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衆院選 揺らぐ"野党共闘"

成澤 良  解説委員

次の衆議院の解散・総選挙に向けて、野党間の主導権争いが活発になっています。
各党幹部の言及が相次いでいるのが、小選挙区で野党候補を一本化する“野党共闘”についてですが、これまでも行われてきた“共闘”が、今、揺らいでいます。

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【立民代表の発言が発端】

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発端は、野党第一党・立憲民主党の泉代表の発言でした。
5月15日のテレビ番組に出演し、次の衆議院選挙で、日本維新の会や共産党と、選挙協力や候補者調整を行うかどうかを問われ、「やらない」と明確に否定したのです。
4月の衆参5つの補欠選挙で立民が議席を獲得できなかったことから、泉代表には、党の独自性を打ち出して次の衆院選を戦う決意を示す狙いがありました。

【“野党共闘”とは】

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今の衆議院の選挙制度は小選挙区比例代表並立制で、それぞれの小選挙区では1人しか当選できません。
野党各党が候補者を擁立すれば、与党への批判票が分散し、結果的に与党を利することになるとして、野党候補を一本化し、与党候補と対決する構図をつくって勝利を目指すのが“野党共闘”です。
2021年の衆院選で、立憲民主党・共産党・国民民主党・れいわ新選組・社民党の5つの野党は、289の小選挙区のうち213で候補者を一本化しました。
日本維新の会は「他の野党とは一線を画す」として加わりませんでした。
結果は、立民などの野党側が59勝で、勝率は28%と3割を下回り、立民も改選前から議席を減らしました。
立民の関係者からは「期待ほどの議席増にはつながらなかった」という指摘が出た一方、敗れた野党候補と当選した候補との差が5ポイント以内の接戦だった小選挙区が33あったことなどから「効果は一定程度あり、一本化していなければ、もっと議席を減らしていた」との見方もありました。

【泉代表の方針転換】

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候補者調整を「やらない」とした泉代表の発言には、立民内から異論が噴出しました。
6月、ベテランの小沢一郎氏などが呼びかけ人となって野党候補の一本化を目指す「有志の会」を立ち上げ、賛同者は、党所属の衆議院議員の半数以上にあたる50人あまりに上りました。
小沢氏は「党内では、候補者の一本化や、野党間の話し合いと協力が大事だと考えている人が大多数だ」と指摘しました。
こうした声を受けて、泉代表は、7月に入り、方針転換を余儀なくされました。
通常国会での衆議院の解散がなくなり、少し遠のいたと指摘し「自民党に対じする大きな枠組みの可能性を持っておきたい」として、野党各党と候補者調整を行うよう岡田幹事長に指示したのです。

【立民の戦略】
では、立民は、どのような戦略を描いているのでしょうか。

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まず調整の相手としたいのが、国民民主党です。
国民は、立民と同じく、労働組合の中央組織・連合の支援を受ける政党です。
連合は、両党の候補者の一本化を後押しする姿勢を示していて、立民は、連合の意向をてこに調整を進めたい考えです。
その上で、共産党やれいわ新選組などとも、できるだけ候補者調整を行いたいという狙いがあります。
一方で、立民は、党のコアな支持層であるリベラル層に加え、中道の支持層も獲得したい考えです。
このため、防衛力強化を「大軍拡だ」として反対する共産とは、一定の距離を保っておきたいという本音もあります。

【“共闘”は限定的か】
ただ、“野党共闘”は、これまでより限定的になる可能性が高まっています。

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国民民主党は、防衛力強化を訴えていて、共産とは考え方が大きく異なるとしています。
防衛力強化をめぐっては、立民内の一部にも慎重な意見があることから、国民内には、立民との“共闘”に後ろ向きな声も少なくありません。
玉木代表は「自民党をとにかく1議席でも減らすために、政策抜きで1つにまとめていくことは、国家・国益のためにならない」として、政策面での一致のない候補者調整には否定的です。
また、連合も「目指すべき国家像が違う」などとして、立民・国民両党と共産党との“共闘”に反対している事情もあります。

一方の共産は、立民の対応に不快感をあらわにしています。
志位委員長は「本気の“共闘”が必要だ」として、前回の衆院選と同様に、政策面での合意の締結を求めていて、党内からは「『一方的に候補者をおろしてくれ』というのは受け入れられない」という指摘も出ています。
共産としては、このところの国政選挙で党勢が伸び悩み、党員から公然と執行部批判が出る状況にもなり、次の衆院選で議席を増やすことが大きな課題となっています。
このため、立民の対応が変わらないうちは、比例代表での得票の上積みにつなげるためにも、小選挙区での候補者擁立を積極的に進めるしかないという事情も抱えています。

れいわ新選組は、まずは立民の出方を見極めたいとしています。

立民が“笛吹けど踊らず”とも言える状況に、打開策を見いだす兆しすら見えないようにも思います。

【立民・維新の野党第一党争い】
加えて、次の衆院選では、立民と維新が、野党第一党を争うことが見込まれ、強いリーダーシップを発揮して野党をまとめにくくなっている事情もあります。

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NHKの世論調査で、維新の政党支持率は、4月の統一地方選挙で躍進したあと、5月から7月までの3か月連続で、立民を上回りました。
候補者の擁立でもしのぎを削っています。
立民は、泉代表が150議席を獲得できなければ代表を辞任すると明言し、200以上の小選挙区への擁立を目標に掲げました。
一方の維新は、次の衆院選で野党第一党になる目標を掲げ「候補者調整はやらない」と公言し、全ての小選挙区に擁立したいとしています。
これまでの擁立状況を見てみますと、立民は、150議席の獲得目標に対し、現職93人、元職・新人58人の、あわせて151人にとどまっています。
維新は、現職41人、元職・新人65人の、あわせて106人で、全体では立民が多いものの、現職以外では維新が立民を上回っている状況で、勢いもうかがえます。

【立民の現状は】

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立民では、6月以降、党内の選挙区調整や党の国会運営に対する不満から、所属議員2人が離党届を提出し、1人は除籍になりました。
“野党共闘”をめぐって方針転換した泉代表の求心力の低下も指摘されています。
また、立民内では、2022年の参議院選挙で掲げた「消費税の時限的減税」について、防衛費や少子化対策の財源確保が課題となる中「次の衆院選でも減税に踏み込むのは難しいのではないか」という意見も出ていて、消費税の減税や廃止を主張している他の野党と足並みをどうそろえるのかも課題になります。
岡田幹事長は、候補者調整について「全ての小選挙区で行う必要はない」と述べ、与党の議席を奪う可能性が高い選挙区が対象になるとの認識を示しましたが、先行きは不透明です。
今は、どの野党も、単独では、次の衆院選で政権交代を果たすのが厳しい情勢で、その迫力のなさが“野党共闘”を難しくしている一因にもなっていると思います。

【野党に問われていることは】
次の衆院選について、泉代表は、秋にも召集される臨時国会の冒頭に岸田総理大臣が解散に踏み切り、10月下旬の投開票の可能性もあるとの見方を示しています。
仮にその時期であれば、残された時間はおよそ3か月と、そう多くはありません。
政権への批判票の受け皿を野党がつくり、与党との議席差を少しでも縮めることで、政治に、より緊張感が生まれることになります。
今の政権に欠けている点をただすとともに、どういう社会を目指すのかという明確なビジョンを国民に訴えていくことが野党に問われているのではないでしょうか。


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