2年半にわたって地震活動が続いている能登半島で先週、最大の地震が発生し多くの死傷者と建物被害が出てしまいました。これだけ地震活動が続くのはめずらしいケースですが、最新の研究で地震活動に水が関わっていることを示す新たな知見が提起され、今後の活動を予測し防災対応を考えるうえでメカニズムが注目されています。能登半島の地下で何が起きているのかを見ていきます。
【インデックス】
解説のポイントは
▼今回の地震と一連の地震活動
▼水が関与した地震のメカニズム
▼今後、警戒すべきこと、この3点です。
【震度6強と一連の地震活動】
今月5日、石川県能登地方で起きたマグニチュード6.5の地震では、珠洲市で震度6強の激しい揺れを観測。1人が死亡、37人がけがをしたほか、住宅630棟が被害を受けました。地震から1週間、被災地では災害廃棄物の搬出や道路の補修など復旧作業に追われています。
能登半島では2020年12月ごろから地震活動が活発になっていて、震度1以上の地震がひと月に10数回から数十回発生する状態が続いています。
ごく小さい地震を含めて震源地を見ると能登半島の先端付近に集中していて、今回の地震はその端で起きていました。一連の活動のひとつと見られ、これまでで最大の地震でした。
【水が関与した地震のメカニズム】
火山活動に伴って群発地震が起こることはよくありますが、火山のないところでこれだけ地震活動が続くのはたいへんめずらしいケースです。
原因についてさまざまな調査が行われていますが、一連の活動に水が関わっていることを示す知見が示され、政府の地震調査委員会も重視しています。
地震に水が関わるというのは意外な感じがしますが、水が地震を誘発したケースは過去にも確認されています。
長野市松代町付近では1965年から5年半にもわたって地震活動が続きました。世界的にもまれな群発地震で、体に感じる地震が6万回に達し、家屋の損壊や地すべりによる被害が出ました。地震に伴って地盤が隆起し、大量の湧き水や温泉が噴出したことから、地下に存在する水が岩盤の割れ目を広げながら上昇し、地震を引き起こしたと考えられています。
また人工的に地下に注入された水によって地震が起きたという報告もあります。
エネルギー革命とも呼ばれたシェールガスの採掘に伴って地震が増加し、誘発された可能性が高いという報告をアメリカの地質調査所や大学などが発表しています。
シェールガスは井戸を掘って大量の水を使って採掘されます。大量の排水は地下数キロのところに高圧で注入し廃棄されていて、その水が岩盤の間に広がり、断層を滑りやすくしているというもので、ほぼ定説となっています。
一方、大地震のすべり始めに水が関わるケースがあることがわかっていて、水の関与は最先端の地震研究の重要なテーマになっています。能登半島の地震活動はそうした意味でも注目されているのですが、では、水がどのように関与しているのでしょうか。
まず地下の探査によって大量の水などの流体がある場所が突き止められました。
京都大学防災研究所の吉村令慧教授たちの研究グループは地下深くまで電気の流れやすさを調べました。水などがある部分は電気が流れやすく硬い岩盤は電気が流れにくいことから、「電気伝導度」を調べることで地下の構造を知ることができます。
観測で得られた能登半島の地下の断面図です。
赤やオレンジの部分は電気を通しやすい部分で、緑や青は通しにくい部分です。
地下10キロより深いところに赤い部分が広がり、水などの流体があることがうかがえます。またオレンジ色の帯が地表に向かって伸びていて、その付近に白丸で示した地震の震源が集中しています。水が岩盤の割れ目などに沿って上昇することに伴って地震が起きている可能性が示唆されました。
この研究成果を踏まえ、地表の地殻変動から地下の流体の動きを推定する仮説も示されました。
京都大学防災研究所の西村卓也教授は2020年11月からことし3月までのGPSなどによる地面の動きや地震のデータを使い、地下の流体の動きを計算しました。
地震が多発している地域では地盤が隆起し、放射状に広がる地殻変動が観測されています。
このデータから地下の流体の位置を推定したのが四角い領域です。
当初、小さかった領域は、その後主に北東側に広がり、去年8月以降は大きく北側に移動していました。流体の移動に伴って地震が頻発する場所も移動し、先週、流体のやや東側でマグニチュード6.5の地震が発生しました。
この動きを地下の断面で見るとこうなります。
まず地下深くに存在する水などの流体が上昇し、深さ15キロ前後にある断層面に入り、押し広げました。
次に、水は断層面にさらに貫入して上下に押し広げると同時に、断層面がゆっくりと滑り始めます。流体の領域が拡大したのはこの時期に相当します。
その後、断層面の「押し広げ」と「ゆっくり滑り」が起こる領域は、断層の北側に移動し、地表に近づいていると推定されました。
西村教授は「流体が北に移動したことで周辺の断層が刺激され、強い地震につながった可能性がある。今後の予測は難しいが、地殻変動と流体の動きを監視することが重要だ」と話しています。
【今後、警戒すべきこと】
先週の強い地震のあとも珠洲市などでは地震が続いています。
今後、どのような警戒が必要なのでしょうか。
能登半島の北岸沿いにはマグニチュード7クラスの地震を引き起こすと考えらえる活断層帯が4つあることがわかっています。一連の地震活動の場所と流体があるとみられる場所が北側の浅いところに移動し、活断層帯に近づいていることから、今回の地震と活断層帯との関係や影響が懸念されています。
きょう開かれた地震調査委員会では、今回の地震は、懸念される活断層とは別の、去年6月にやや強い地震を起こした断層の延長の浅いところで起きた、という見方が示されました。
そのうえで「これまでの地震活動と地殻変動の状況から地震活動は当分続くと考えられる」という見解があらためて示されました。
会見で平田直委員長は「地震活動が全体として北側の浅いところに移ってきている。今後、浅いところで強い地震が起これば津波が発生するおそれがあるので十分に注意をしてもらいたい」と呼びかけました。
【まとめ】
地震から1週間。珠洲市ではボランティアも駆けつけ、地震の後片付けや復旧が始まっています。支援が急がれます。
一方、関東地方でもきのう震度5強を観測する地震が起こるなど、各地で地震が相次いでいます。能登地方だけでなく、どこに住んでいても、こうした機会をとらえ、地震への備えを確認することが求められると思います。
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