NHK 解説委員室

これまでの解説記事

"ゼロゼロ融資"返済本格化 中小企業の危機を避けるには

佐藤 庸介  解説委員

j230710_01.jpg

新型コロナに苦しむ中小企業を救うために講じられた、“ゼロゼロ融資”。

返済の時期を迎えたいま、過剰な借金を抱えた多くの企業が倒産を余儀なくされるのではないかという懸念が広がっています。

地域経済への影響を避けながら、いかに問題の解消を図るのか。その道を探ります。

【コロナは企業に何をもたらした】
3年前の2020年春。

新型コロナの感染拡大で人の動きが抑制され、経済活動が停滞しました。

その結果、飲食店や宿泊業などのサービス業を中心に、膨大な中小企業が深刻なダメージを受けました。

売り上げが蒸発する一方で、店舗の家賃などの固定費はかかり続けるため、赤字に陥り、多くの企業にとって、そのままでは存続が危ぶまれる事態に直面しました。

【“ゼロゼロ融資”とは何か】
そこで政府が採用したのが、中小企業を対象とした実質無利子・無担保のいわゆる“ゼロゼロ融資”です。

2020年3月から政府系金融機関が取り扱いを始めました。申し込みが殺到したこともあり、5月から急きょ民間の金融機関も受け付けました。

コロナの前より売り上げが15%減ったなど一定の条件を満たせば、担保がなくても資金を借りることができました。さらに利子の分も3年間、都道府県などが穴埋めするため、負担しなくて済みます。

融資はあわせて政府系がおよそ20兆円、112万件、民間がおよそ23兆円、137万件に上りました。いかに多くの中小企業がこの融資に頼ったかが分かります。

j230710_02.jpg

ところが、今、倒産はじわり増え始めています。民間の信用調査会社「東京商工リサーチ」によりますと、ことし1月から6月までの半年間、ゼロゼロ融資利用企業の倒産件数は322件と、前の年の1.8倍になりました。

その上、民間のゼロゼロ融資は、7月から返済開始のピークを迎えます。3年間の無利子の期間が終わる時期だからです。今後、倒産が急増するのではないかという懸念が広がっています。

【カギ握る存在「信用保証協会」】
地域経済に影響を及ぼす事態を避けるため、役割を増しているのが「信用保証協会」です。

全国47の都道府県と4つの市、あわせて51あり、都道府県や市町村、地域の金融機関などが資金を出して運営している公的な組織です。

仮に企業が返せなくなった場合、信用保証協会が肩代わりして金融機関に返済します。肩代わりした分は、最後には実質的に税金で穴埋めします。

どうして信用保証協会が注目されるのでしょうか。それは民間によるゼロゼロ融資の枠組みに理由があります。

本来は金融機関みずからが、企業の返済できる能力を見極めて融資します。

しかし、新型コロナでは先がまったく見通せなくなりました。こうした状況では、金融機関はそろって貸し出しをためらって資金が流れなくなり、倒産が続出しかねません。

j230710_04.jpg

そこで資金が行き詰まる事態を避けるため、政府は緊急にこの仕組みを利用しやすくしました。100%肩代わりを約束することで、金融機関は安心して企業に融資できるようになり、倒産が大幅に抑えられる効果を発揮しました。

一方で、こうした措置により、金融機関はみずからのリスクで融資している先に比べてフォローを怠りがちになったと指摘されています。

その点、信用保証協会は、ゼロゼロ融資を行っている先、すべてと関係し、支援できる立場にあり、積極的な役割が期待される状況になりました。

j230710_07.jpg

【今回の経営支援のポイントは】
それでは信用保証協会の果たすべき役割とは何でしょうか。

それは病気の治療に例えると、ゼロゼロ融資を受けた膨大な中小企業の中から、「経営の悪化」という病気にかかっているところを見つけ出し、必要な「治療」という経営支援で収益を改善し、元気になってもらうことです。

j230710_08.jpg

中小企業の経営者は、毎日の業務に忙殺され、経営の悪化を自覚せず、気づいたときには再建できない状況に陥っていることがよくあります。

とはいえ、それには大きな困難があります。ゼロゼロ融資により、信用保証協会が支援する企業は途方もない数に膨れ上がったからです。

保証を利用した企業・個人事業主の数は去年3月末時点でおよそ158万。コロナ禍が広がる前、2020年3月末より、34%増えました。

信用保証協会は、限られたマンパワーで効率的に支援すべき先を探し出し、手遅れになる前に声をかけなければなりません。

j230710_09.jpg

そのために各地の協会は知恵を絞っています。

【専門部署設け重点支援先選定】
このうち栃木県信用保証協会は、おととしから「経営アシスト室」という専門の部署を設け、支援する企業を洗い出す工夫をしています。

ゼロゼロ融資を受けた、およそ1万3000の経営状況を分析。売り上げがコロナ前よりも減ったままになっているうえに、借り入れの半分以上が保証の対象になっているなどの条件に当てはまる企業、およそ1200について重点的に支援することにしました。

