NHK 解説委員室

これまでの解説記事

新型コロナ「5類」移行 変わらないウイルス 今後の対策は

籔内 潤也  解説委員

5月8日、3年あまり続いたコロナ禍は次のフェーズに移りました。
新型コロナウイルスは感染症法上の扱いが「季節性インフルエンザ」と同じ「5類」となりました。感染者数の全数把握もなくなり、感染しても外出を控えるかどうかが個人の判断になるなど、対策はさらに個人に委ねられることになります。
いま新型コロナがどのような状況にあるか整理し、今後、私たちはどう対応していくべきか考えたいと思います。

j230508_01.jpg

【感染者数の発表が終了】
3年あまりにわたって発表されてきた新型コロナの感染者数。
全数の発表は、5月8日で最後となりました。

j230508_02.jpg

全数把握が行われた最終日、5月7日の新型コロナ感染者数は、全国で9310人、この数週間、横ばいから微増の傾向となっています。
今後の感染状況は来週以降、1週間ごとに発表される形になります。
厚生労働省からの発表は、来週の金曜日、19日までありません。
すぐには感染状況が分からない中、どうしていけばよいのでしょうか。

【新型コロナの現在地は】
まずは、これまでを振り返りながら、いま、新型コロナはどのような病気になっているのか、現在地を整理したいと思います。

j230508_03.jpg

新型コロナは2019年の年末に世界で初めて、中国からWHO=世界保健機関に報告された後、これまでに感染した人は報告されているだけで、世界ではおよそ7億6500万人、国内では3380万人近く、亡くなった人は、世界でおよそ690万人、国内では7万5000人近くに上ります。(2023年5月上旬の時点)
新型コロナは、21世紀で最も大きな被害・影響が出た感染症となりました。

j230508_04.jpg

これまで、国内では8回の感染拡大の波を経験しました。
感染が報告されたうちの亡くなった人の割合、致死率は第1波では5.34%と高い状態でしたが、その後、治療法が進歩、2021年にはワクチン接種が始まり、飲み薬も出てきました。
この冬の第8波では致死率は0.23%と下がりましたが、感染力が強いオミクロン株で感染者数がそれ以前とは桁違いになり、亡くなった人の数はこれまでで最も多くなりました。
インフルエンザの致死率は厚生労働省が示したデータでは、60歳未満で0.01%、60歳以上で0.55%とされています。専門家は、直接の比較は難しいものの、新型コロナの方が感染力が強いために、より多くの人が亡くなる恐れがあるとしています。

j230508_05.jpg

新型コロナは“ゼロコロナ”が不可能で、対処方法やワクチン、治療薬もあることから新型コロナがあることを前提に社会を動かす方向に進んできました。
WHOも今月5日、3年余り続いた「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態の宣言」を終了しました。アメリカでも5月11日に国家非常事態宣言を解除する方針です。

【新型コロナはなくならない】
その中で、新型コロナウイルスは今後どうなっていくのでしょうか。
対策の助言を行ってきた厚生労働省の専門家会合の有志は、4月19日、衝撃的ともいえる予測を示しました。

その内容がこちらです。

j230508_06.jpg

まず、感染の第9波は確実に訪れるとしています。
そして、その第9波は1000万人を超える人が感染した第8波より大きくなる可能性が残るとしているのです。
対策が緩和されること、そして日本では欧米などに比べて感染者数を少なく抑えられてきたために、感染した人の割合が少ないことがその理由です。
日本国内で感染した経験があることを示す抗体のある人の割合を調べると、3割から4割ほどにとどまっています。
イギリスで行われた同様の検査では、感染を経験した人の割合は8割を超えていました。
感染を経験した人がワクチンを打っていると感染しにくいとされていますが、日本ではいまでも多くの人が感染する恐れが一定程度高いということになります。

さらに、専門家は今後、亡くなる人の数は海外より多い状態で推移する可能性があるとしています。ワクチン接種などによる免疫は時間が経つごとにだんだん下がります。
日本は世界的に見ても高齢化率が高くなっているので、重症化する人、亡くなる人が多くなる可能性があるとしているのです。

