通常国会の会期末が迫るなか、去年秋の臨時国会から続いてきた、野党第一党である立憲民主党と野党第二党である日本維新の会の国会での共闘は解消されます。次の衆議院選挙でどちらが野党第一党の座を握るのか、両党の対抗意識は強まってきています。
【これまでの立民と維新の共闘関係】
立民と維新は、去年秋の臨時国会召集に先立って「国会内で共闘する」ことで合意しました。そして、臨時国会では、旧統一教会の被害者救済をめぐって、両党が主導する形で与野党協議が重ねられて法律が成立し、「野党主導の国会運営」とも言われました。これに手応えを感じ、通常国会でも連携継続を確認しました。立民としては、衆院選での維新との選挙協力を視野に入れて国会での連携を深めたい。維新としては、立民との連携をテコに与党の譲歩を引き出し、存在感を高めたい。両者の利害が一致したのです。
ただ、両党には、相容れない隔たりがあります。
憲法改正をめぐっては、立民が憲法9条に自衛隊を明記することに反対しているのに対し、維新は自衛隊を明記すべきだとしています。憲法や安全保障といった基本政策に溝があるのです。
政権に対するスタンスでは、双方とも自民党に代わる政権を目指す立場ですが、立民は維新を「与党の補完勢力」だと批判し、維新は立民を「何でも反対」だと批判することが少なくありません。
また、選挙協力をめぐっては、共闘が進むなかで立民の幹部から「自民党に対抗するために衆院選の小選挙区ごとにすみ分けをすべきだ」といった期待する声が漏れていました。しかし、一方の維新の幹部は「選挙協力は一切しない」と繰り返し、いわば「同床異夢」の共闘だったと言えます。
【なぜいま共闘は解消されるのか】
4月の選挙がひとつのきっかけとなりました。衆参5つの補欠選挙で両党の明暗が分かれたのです。
立民は補選で議席をとれなかったのに対し、維新は衆院和歌山1区で勝利しました。また、維新は統一地方選挙で全国の自治体の首長や地方議員をあわせて600人以上に増やすという目標も達成しました。
衆議院では野党第一党の立民が96議席、野党第二党の維新が41議席を占めていますが、立民には次の衆院選で野党第一党の座を奪われかねないという危機感が広がっています。そして、党内から「維新との違いを明確にすべきだ」という意見も出され、泉代表は国会での共闘を解消する方針を打ち出しました。
一方、維新の馬場代表は、野党第一党を目指すと明言しています。そして憲法改正をめぐり、立民と基本的な考え方の違いが浮き彫りになり、国会での法案や政策に関する協議をやりにくくなったと指摘しています。
【立民と維新の政党支持率の推移】
NHKの世論調査での政党支持率の推移を見ますと、今月は立民が4.2%、維新が6.7%で、維新が立民を上回りました。4月の選挙が影響したとみられます。去年の参院選の時にも維新が立民を上回りました。しかし、参院選が終わって時間がたつと立民が維新を上回っていきました。
与党も野党も今回の維新への支持が持続的なものかどうかに関心を寄せています。G7広島サミットが終わって岸田内閣の支持率が上昇し、与野党双方に衆議院の解散がいつあってもおかしくないという見方が少なくないだけに政党支持率の推移に敏感になっています。
【国会攻防への影響】
共闘の解消は与野党の攻防にどう影響するのか。
国会では、立民は政権との対決姿勢を一段と強めています。焦点の防衛費増額の法案について、立民も維新も反対の立場です。ただ、国会戦術は異なります。立民は法案の採決日程の先延ばしなどに批判的な維新に配慮して、そうした戦術を控えてきました。しかし、今月に入り衆議院での法案審議をめぐって、委員会採決を阻止するため、財務大臣の不信任決議案などを提出しました。維新はこれに同調せず、決議案は与党や維新などの反対で否決されました。国会戦術の違いが際立ってきています。
【選挙への影響】
国会での共闘を解消する立民と維新が衆院選にどう臨み、選挙にどう影響するのか。考えるうえで押さえておきたいのは、4月に行われた衆参の補欠選挙です。
衆院千葉5区では野党間の選挙協力は行われず、野党5党がそれぞれ候補を擁立し、自民党に敗れました。ところが例えば立民の候補と維新の候補の得票数を単純に足し合わせれば、当選した自民の候補の得票数を上回ります。野党は「候補を一本化できれば勝てた」としています。
一方で、野党が候補を絞り込んでも、必ずしも有利に戦いを運べるとは限りません。参院大分選挙区では、自民と立民の一騎打ちの構図になりました。しかし、NHKが投票日当日に行った出口調査を分析しますと、野党候補が野党支持層をまとめ切ったとは言い難く、競り負けました。野党が選挙協力をする場合、野党支持層をまとめ切れるかが課題です。
【立民と維新は衆院選にどう臨む】
立民の泉代表は維新と選挙協力や候補者調整は行わないとしています。そして、維新との立ち位置の違いをはっきりさせて戦うとして、「衆院選で150議席を獲得できなければ代表を辞任する」と不退転の決意を示しています。
維新の馬場代表はいろいろな政党の候補者が立候補して有権者に多様な選択肢を用意するのが民主主義の基本だとしています。そして、野党第一党を目指すとして、「すべての選挙区に候補者を擁立する方針」です。
そして、維新は24日、立民の泉代表と岡田幹事長の選挙区に対立候補を立てることを発表しました。これに対し、立民の泉代表は「毎度のことでいつも維新と戦っている」と受けて立つ構えです。
【自民はどう見る】
自民は、4月の選挙での維新の躍進ぶりに警戒感を隠していません。そのうえで、ある自民党幹部は「野党が衆院選ですみ分けをしてくる方が戦いにくい」と本音を覗かせています。そして、自民は立民と維新の分断を狙って維新に接近を図った経緯があります。その自民党は東京の選挙区の候補者調整で連立を組む公明党との対立が深まっています。解散をめぐる発言が相次ぐなか、与野党の間では思惑や駆け引きが交錯し、ほかの党との協力、候補者の擁立方針など選挙戦略をめぐる難しい判断を迫られてきています。
【国会最終盤へ、衆院選をにらんで】
立民と維新は次の衆院選での野党第一党争いを意識して、それぞれが党の独自性を発揮する方向に舵を切っています。そのことは重要法案への対応や野党が内閣不信任決議案を提出するかどうかといった国会最終盤の攻防を左右します。そして、岸田総理の解散のタイミングの判断や与野党の選挙戦略にも影響を与えていくことになります。
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