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日本の株価は中長期的にみてどうなるのか?  株主と企業の関係の変化で企業価値向上へ期待も

神子田 章博  解説委員

この半年で急速に値上がりした日本の株価。背景にはコロナ禍からの景気回復などがありますが、今後中長期的にみてその行方はどうなるのか。
そのカギをにぎるともいわれる株主側の新たな動きと、これに企業側がどう対応すべきかについて考えていきたいと思います。

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解説のポイントは三つです
1) これまでの株高の背景
2) 株主から経営への注文
3) 企業側の対応にも変化が
です。

1)  これまでの株高の背景

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 まずこのところの株の動きについてみていきます。東京株式市場日経平均株価は今月3日の終値が3万3753円33銭と、バブル期の1990年3月以来の高値を更新しました。この半年でおよそ30%も値上がりしたことになります。株高の背景には、日本の景気が回復に向かい企業の業績が上向いていくことへの期待があります。

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実際に日銀が三か月ごとに行う短観と呼ばれる調査では、大企業の製造業の景気判断の改善が目立ちました。景気の現状について、良いと答えた企業の割合から悪いと答えた企業の割合をひいた判断指数は、原材料などの上昇が落ち着いたことや、コストを価格に転嫁する動きが進んでいることなどから、プラス5ポイントと、7期ぶりに前の期よりも改善しました。さらに、景気の先行きについても、プラス9ポイントと今回より一段と改善する見通しです。さらに新型コロナウイルスの感染症法上の扱いが5類に移行したことを受けて、国内や海外からの旅行客が増え、宿泊や飲食サービス業などでも売り上げの拡大が期待されています。

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 さらに株価上昇の背景には、欧米各国で政策金利が急速に引き上げられ景気の減速が予想されるのに対し、日本では日銀が異次元緩和を継続し景気を支える姿勢を示す中で、海外の投資家などが日本株を買う勢いが強まっていることもあります。ただ欧米の景気が極端に悪くなれば、投資の勢いが弱まることも懸念されます。

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日経平均株価は10日まで5営業日続けて値下がりするなど、株価の上昇には一服感も出ています。

2)株主から経営へ注文
では、中長期的にみて日本の株価はどう動いていくのでしょうか。それを考えるうえで、注目されるのが、企業の経営に注文を付ける株主の動きが活発になっていることです。

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毎年株主総会が集中する6月。今年は株主からの提案を受けた企業が90社と、6月としてはこれまでで最も多くなりました。例をあげると、ダンプトラックなどの特装車を手掛ける「極東開発工業」では、いわゆるもの言う株主=アクティビストと呼ばれる投資会社が、配当金の引き上げなどを求めました。この企業の株価が長期にわたって低迷しているとして、株主の利益を意識した経営に取り組むべきだと主張したのです。さらに、この投資会社は、信用取引に必要な株式や資金を証券会社などに貸し出す事業を行っている日本証券金融の株主総会でも、株主提案を行いました。この会社は、1950年に上場して以降、歴代の社長はすべて日銀の出身者が占めています。投資会社側は、「経営幹部が天下りによって独占され、株主軽視の経営が行われている」として、社長を経験した日銀出身者が慣例的に就く会長職の廃止などを求めたのです。
 こうした提案に対し、会社側も反論しています。極東開発工業は「企業価値の向上をはかるためすでに株主還元の強化に取り組んでいる。今後も適切な配当政策を策定する」、日本証券金融は、「市場のインフラ機能を担う会社の性質上、公平性・中立性が重要視され、中立性の面で説明がしやすい日銀の出身者が選ばれてきた」などとそれぞれ反論。いずれの株主提案も、株主総会で否決されましたが、この2社に限らず総会で否決された株主提案には他の株主が賛同する動きも出るなど、経営陣に一段の緊張感を与えることにつながっています。

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 一方、株主提案が経営陣の様相を大きく変えたケースもありました。海洋土木大手の「東洋建設」。TOB=株式の公開買い付けをめざす大株主の資産運用会社と会社側が対立していました。株主総会では、資産運用会社側が9人の取締役候補を提案。このうち、株主総会で7人が賛成多数で選任され、取締役の数で会社側の提案から選任された6人を上回る形となりました。その結果資産運用会社側の取締役が、代表権をもつ会長に就任。新たな経営陣のもとで改めてTOBの扱いを検討することになったのです。他の株主からは「株主提案によって良い企業になる実例となってほしい」という期待の声も聞かれました。
こうした株主提案について専門家からは、「会社側が、過去のしがらみにとらわれずに事業の整理や売却を視野に経営を見直したり、使われずにため込んでいる資金を、成長の見込める新事業への投資に振り向けるようになるなど、企業の変革につながる動きだ」と評価する見方も示されています。

2) 変わるか 株主への対応
こうした中で問われているのが、様々な要求をつきつけてくるもの言う株主=アクティビストをはじめ株主からの要求に企業がどう向き合うかです。

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アクティビストと言うと、短期的な利益を追い求め、経営陣と対立する構図でよく語られてきました。最近でも、東芝が、大株主のアクティビストとの対立が経営の混乱を招いているとして、株式を非上場化して事実上アクティビストを排除する方向で動いています。しかしこの対応をめぐっては、「もの言う株主を排除すれば、経営を監視する力が弱まるのではないか」とか「アクティビストの意見に時に耳を傾け、時に対峙するなど柔軟に対応する経営手腕が求められているのでは」といった声も聞かれます。また株主提案の中には、企業価値の向上を求める建設的なものも見られます。実際にアクティビストとうまく折り合いをつけながら、企業価値を上げている企業も出てきています。
また株主などからの買収の提案をめぐっても、企業側の対応の仕方に変化がみられるようになっています。買収防衛策を導入する企業の数は、今年5月時点で、264社と、2008年12月時点に比べて半分以下に減少しています。背景には、企業の価値を高める可能性のある買収提案を拒むことは、株主の支持を得られないという判断もあるものと見られます。

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一方で、政府も、買収の提案を企業価値の向上に役立てるべきだという姿勢を打ち出しています。今年6月、経済産業省が公表した「企業買収における行動指針」の案では、企業の経営陣が買収提案を受けた場合には、原則として速やかに取締役会で検討する。検討しない場合でも速やかに情報を共有すること。企業価値の向上をめざす真摯な提案については、現経営陣の企業価値向上策と定量的な観点から十分な比較検討を行い、買収価格が妥当なものかどうかなど、株主の利益という視点も含めて真摯に検討することなどとしています。こうした指針の背景には、現経営陣が合意していないとしても、買収によって企業価値が上がり、株主の利益につながる可能性があるという考え方があり、経営陣が自らの保身を理由に買収提案を拒むことを戒める内容も盛り込まれています。

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その一方で、指針では、買収を提案する側に対しても、他の株主が合理的な判断ができるように、適切な情報開示の必要性も指摘しています。企業価値と株主の利益を向上させるための建設的な取り組みが、企業側、買収を提案する側の双方に求められているのです。

投資家がものをいうだけでなく、経営陣が聞く耳をもつ。株主と経営陣の対話を通じ、事業の効率化や成長のための投資を行い、企業価値の向上を実現することができるか。今後の日本の株価の行方を左右する重要なカギといえそうです。


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