手のビッグモーターが、顧客から預かった車を、故意に傷つけるなどして、保険金を不正に請求していた問題。政府の各省庁が相次いで調査に乗り出すなど影響が広がり、保険の契約者だけでなく、幅広い車の利用者から不安の声が上がっています。今後は、実態の解明を進め、被害の回復、そして、再発防止につなげていくことが求められます。
【不正の実態と背景】
(不正の実態)
まず、不正の実態です。外部の調査委員会がまとめた報告書によりますと、ビッグモーターは、全国の整備工場で、事故にあって顧客から預かった車を
▼ ドライバーでひっかいて傷をつける
▼ ゴルフボールを靴下に入れて、たたいて傷の範囲を広げるなど
「刑法の器物損壊罪にも、あたるおそれがある非常に悪質な行為」に及んでいたと指摘されました。さらに、
▼ 本来必要でない部品を交換するなどの行為も行い、
保険会社に修理代を水増しして請求。保険金を不正に得ていたとしています。
サンプル調査をした2717件のうち、44%で、こうした不適切な行為が行われた疑いがあったと言います。
お客さんから預かった車を修理する立場なのに、逆に、故意に傷つけるということは、利用者の信頼を裏切る、場合によっては、運転の安全性に問題が生じかねない、許すことができない悪質な行為です。
(背景)
なぜ、こうした異常な行為が全国の工場で蔓延していたのでしょうか。
調査報告書が背景として指摘しているのは、「合理的でない目標値の設定」、そして「経営陣にそのまま従ういびつな企業風土」です。
事故を起こした車の修理代は、本来、傷の状況によって決まります。ところがビッグモーターは、修理による利益などの目標を、1台当たり「平均14万円前後」と、いわばノルマとして設定し、達成できない場合、強く叱責。そして、経営陣などが一方的な通告による降格処分も頻繁におこなっていたといいます。そうした強いプレッシャーが、社員を過度に委縮させ、経営陣の意向にそのまま従う、企業風土をつくる要因になったと、報告書は指摘しています。
【政府の調査】
実態の解明に向け、政府も動き出しています。
(国土交通省⇒ビッグモーター)
国土交通省は、先月、車の整備や車検を管轄する立場から、不正の疑いが指摘された34の整備工場に一斉に立ち入り調査を実施。その上で、全国135の工場に対して、必要な検査をせずに車検を通したり、保険を使った・使わないにかかわらず不正な修理をしたりして、顧客からお金をとっていないかなどについて、調査をして報告するよう求めました。
道路運送車両法は、実際に行っていない整備や、頼まれていない整備で、料金を請求することを禁止しています。国土交通省は、法令違反が認められれば、工場ごとに、一定期間の営業停止や認証の取り消しなどの行政処分を検討する方針です。
(金融庁⇒損保会社)
また、金融庁も、保険会社を監督する立場から、ビッグモーターと保険代理店契約を結んでいた損害保険会社7社に対して、保険業法に基づいて、取引の実態や保険金の不正請求を防ぐ体制などについて報告を求める命令を出しました。
損保各社は、自動車事故にあった契約者に、ビッグモーターの工場を紹介し、紹介実績に応じて、ビッグモーター側が自賠責保険の契約を各社に割り振るという、持ちつ持たれつの関係が続いてきました。不正を見抜けなかったことに対して、責任を問う声も上がっています。特に、「損保ジャパン」については、ビッグモーターに出向していた社員から、不正の可能性があるという情報を得ていながら詳細な調査をせずに、いったん中止していた、ビッグモーターへの紹介を再開していた。また、ビッグモーターについて損害の査定を簡略化していた、ということがわかっています。不正の可能性があることを把握していたのに、調査を怠って契約者にビッグモーターを紹介していたとしたら、それも、消費者に対する裏切り行為です。金融庁は、契約者の保護に欠けるなど問題が認められた場合、厳しく対処する方針です。
【求められる被害の回復と再発防止】
(広がる不安)
全国の消費生活センターには、ビッグモーターに関する相談が、2022年度に1491件よせられました。9年で5.7倍に増えています。
利益最優先。利用者を軽視する体質が露呈したことで、消費者の間からは、
▼ 整備不良の車を売りつけられたのではないか。
▼ 車検で必要な点検がされていなかったのではないか。
▼ 不必要な保険の契約を結ばされていなかったか。
といった、不安の声も上がっています。
ビッグモーターの不正がどこまで広がっていたのか。そして、損保会社にも、ビッグモーターとのもたれあいや、見て見ぬふりの関係がなかったか。関係省庁は、徹底的に実態解明を進めることが求められます。
(消費者の被害は)
この問題。最終的な被害者は、消費者です。ビッグモーターが、水増しした修理代。
▼ 利用者が、修理代を自己負担で払った場合、水増しされた分、利用者が余計な負担を払わされていたことになります。
▼ 一方、保険を利用した場合、その時点で利用者の負担はありませんが、翌年以降、事故を起こすリスクに応じて決まる、自動車保険の等級が下がり、払う保険料が上がります。
▼ さらに、保険会社がビッグモーターに、過大な保険金を払い続けてきたことで、ビッグモーターとは関係のない、他のすべての契約者の保険料も、適正な水準より割高になっていた可能性もあるとして、損害保険各社で構成する損害保険料率算出機構が、各社に報告を求めていく方針です。
(被害の回復を)
▼ 損保各社は、契約者から相談を受け付ける窓口を設置。自ら調査をするとともに、ビッグモーター側に、情報の提供を求め、不正が明らかになった場合、契約者と相談し、要望があれば保険を本来の等級に戻し、払いすぎていた分を返金する手続きを進めることにしています。
▼ また、保険会社の中には、保険を使った、使わないにかかわらず、過去3年間にビッグモーターで修理をした契約者に連絡をとり、修理に不安があるという場合、点検の費用を負担する方針を打ち出すところもでています。
ビッグモーターと損保会社は、連携して、過去にさかのぼり、修理をしたすべての案件について、社員への聞き取りを含め、徹底的に調査して、被害の回復を進めることがまずは、求められます。その上で、点検や再修理への支援など、消費者の不安の解消に向けても、丁寧な対応をとってほしいと思います。
(再発防止策を)
今回、ビッグモーターは、社員の内部告発があったのに「もみ消したといわざるを得ない」と調査報告書は指摘しています。また、損保会社だけでなく、政府に対しても、ビッグモーターについての相談が大幅に増えていたことなどを端緒に、もっと早く不正を見抜くことができたのではないか、との指摘があがっています。消費者庁は、ビッグモーターに対して、法律で義務付けられている内部通報の窓口の設置などの体制が不十分だったとして、改善策などについての報告を求めました。
再発の防止に向けては、まずは、企業の内部通報の体制を強化し、損保業界をあげて不正を見抜く体制の強化をはかること。そのためにも、損保会社が、自ら、利用者の利益を最優先に考える体質に変わり、消費者の信頼を取り戻すことが欠かせません。その上で、政府も、情報に対する感度をもっと高くする。そして、省庁など企業の外への告発をしやすくするよう制度の強化を検討することも必要ではないかと思います。
【まとめ】
国や関係業界をあげて、不正の実態を解明するとともに、被害の回復、再発防止、そして信頼の回復に向け、納得のできる対策を尽くしてほしいと思います。
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