j230710_11.jpg

飲食業や宿泊業を中心に、金融機関の担当者と一緒に企業を訪問し、資金繰りの状況を整理した表を作りながら、経営者の相談に乗っています。「売り上げの低迷」という課題であれば、新たな販路を開拓するといった、収支改善の方法を専門家とともに実践していくということです。

栃木県信用保証協会 安西克巳 総務部長
「早めの段階から顧客と話をして業績が悪化することがないよう支援をすることにしている。雇用にしても地域経済の下支えにしても、中小企業の役割は非常に大きい。今、コロナで栃木県の地域経済が厳しい中で、何とか元気になってもらいたい、中小企業を支えたいという思いで業務に取り組んでいる」

j230710_v1.jpg
栃木県信用保証協会 安西克巳 総務部長

【50を超える金融機関と連携】
別の工夫をする地域もあります。

全国有数の規模を誇る大阪信用保証協会では、およそ7万8000もの企業などがゼロゼロ融資を受けました。

それだけの数の経営者に対し、実情を認識してもらうため、ダイレクトメールと金融機関との連携という方法を採用しています。

今年度のダイレクトメールの送り先は、保証付きの融資しか受けていない、およそ1万5000です。返済が始まる時期のおよそ1か月前に届くように順次、送っています。

また、金融機関との連携では、今年度から50を超える金融機関に対し、支援を求めている取引先がないか、情報提供を要請しています。

すでにこうした方法を通じてピックアップされた、およそ3900に対し、職員が直接訪問するなど、相談に対応しています。

j230710_12.jpg

大阪信用保証協会 玉城健司 企画課長
「返済が始まってくると、リアルな課題、問題に直面することになるので、顧客の危機意識は高まっているし、それを受ける信用保証協会もまさに今年度は『正念場』という思いで臨んでいる。中小・零細企業者は経済をすそ野で支え、なくなると地域の社会、経済そのものが成り立たなくなる。支えていかなければならないという思いだ」

j230710_v2.jpg
大阪信用保証協会 玉城健司 企画課長


【ゼロゼロ融資には重い副作用も】
ゼロゼロ融資が倒産を防いだという功績は、多くの専門家の間でも前向きに評価されています。その一方で、将来まで続きかねない重い副作用があることも否定できません。最後に課題について整理します。

そのうちの1つが、収益力が低い企業の温存です。

ゼロゼロ融資は、売り上げが減ったなどという理由だけで受けることができました。しかも、3年間、利子はなく、元本の返済も長期間、猶予されました。

しかし、借金には変わりありません。認めたのは、あくまで再び本業でもうけられるようになり、返済が可能になるという前提です。それができなければ、倒産して保証協会が肩代わりし、最終的には税金で穴埋めすることになります。

また、収益力が低い企業なら倒産・廃業し、成長が見込める企業に人材や資金を振り向けたほうが活性化につながるという声は根強くあります。

政府は、今回の政策が適切だったかどうか、丁寧に検証する必要があります。

もう1つは、「安易に稼ごう」という金融機関の行動を促した点です。

ゼロゼロ融資が始まった後、金融機関はこぞって取り扱いを増やしました。取引先のニーズがあったとはいえ、それは金融機関の収益拡大にもつながりました。

本来、重要なのは貸した後です。金融機関が責任をもって、貸出先の経営支援に取り組まなければなりません。ところが100%保証では焦げ付くリスクがなくなるため、みずからのリスクで貸した先に比べて、そうした動機づけが起きません。

実際、現場を知る関係者からは「貸しっぱなしでその後、フォローしない金融機関がある」という指摘が出ています。こうした金融機関の行動は、地域の企業を支援する力を弱体化させ、先々まで影響が残る可能性があります。

禍根を残さないためには、信用保証協会だけでなく、金融機関側も「経営支援の主役は自分たちだ」という当事者意識を強く持つ責任があります。

j230710_13.jpg

日本の企業のうち、99.7%を占める中小企業は、地域経済の礎です。

中小企業が危機に陥り、地域経済が急速に縮小する事態を避けるため、地域の関係者が一丸となって経営支援取り組んでいるか、関心をもって見ていく必要があります。


この委員の記事一覧はこちら

佐藤 庸介  解説委員

こちらもオススメ!