この夏再び電気が足りなくなるおそれがあるとして、政府は来月東京電力管内に節電要請する方針。
しかしその一方で、太陽光など再生可能エネルギーが使いきれず、発電が止められている。
こうした再エネの出力制御はこの春以降、電力需要が多い大都市圏にも広がった。
燃料価格の高騰で電気代が値上げされる中、燃料費タダで発電できるのにいかにももったいなく、社会的な損失。
きょうは、
▽春以降広がった出力制御とその理由
▽再エネがどれだけ止められているか
▽再エネを最大限生かすには
以上3点から出力制御を水野倫之解説委員が解説。
今月4日、関西電力が初めて再エネの出力制御に踏み切った。
日中の4時間半、太陽光と風力の一部の発電を止めて受け入れを停止。
また中部電力も4月に初めて行い、今月4日までにあわせて12日間、一部の太陽光と風力を止めた。
さらに今回、北陸電力も初めて行った。
せっかく発電できるのになぜ止めなければならないのか。
理由は、広域停電を防ぐため。
電気は使う量と発電量のバランスが崩れると電気の質が悪くなって発電機が停止し、広域停電となってしまう。
電気が足りなくても停電するが、電気が余ってもバランスが崩れて停電するため、再エネを止めたわけ。
電気が余る最大の原因は太陽光発電の急増。
東日本大震災のあと、再エネの電気を電力会社が買い取る制度が始まり、買取価格が高かった太陽光が急拡大。
関西電力管内では震災から10年あまりで12倍に、また中部電力管内でも15倍と、最大発電時で大型発電所数基から10基分に相当する太陽光が設置。
管内には大都市圏があり電力需要も多いが、この季節、冷房需要が多くはない。
そして多くの工場の操業が止まる休日の昼間に晴れると、太陽光による発電を使い切れなくなってきたわけ。
こうした場合国のルールに基づいて、まず出力の調整が容易でCO2の排出が多い火力発電の出力を抑える。
同時に余った電気で揚水発電所の水を汲み上げる。必要なときに水を流せば発電できるいわば巨大な蓄電池で、ここに余った電気を貯める。
さらに隣接の電力管内に送電線で電気を送る「電力融通」を。
それでも電気が余ると太陽光や風力などを止めることになっており、家庭の太陽光以外の事業者の中から毎回対象を決め、停止していった。
この再エネの出力制御、最初に行われたのは2018年、太陽光の導入がいち早く進んだ九州電力管内。
その後広がり、今回で東京電力を除く9つの電力管内まで拡大。
九州電力管内では、当初は冷暖房需要が低い春や秋の休日が中心。しかしその後も太陽光は増え続け、今では平日も含め1年を通して出力制御が当たり前になり、昨年度は4億5千万kWh、一般家庭9万世帯分の電力が止められた。
また全国では昨年度6億kWh、12万世帯分の発電が止められており、今後東電管内に広がるのも時間の問題。
停電を防ぐためとはいえ、太陽光や風力はCO2排出ゼロの脱炭素電源で、燃料もタダ。
資源価格の高騰で電気代が値上げされる中、発電できるのに止めてしまうのはいかにももったいなく、社会的に大きな損失。
政府は脱炭素に向けて再エネを主力電源と位置づけ、2030年には現状の倍近い最大38%導入する目標。
また広島で開かれたG7でも太陽光を現在の3倍以上増やす目標が掲げられるなど、さらなる導入加速が求められている。
そのためにも、この出力制御をいかに減らしていくかが大きな課題。
ではどうすればよいのか。
まず供給側の対策として有効なのは余った電気を蓄電池に貯めること。ただまだ蓄電池はコストが高く、今すぐ大規模にはできない。政府は蓄電池のコスト低減の研究開発を急ぐ必要がある。
このため、政府は先週、すぐにできる供給側の対策として火力発電の出力をさらに落として再エネを生かす方針を決めた。
火力発電は出力を下げると窒素酸化物が増えるなどの問題もあり、現状は出力50%が目安として示されている。
ただ最新の火力はもっと下げても問題なく運転できるようになってきたことから、新設する火力について30%以下に落とすことを求める。
加えて、出力を落とす火力の対象を近隣の電力管内まで広げる。こうすることで余った再エネの電力をさらに多く、近隣エリアへ送ることができる。
ただこうした供給側の対策だけでは十分ではない。
今後は需要側の対応も急ぐ必要。つまり電力を使う側が、電力が余る時間帯に合わせてうまく利用していく。
すでに対応し始めた企業も。
電炉最大手の東京製鐵の九州工場では鉄のスクラップを電気炉で溶かして鉄鋼製品を作っている。
工場では九州電力から太陽光の余剰電力をうまく使えないかという要請を受け、新たな契約を締結。
太陽光が余りそうな時に事前に連絡を受け、当日日中、より安い料金で供給を受け多くの電炉を稼働させている。
その結果2021年には、止められるはずだった太陽光の540万kWhの電力を使い、電気料金が安い夜間に集中的に操業していたときと比べても、コストを大幅に削減できたという。
ただ電気炉は稼働の調整が容易で、もともと土日も操業していたことから太陽光に合わせて操業しても社員に過度な負担とならない事情があることも確かで、すべての業種で対応するのは簡単ではないかもしれない。
ただこうした、電力を利用する側が電力が余る時間帯にあわせて使う対応はまだ一般的ではなく、メリットもよく知られていない。政府や大手電力は大口の利用者に、余った電力の利用例やメリットを紹介して検討を呼びかけ、広めていく必要がある。
そして一般家庭にもできることはある。
去年の節電要請で広がったポイントによる節電の仕組みを逆に利用し、電力が余る時に電力会社からアプリで連絡を受け、利用していく。
そうじや洗濯などを行えば、出力制御の抑制に貢献できる。一部の電力会社で始まってはいるがまだ限定的で、政府・電力会社はポイント制度のさらなる有効活用を進めてほしい。
ただそうは言っても一軒当たりの消費量はわずかで、わずらわしさもある。
その点注目されるのが消費量が大きいEV・電気自動車への充電。政府は2035年までにすべての新車販売を電動車に転換する方針で、今後確実に増える。その充電器に通信機能を持たせ、電力が余るときに自動的に充電できるようにする方法。すでにイギリスではこうした充電器が義務化されており、日本でも充電器メーカーに通信機能を持たせるよう働きかけ、広げていく必要がある。
再エネは、脱炭素電源で燃料費がタダというだけでなく、純国産の電源で、エネルギー安全保障の観点からも、さらなる拡大は待ったなし。
出力制御が大都市圏にも拡大した今こそ、再エネを無駄にすることなく主力電源化していく対策を急がなければ。
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