大手デパートの「そごう・西武」が、親会社から売却される動きをめぐって、大きく揺れています。関係者との協議が難航し、売却に不信感を募らせる労働組合はストライキに必要な手続きに動き出しています。
今回の売却は、投資ファンドなどの異なる分野から参入していることも異例で、新たな業界再編の難しさを露呈した形となっています。苦境が続くデパートの今後について考えます。
ポイントは3つです。
1)そごう・西武 売却の背景
2)売却への根強い反発
3)苦境のデパート、将来像は。
1) そごう・西武 売却の背景
まずは、今回の前提となるデパート売却の動きについて、振り返ります。
そごう・西武は今から17年前、経営が悪化していて、生き残りを図るために、前身の会社が流通大手セブン&アイ・ホールディングスの完全子会社になりました。一方、セブン&アイは、コンビニエンスストアや総合スーパーの事業などを展開し、事業の多角化の一環として、デパートを傘下に収めました。これにより、コンビニやスーパーなどとの相乗効果を図る狙いがありました。しかし、思うような効果が出ないまま、そごう・西武の業績は、その後も低迷が続きます。足元ではコロナ禍の影響もあって、4年連続の最終赤字となり、3000億円にのぼる有利子負債も重くのしかかっていました。
こうした中、セブン&アイは去年11月、アメリカの投資ファンド「フォートレス・インベストメント・グループ」に、そごう・西武のすべての株式を売却する契約を結びました。それまでの多角化路線を転換し、収益の柱であるコンビニ事業に経営資源を集中するための決断で、いわゆる物言う株主からの圧力に対応する狙いもあります。
一方、買収する投資ファンドは、家電量販店大手のヨドバシホールディングスをパートナーとし、新たな成長を目指す方針を公表しました。関係者によりますと、ヨドバシは、3000億円規模を投資し、そごう・西武10店舗のうち、首都圏の3店舗に家電量販店を出店する計画案を検討しています。ファンドとしては、家電量販店の出店により「新たな消費者のしこうに合った、将来性のある百貨店業態を構築できる」と主張しています。
2)売却への根強い反発
ファンドとヨドバシは現在、買収後の店の売り場構成などについて計画を策定していますが、計画の柱であり、関係者の間で大きな争点となっているのが、売り上げの3分の1を占める、東京・豊島区の旗艦店、西武池袋本店の扱いです。
具体的には、ヨドバシ側は当初、北側エリアの地下1階から上層階で、家電売り場を展開する構想を持っていました。
ところが、こうした構想に、反発の声が相次いだのです。その1つが、そごう・西武の労働組合でした。デパートの売り場が減ると、従業員の働く場も失われるなどとして、4000人近い組合員の雇用の維持と、デパート事業の継続に対する明確な道筋を示すよう、経営陣と親会社のセブン&アイに強く求めたのです。
そして、労働組合は先週、ストライキを行うために必要な、ストライキ権が確立されたと発表しました。組合員の投票で、投票総数に占める賛成率は93.9%と、圧倒的多数で決定しました。労働組合の中央執行委員長は記者会見で、「親会社の対応は不誠実に映る。会社そのものの存続がかかっている」と述べました。その上で、すぐにストライキを行うわけではなく、交渉力を上げ、労使協議の場を持つことが先決だという考えを示しました。これについてセブン&アイは、「これまで以上に、組合に対し丁寧な対話を進める」などとコメントしていて、合意の形成に向けた協議の行方が、焦点の1つとなっています。
デパートが家電量販店と連携する例は、各地で見られるようになっています。しかし、今回の西武池袋本店への出店をめぐっては、店を構える地元の自治体から、懸念の声が上がりました。
かつての西武百貨店は、「おいしい生活。」のコピーに代表される先進的な広告や、時代を先取りした文化・芸術などの面で、若い世代のファッションやライフスタイルに大きな影響を与える存在でした。その主力店舗とともにまち作りを進めてきた、豊島区の高野前区長は、売却合意後の去年12月の会見で、池袋の顔である駅前のデパートの1階部分など、「低層部に家電量販店が入ることは絶対反対したい」と述べました。前区長の死去に伴い新たに就任した今の高際区長も「今の百貨店が好きな方が来なくなると困る」として、旗艦店のリニューアルに際しては、まち作りへの配慮が求められるという認識を示しています。地元の商店会の会長は、池袋駅周辺には、すでに複数の大手家電量販店が競い合うように出店していて、池袋にこれ以上、家電量販店はいらない、という見解を示しています。さらに店の地権者の西武ホールディングスも、地元も含め、納得する結論を出すことが優先だとして、丁寧な説明を求めています。
セブン&アイは、いわば予想外の批判への対応に追われる形で、当初ことし2月に完了する予定だった売却の時期を2度にわたって延期し、現在は“未定”という事態になっています。一方、ヨドバシ側も、セブン&アイ側との交渉を踏まえ、街の顔となる1階部分は家電売り場を置かずに、海外の高級ブランドの店舗を引き続き展開するなど、当初の構想から地元に配慮する方針を示して、関係者の間で協議が続けられています。
3)苦境のデパート、将来像は?
そごう・西武の売却をめぐる意見の隔たり。それは突き詰めると、経営環境が厳しさを増すデパートの将来像をどう描くかという、業界が直面する課題を映し出しているともいえます。
デパート業界の市場規模は、縮小傾向が続いています。人口の減少に加え、衣料品の専門店やネット通販の台頭などが主な要因です。足もとこそ、富裕層向けの高額品の販売や、コロナ禍からのインバウンド需要の回復でやや持ち直しているものの、コロナ前の水準には届いていません。全国では、地方都市だけでなく、首都圏でも店舗の閉鎖が相次ぎ、店舗数は、ピーク時から4割減少しています。
こうした中、デパート各社は、旗艦店と地方の店舗をオンラインで結んで接客をしたり、専門店をテナントに招いたり、不動産事業を強化したりと、さまざまな方法で収益を高めようと模索しています。
また、静岡市内のデパートは、去年常設の水族館をオープンさせました。物を売るだけでなく、体験型のサービスを立ち上げ、入居するテナントなどと連携して、水族館を訪れた客に飲食店の割り引きを行うなど、地域のにぎわいの場を作ろうと模索しています。
歴史を振り返ると、デパート業界は売り上げが低迷する中、再編が進んできました。ただこれまでの再編は、多くが、同業どうしのいわば合従連衡で進められてきました。それに対し今回、そごう・西武は、投資ファンドの傘下に入り、大手家電量販店の影響力のもとで再建を図るという、これまでとは決定的に異なる構図での再編となります。
デパートをめぐっては、次々と生まれる、ライバルとの競争を強いられ、生き残りは簡単ではないという厳しい見方もあります。こうした中で今回、そごう・西武の売却協議をきっかけに、改めてデパートの存在意義が問われています。関係者には、地域にとって何が必要なのか、そして、消費者が本当に望んでいるものは何か、より突っ込んだ議論をすることを望みたいと思います。
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