急速な普及が進む生成AI。教育現場にも大きな変化をもたらすとみられています。
そんな中、先週、文部科学省は生成AIの学校でのガイドラインを公表しました。
利用の期待と不安が入り混じる中、学校現場でどのように活用していけばよいのか考えます。
【解説のポイント】
① 学校では「限定的」な利用から
② 教育現場の模索
③ 生成AIとどう向き合うか です。
【学校では「限定的」な利用から】
生成AIはあらかじめ学習された大量のデータをもとに文章や画像などを生成する能力をもった人工知能です。
専門的な知識がなくても簡単な指示をテキストなどに入力するだけで、まるで人と会話をしているかのように自然な文章を自動で作ります。
文部科学省は小・中・高校向けの生成AI利用に関するガイドラインを公表しました。
生成AIは偽情報の拡散や個人情報の流出、著作権侵害などのリスクも懸念される一方で「使いこなす力を育てていく姿勢も重要だ」として、活用が有効な場面を一部の学校で検証しつつ「限定的な利用から始めることが適切だ」としています。
示されたガイドラインでは場面ごとに適切な例と、適切でない例を挙げています。
まずは適切な例として
▼子どもたちがグループで考えをまとめたり、アイデアを出したりする途中段階で、足りない視点を見つけ議論を深めるために活用する。
▼英会話の相手として使う。
さらに
▼「情報モラル」を学ばせるため、あえて生成AIの誤った回答などを使って、その性質や限界について生徒に気づかせることなどを示しています。
一方、適切でない例は
▽そもそも、生成AIのメリットやデメリットなどを学習せずに、子どもたちに使わせること。
▽読書感想文などのコンクールやレポートを提出する際、生成AIが作ったものを自分の成果として提出する。
▽定期考査や小テストなどで子どもたちに使わせることなどを挙げています。
文部科学省はあくまでも今回は暫定版であり、今後は科学的な見解などに応じて見直していくとしています。
次の改訂では模範的な授業事例を紹介するなど、実践的な中身が伴ったガイドラインを望みたいと思います。
【教育現場の模索】
では生成AIを使った授業はどういったものなのか。
すでに取り入れている学校を例に見てみます。
東京・小金井市にある東京学芸大学附属小金井小学校で実施されているのですが、私が伺った日は4年生の国語の授業で生成AIが使われていました。
子どもたちはまず教科書の説明文を読んで、筆者が伝えたい部分がどこに書かれているのかを、話し合い、意見を出し合いました。
子どもたちの答えがまとまってきたところで、先生が生成AIに子どもたちと同じ質問をしました。すると、わずか30秒ほどで回答してきたのです。
AIは子どもたちにもわかる、やさしい日本語で答えを返してきたほか、AIが導き出した答えが子どもたちと同じ答えだったことで、子どもたちからは一斉に歓声があがっていました。
授業を担当した鈴木秀樹教諭は
「発達段階に応じて何年生にどれくらい経験させて、みたいなところは正直、まだ手探りなので考えないといけないところがある。今後はガイドラインに書かれていない部分を現場でどうやって埋めていくか、そこは難しいところでもあり、挑戦のしがいもある」と話していました。
ただ、懸念もあります。
授業を行った鈴木教諭はことしの3月から生成AIを使っているのですが、授業で初めて使った時には、あまりにも自然な回答を出してくるので、子どもたちが「君は何歳ですか?」とか「どこの国の人ですか?」などとAIに人格を求めるような質問をしていたということです。
これはまずいということで「AIには人格はない」ということをしっかりと伝えたということです。
また授業の中ではAIは回答を間違えるケースもあるということをあえて体験させ、子どもたちに特性や適切な使い方を理解してもらうように工夫をしていました。
私が取材を通して感じたのは、先生と子どもたちだけだった教室にAIが新鮮な刺激を与え、よりよい学びの場になっているということでした。
ただ、別の学校の先生に取材をするとガイドラインは出たものの、実際の授業で使うにはまだハードルが高いとおっしゃっていました。
授業での活用について、国には検討を重ねてほしいと思います。
【生成AIとどう向き合うか】
さて、ここまで学校での生成AIの活用事例を見てきましたが、保護者の中には「本当に大丈夫なのか」と不安を感じている方も多いと思います。
こちらは教育関連の会社が全国の中学生と高校生の子どもを持つ保護者を無作為に選んで行ったインターネット調査です。
生成AIを子どもの学習に使わせたいかといった質問におよそ半数が「どちらともいえない」と答えました。
では、どんなことが不安なのかを複数回答で聞いたところ、
▼思考力や記述力が育たなくなる が最も多く、
▼AIに依存しすぎる
▼どのような影響を及ぼすかわからない
そして
▼そもそも何ができる技術かよく分からないといった結果となりました。
調査を行った会社では生成AIがどのようなものなのかわからないので、子どもに使わせることに迷いや不安があるのではないかと分析しています。
そんな中、東京の高校では保護者にも生成AIについて知ってもらおうという取り組みが行われています。
東京・江戸川区にある関東第一高校では生成AIの解説動画をつくり、YouTubeで保護者に配信しました。
生成AIの仕組みについて解説したあと、保護者の心配についても多くの時間を割きました。
動画の中で教員は
「出てきた答えは必ず正しいかどうかはファクトチェックをして、子どもたちが信じ込み過ぎないように指導していきます」などと話していました。
この高校では現在、1年生の情報科の授業で使っていますが、
取材に伺った日も教員が生徒の間を巡回して、適切な使い方をしているか確認しながら授業を進めていました。
授業を受けた女子生徒は「生成AIのおかげで知れた情報もあり、新たなアイデアも生まれる」と話していました。
主な生成AIは利用規約で年齢制限が設けられているので、子どもたちに使わせる際には注意が必要ですし、保護者への理解も欠かせません。
高校では今後も必要な情報を保護者に提供していくとしています。
今回、紹介した学校は情報教育に長けている教員がいたことで、導入が早く進んでいました。
しかし、急速に進む情報技術の進化に理解が追いつかず、二の足を踏む教員や保護者も見てきました。
教育現場のICT活用などに詳しい東北大学大学院の堀田龍也教授は
「新しい技術について不安に思う人もいるので今の段階では慎重にスタートし、丁寧に教えながら活用を始めていくことが大切だ。
教員や保護者もまわりの人たちと一緒に使って、仕組みを理解すれば、不安も減ると思う。
便利なものを活用することは社会の発展のために重要で、上手に使える人をたくさん育てていくことが大事だ」と話しています。
教育の基本は自ら考え、もっと知りたい思う姿勢を育てることにあると思います。
生成AIをうまく活用すれば、さらに知的好奇心は広がっていくでしょう。
ただ、生成AIは誤った情報などもあるため、最終的な判断は自分自身で行っていかなくてはいけません。そのためには教科書や本を読んで必要な知識を得ることや、人との交流を通じて経験値を積んでいくことが、より一層、大切になってくると思います。
生成AIの普及を踏まえ、これからの時代に必要となる資質や能力をどう考え、教育の在り方をどのように見直すべきか、考える時期に来ていると思います。
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