世界の190か国が加盟するIMF・国際通貨基金は、「今年の世界経済は、景気が減速した去年より、さらに悪くなる」という見通しを発表しました。
また、向こう5年間の成長についても、世界の分断がすすむことによって、1990年以来およそ30年ぶりの弱さになるという、厳しい見方を示しました。
そこで、G7サミットを来月に控え、
▼減速する世界経済とその背景
▼足元のリスクとして注目される「不動産」と「ノンバンク」
そして▼懸念されるグローバル化の停滞・「スローバリゼーション」の影響
といった点から、世界経済の今後の課題についてみていきたいと思います。
【減速が続く世界経済】
はじめに、最新の予測を詳しくみてみます。
IMFはこの先は「霧の中を足元が不安定な小径をすすむようだ」として、先行きの不透明さを強調しています。
まず▼メインシナリオとして、ことしの世界経済の成長率は、去年の3.4%から、2.8%に減速するという予測を示しています。
その最大の要因は、G7をはじめとする先進国で、わずか1.3%と、前の年の半分の成長しか見込めないとみられているからです。
ロシアのウクライナ侵攻の影響による、景気の落ち込みに悩むユーロ圏。
それに根強い物価高と、それを抑えるために金利を急ピッチで上げる、アメリカ、などの金融引き締め策の影響で、先進国の9割が減速するとしています。
日本の成長率も、設備投資が弱めになりそうだという理由から、ことし1月時点の予想から、0.5ポイント引き下げられました。
さらに先進国の失業率も、2022年から2024年までの3年間の平均で0.5ポイント悪化するとみています。
▼一方、IMFは、景気が、もっと悪くなるシナリオ、についても言及しています。
先月、欧米では金融機関の経営に対する不安が高まり、アメリカでは地方銀行が相次いで破綻。
また、ヨーロッパの大手金融機関が救済合併される事態が起きました。
こうした信用不安がさらに広がった場合、ことしの成長率が、2パーセントを割る可能性も指摘しています。
世界経済の成長が2パーセントを割ったのは、21世紀に入ってからは、リーマンショック直後の2009年と「新型コロナ危機」ともいわれた2020年の2回のみです。
物価の高騰を抑えようとして各国が行なってきた金融の引き締めが、景気の悪化や、金融業界の信用収縮といった影響を、どこまでもたらすのか、それがいよいよはっきり見えてくる今年が、正念場になるといえます。
【短期的なリスクは「不動産」と「ノンバンク」か】
では今、具体的にはどういったリスクが、心配されているのでしょうか。
2つのリスクが注目されています。
一つは不動産市場についてです。
これまで金利が低く、融資が受けやすい環境を背景に、欧米各国を中心に、不動産への投資が集中し、その価格を押し上げてきました。
しかし金利が高くなってくると、借り手がローンが支払えなくなり、また不動産を売って返済しようにも、今度は不動産価格が下がってくる。
そうなると、融資が焦げ付き、投資を後押ししてきた銀行の経営にも、悪影響が出る心配があるというのです。
実際、先進国の住宅ローンの金利は去年1月には平均2.8%だったものが年末にかけては6.8%にまで上昇。
一方、住宅価格は去年の第2四半期から、多くの国で下落しはじめているということです。
またアメリカでは、オフィスビルなどの商業用不動産への融資の4分の3は、中堅・中小金融機関によるものとみられています。
融資の返済が滞れば、銀行が貸し出しを渋るようになって景気が悪化する懸念があるほか、銀行そのものの経営悪化につながりかねないといいます。
IMFは、2008年のリーマンショックのときとくらべれば、各国の銀行の体力ははるかにしっかりしていて、ただちに金融危機を引き起こすような危険性は低い、としています。
しかし先月起きたアメリカ発の信用不安では、中小の金融機関が、いともあっさり、破綻に追い込まれているだけに、注意を怠らないようにすることが必要です。
2つ目のリスクは、金融規制が銀行ほどは厳しくない、ノンバンクの動きです。
ノンバンクとは投資ファンドや年金基金、ヘッジファンドなどを指し、長年、各国で超・低金利政策が続く中で、より高い利息、高いリターンを得たいという人たちの資産運用の受け皿となってきました。
その結果、いまや世界の金融資産の半分近くを、ノンバンクが保有しているとみられています。
しかし▼ノンバンクには銀行への規制が適用されず、各国の金融当局が十分に中身を知るのは難しいこと
▼信用不安が起きると、こうしたノンバンクが、抱えている金融商品や資産を一斉に売り出すことで、株価や資産価格の下落に拍車がかかり、それがまた別の金融機関の経営問題に飛び火する、といった危機を拡大する可能性が心配されています。
こうした悪影響が国境を越えて広がることも懸念されており、世界の金融市場をリードするG7がコミュニケーションを密にし、必要な監視を怠らないことが求められています。
【「スローバリゼーション」とグローバルサウスの台頭】
さて、ここまでは世界経済への短期的なリスクについてみてきましたが、もう少し長い目でみて成長を妨げるおそれがある「スローバゼーション」、つまりグローバル化の停滞の影響、についてもみていきたいと思います。
IMFは今回、今から5年後の予測も示し、2028年の世界経済の成長率が3%にとどまる、と予想しています。
これは過去20年の平均である3.8%を下回る数字です。
これまで高い成長をみせてきた中国は、3.4%の予想。
現在の4%から5%台の成長といった水準からみても、かなり低い数字です。
また、日本は0.4%。人口が370万人ぐらい減少すると見込まれているためで、専門家からは、これでも甘い数字ではという指摘すらあがっています。
そして、IMFが今、心配しているのは先進国だけでなく途上国や新興国も巻き込んだ「スローバリゼーション」による悪影響です。
ロシアによるウクライナへの侵攻や緊張が続く米中関係を背景に、世界の分断が加速し、ヒトやモノやおカネが自由に行き来する流れが停滞しています。
その結果、各国の貿易が滞り、世界のGDPの7%にもあたる損失を被ることも考えうるとしています。
また、各国への直接投資や、技術移転も鈍っていて、最も影響を被るのは、途上国や新興国だと分析しています。
ここ最近、インド、ブラジル、インドネシアといった「グローバルサウス」と呼ばれる国々の台頭が目立つのも、スローバリゼーションによる損害を最小限にとどめ、自分たちの国益を最大化するにはどうすればいいかを考えるよう、迫られているからだといえます。
日本は、こうした国々とどのような連携が可能かを模索し、お互いの信頼関係のもとで、投資や技術移転をすすめて、世界経済を下支えできるかが問われています。
来月開かれるG7サミットで、日本はグローバルサウスの中核的な存在である国々も招き、「先進国中心のG7とグローバルサウスの橋渡し役を果たす」としています。
世界経済の低空飛行が続くと見込まれる中、日本は議長国としてG7の結束を固め、足元の金融システムの安定をはかるとともに、G7とグローバルサウスの連携を強化する、重い役割を担うことになります。
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