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物流クライシス 2024年問題を乗り越えるには

牛田 正史  解説委員

トラック運送など物流の現場が、来年、大きな転換点を迎えます。
ドライバーの長時間労働を防ぐ働き方改革が実行されるからです。
命や健康を守るために不可欠な改革ですが、一方で、働く時間が減れば、輸送能力が減少し、運送が停滞する恐れも指摘されています。
「物流クライシス」とも呼ばれています。
それはどんな危機なのか。
そして、乗り越えるために何が必要なのか、牛田正史解説委員がお伝えします。

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【物流クライシスとは】
来年の4月、物流業界は働き方改革が実行されます。

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トラックドライバーの「時間外労働」は、これまで上限がありませんでしたが、年間で960時間までに制限されます。
また休憩時間も含めた「拘束時間」は、これまでの年3516時間から3300時間に短縮されます。
こうした規制が必要になるのは、ドライバーの長時間労働が深刻化しているからです。
今現場では人手不足が大きな問題となっていて、ドライバーが長時間働いて、何とか物流を支えているのが現状です。
実際、平均の労働時間は、全産業と比べて2割も多くなっています。
こうした中、健康被害や過労死が起きています。
ドライバーの命や安全を守るためには、働き方改革は避けて通ることが出来ません。

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しかしドライバーの働く時間が減れば、それだけ輸送能力が低下します。
その結果、物流が停滞するおそれもあると指摘されています。
民間のシンクタンクの調査では、対策を講じなければ、全体の14%、重さにして4億トンの荷物を運べなくなるおそれがあると試算しています。
つまり、7つの荷物のうち1つを運べなくなるかも、という計算です。
さらに7年後の2030年度には、ドライバーが減少し、34%・9.4億トンもの荷物が運べなくなる可能性も試算されています
これは運送を依頼する荷主、そして物を受けとる私たち消費者も含めて、社会全体が大きな影響を受けることになります。
その影響を最小限に抑える対策が、今まさに求められています。

【国の検討会】

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国は業界団体や専門家などを集めて検討会を開き、6月まで対策を議論してきました。
最終とりまとめの案を示し、この夏に正式に決定する見通しです。
そこでは「物流のデジタル化や効率化」、それに「ドライバーの賃金水準の向上」などの対策が示されました。
そして運送会社だけでなく荷主の対応や消費者の意識改革も必要だとしています。
どれも重要なポイントですが、規制までは、すでに1年を切っています。
そもそも物流の働き方改革は、一般の職種よりも5年遅れで始まり、それだけ猶予期間があったはずです。
新型コロナの混乱があったとはいえ、対策をもっと早く進めることは出来なかったのかとも感じます。
国や業界は一刻も早く、対応していかなければなりません。

【限られたトラックの有効活用】
ここからは、その具体的な対策について考えていきます。
私が特に重要だと考えるのは
① 「限られたトラックをいかに有効に使うか」
② 「ドライバーをいかに確保するのか」です。
労働時間の短縮に対応するには、この2点を考えなければなりません。

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まずトラックの有効活用から見ていきます。
これには物流の効率化が不可欠です。
例えば複数の物流会社が連携して、同じトラックで荷物を運ぶ共同配送。
あるいは配達先から帰る時も荷物を積み込む「帰り荷」などを進め、一度の運行で運ぶ量を増やすことが大切だと指摘されています。
またドライバーの待機時間の短縮にも取り組まなければなりません。
荷物の到着を待つ荷待ちや、積み下ろしに掛かる荷役作業の時間は、ドライバーの拘束時間の2割を占めていて、改善の余地が多くあります。
今、ネット通販などで物流の件数が増え、「小口・多頻度化」が進んでいます。
それだけに、効率的な運送が一層重要になってきます。

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これらを進めていくには、デジタル化が鍵を握るとされています。
荷主と運送会社の情報共有を深めて、効率化を図り、ドライバーの負担を減らすことです。
その1つの例としてトラックの予約受付システムがあります。
いま、物流の拠点施設や倉庫では、荷物の積み下ろしなどで順番を待つトラックが、長い列を作るケースがあります。
これを解消するため、インターネットでドライバーが事前に入構時刻を予約します。
そうすれば積み下ろしの時間帯を分散することができ、待機時間が短縮されます。
この予約システムは、荷主の企業が整備する必要がありますが、導入はまだ1割以下に留まっています。
物流の効率化には、荷主の協力が不可欠です。
仕事を受ける立場の運送会社は、荷主に強く対策を求めづらいという面もあり、そこは国のリーダーシップが必要になると思います。
荷主に対しデジタル化や改善計画の策定を求め、待機時間が著しく長いケースは厳しく指導するなど、対応を強化すべきです。
また、物流の効率化は私たち消費者にも関わってきます。
いま宅配便の1割で、不在による再配達が発生しています。
配達日の確認や、置き配の利用などで、再配達の負担を減らしていかなければなりません。

【ドライバーの確保】
そして、物流の危機を回避する、もう1つ重要な対策が「ドライバーの確保」です。
これには、賃金を引き上げることが不可欠だと思います。

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ドライバーの所得額は全産業と比べて、5%から10%ほど低くなっています。
長時間、働かないと一定の収入が得られないというドライバーも少なくありません。
これが働き方改革で労働時間が減ると、収入はさらに減少します。
そうなれば、希望者が減っていく可能性があるだけでなく、いま働いているドライバーまで「収入が下がればやっていけない」と、離職していくことが考えられます。
賃金の単価を引き上げることが必要です。

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ではどうすれば賃金をあげていけるのか。
1つは「価格転嫁」を適正に進め、運賃をあげていくことです。
コストの上昇分を、運送の対価、つまり「運賃」に反映できなければ、ドライバーの給料をあげることはできません。
しかし、それが十分に進んでいないのです。
中小企業庁が価格転嫁の進捗状況を、業種別に調べた結果、トラック運送は27業種中、最下位でした。
いかに運賃が上がりづらいかを示す1つのデータです。
背景には、運送会社は中小企業が多く、厳しい競争にさらされ、運賃の引き上げを強く求められない面があると指摘されています。
しかし、運賃が低いままでは、人件費も増えず、ドライバーは減るばかりです。
今こそ、運送業界全体が、この危機的な状況を荷主や発注企業に強く訴え、適正な料金を求めてもらいたいと思います。
そして国の指導も欠かせません。
運賃が不当に据え置かれていないか監視し、料金の引き上げを推し進めていくべきです。

また、私たち消費者も無関係ではありません。
運賃が上がれば、最終的に消費者の負担も大きくなります。
今の負担のままで、ドライバーの減少や輸送能力の低下は、やむを得ないと考えるのか。
それとも、今の利便性を維持するために、必要な負担を受け入れていくのかが問われてきます。

【まとめ】
物流は経済活動の根底を支えるものでありながら、ドライバーの待遇改善などに、あまり目が向けられてこなかった面があると感じます。
2024年問題は、もう目の前に迫っています。
手遅れにならないうちに、物流の危機を社会全体で共有し、対策を進めていく必要があります。


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