【変わらない新型コロナウイルス 今後の対応は】
では、私たちはどう対応していくべきでしょうか。
ここで、強調しておきたいのは新型コロナの法律上の扱いは変わりましたが、ウイルスが変わったわけではないということです。

j230508_07.jpg

新型コロナは比較的若くて健康な人にとっては「かぜと同じ」ことが多いですが、高齢者、それに糖尿病や腎臓の病気など、基礎疾患のある人では重症化しやすい、そして、主にせきや会話の際の飛まつなどで広がり、密閉・密集・密接の「3密」の場所・場面では感染しやすいということは変わっていません。

一方、有効な対処法も変わりません。
手洗いや消毒、マスクの着用、換気、人との距離をとること、ワクチン接種、体調不良時には無理せず休む、こういった対策です。複数の対策を重ねることで、感染のリスクを下げることができます。

感染したときの重症化リスクは人によって異なります。
だからこそ立場の違いを理解して、せきエチケットや場所・場面に応じてマスクを着用するなどの対応、それに、感染者が身の回りで増えているような局面では少し対策を強めるといった対応を続けることが求められます。

【国に求められることは】
新型コロナの対応で最も大事なことは、感染対策と社会経済活動のバランスを取りながら、重症化リスクがある人を確実に診られる医療体制を作ることです。
残された課題を3点、指摘したいと思います。

j230508_08.jpg

まずは、感染拡大時の医療体制確保です。
いま、多くの病院ではコロナ患者が少なくなり、病床を確保した際の補助金が減ることもあって、コロナ病床を縮小する動きが相次いでいます。
また、保健所などが担ってきた入院調整は、今後は医療機関の間で行われるようになります。
感染が拡大し、多くの人が入院する事態になる前に計画倒れにならず、実際に病院で診られる体制を確保することが求められます。

変異ウイルスの監視も課題です。
新型コロナウイルスはいまも変異を繰り返していて、劇的に感染力が強まったり、重症化率が高まったりした変異ウイルスが出てくる可能性は残っています。
5月8日からは、死亡者数もリアルタイムでは把握されなくなっています。
国は、一部の自治体で1か月以内をめどに死亡者数を集計して傾向を把握するとしていますが、亡くなる人が増えていないか様々な手段で的確に把握し、対応が遅れないようにすることが求められます。
変異ウイルスを監視し、異変を確実に把握できる体制の維持は今後も必要です。

さらに、この3年間に感染した人の中には後遺症に苦しむ人がいます。
仕事や学業が続けられなくなっている人もいて、社会的な損失にもなっています。
診療できる医療機関を増やし、治療法の研究をさらに進める必要があります。

j230508_09.jpg

各国の専門家は、新型コロナが日常の病気になったとしても、別の感染症によるパンデミックは今後も起きうると考えています。
日本国内では2009年の新型インフルエンザのあと、検査体制や医療体制の整備などが必要だという報告書がまとめられましたが、教訓は十分に生かされませんでした。
次のパンデミックに備えるためにも、新型コロナの経験を生かすことは欠かせないと言えます。

【常識的な対策で日常を】

j230508_10.jpg

新型コロナは終わったわけではありません。
緊急事態宣言の終了を表明した際の記者会見でWHOのテドロス事務局長は「世界では先週も3分に1人がコロナで命を奪われている。宣言の終了をもって各国は国民に、新型コロナは心配ないというメッセージを送ってはいけない」と述べました。

政府分科会の尾身茂会長は「これからも感染者数が急増することはあり得る。いままでの経験を元に感染リスクの高い行動を控え目にするなどの対応を取ることが有効な対策になる」と話しています。

3年あまり、不自由な生活を強いられてきただけに、日常を取り戻すことは大事です。
ただその中でも、周りに高齢者など重症化しそうな人がいればマスクをするなど、この間に身についた常識的な対応で乗り切っていけるようにしたいものだと思います。


この委員の記事一覧はこちら

籔内 潤也  解説委員

こちらもオススメ!