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"異次元"の少子化対策 "ラストチャンス"とは?

竹田 忠  解説委員

日本の未来を大きく左右する政策、それが、政府が最重要政策と位置付ける少子化対策です。
そのタタキ台がまとまりました。
児童手当の拡充、育休制度の充実、どれも重要です。
そしてそのために必要、かつ、最も難しい財源の議論が、これから始まります。

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そこで、“異次元”の少子化対策 と“ラストチャンス”と題しまして三つのポイント!
① 時間との闘い
② 所得制限の撤廃とは
③ 財源探しの焦点
この3点について考えたいと思います。

【 ラストチャンス 】

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まず、政府はきょう、少子化対策の具体化に向けた関係府省会議を開き、たたき台をまとめました。
とりまとめにあたった小倉少子化担当大臣は
「国を挙げて少子化という最重要課題に取り組んでいかなければいけない。この6~7年がラストチャンス」だと危機意識を強調しました。

大臣がいう、ラストチャンスとは、どういうことでしょうか?
このグラフをご覧ください。

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こどもの出生数は年々減り続け、去年は初めて80万人を割り込みました。
この流れを10年ごとに区切って減少率を見てみたのが右側のグラフです。
1990年から2000年までの10年間、出生数はおよそ3%減りました。
次の10年間は10%減りました。
そして次は20%減りました。
まるで倍々ゲームのように、こどもの数が減っています。

このまま2030年代に入ると、結婚してこどもを産める若い人たち全体の数が減ってしまって、少子化はもはや歯止めがきかなくなるのではないか?
つまり2030年代に入るまでのこれからの6~7年が、少子化の流れを反転できるかどうかのラストチャンス。
まさに時間との闘い、という危機意識なわけです。

【 たたき台 】

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では、具体的にどのような対策を行うのか?
たたき台の中で強調されているのが
▼共働き・共育て(ともそだて)の推進です。
共働きが一般化する中で、こどもを産み、育んでもらうためには仕事と育児を両立しやすくすることが不可欠です。

▽その柱が育休の充実です。
育児休業の給付金を一定期間、手取り収入の実質10割まで手厚くします。
これに伴って、男性の育休取得率の政府目標を大幅に引上げます。
直近の取得率はおよそ14%ですが、2025年までに50%に2030年までに85%に引き上げることを目指します。

▽「誰でも通園制度」
また、保育園も利用しやすくします。
今の制度では、就労時間が長い正規雇用の人のほうが保育園に入りやすい仕組みです。
短時間労働でも利用しやすくするため、就労要件を問わず、時間単位で柔軟に利用できる制度を検討します。
さらに、
▽放課後児童クラブの受け皿を拡大して、いわゆる「小1の壁」の解消を目指す。

▽子育て世帯が公営住宅に優先的に入れるようにする。
さらに、
▽出産費用をもっと負担しやすくするため、健康保険が適用できるようにする、
ということも検討します。

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そして、もう一つの柱が
▼「若い世代の所得を増やす」ことです。
なぜこどもの数が減るのか?
それは結婚が減っているためです。
若い人たちが安心して結婚し、子どもが持てるようになるには雇用が安定し、所得水準が上がることが重要です。
このため、
▽賃上げの支援や、最低賃金の引き上げ、

▽また、奨学金の返済問題への対応策として在学中の授業料を免除し、卒業後に支払う「授業料後払い制度(仮称)」の導入を目指します。
この制度は、在学中の授業料を国が立て替えて、卒業後にその人の所得に応じて返済するという仕組みです。
まずは修士課程の学生を対象に導入し、その後、広げることを検討するとしています。

▽また、扶養されて働いている人が、年収106万円や130万円を超えると手取りが逆転してしまうため、働くことを抑えるようになる、いわゆる「年収の壁」問題の解消に向け、制度を見直す。

▽そして非正規雇用の人たちが正規雇用として働けるよう支援する、
などとなっています。

【 児童手当 】
このように、様々な対策が検討される中で、最大の焦点となるのが、経済的支援の柱である児童手当の拡充です。

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具体的には
・所得制限の撤廃
・対象を高校卒業まで拡大
・第2子以降の増額、この3点が検討されます。

まず、現在、児童手当については中学生までの子ども1人に対し原則月1万円~1万5千円を支給しています。
所得制限がありまして、子ども二人のモデル世帯の場合、夫婦のどちらかが年収960万円以上ある場合、額は5000円に減額されます。
さらに、年収1200万円以上になると、支給されなくなります。

今回の案では、所得制限をなくし、さらに対象を高校まで広げることで高校卒業までの子どもには全員、児童手当が出るようにしよう、というわけです。

さらに、第2子からは、額を増やすことも検討します。
たたき台には具体的な額は入っていませんが、これまで自民党内では第一子が月1万5000円、第二子が3万円、第三子が6万円と、倍に増やしていく案も議論されたことがあります。

必要となる財源の規模は所得制限の撤廃だけなら1500億円程度。
しかし、支給対象を高校まで広げたり、第二子以降の額を増やしたり、ということになると、その額にもよりますが、さらに数千億円から兆円単位の巨額のお金が必要になる見通しです。

この所得制限撤廃について
実は、世論の評価は分かれています。
先月(2月)のNHKの世論調査を見ても所得制限の撤廃について「賛成」34%なのに対し、「反対」は48%。
反対の方が上回っていて、全体の半数近くを占めています。

年代別にみますと、若い人は「賛成」が多く、年代が上がると「反対」が多い傾向にあります。
これから子どもを持ちたい、という人と、すでに子育てを終えたり、子どもがいない人とでは、立場は異なると思います。
しかし、所得制限をなぜ撤廃するのか?
それは子育てを社会全体で支えるためです。
このことに、世代を超えた理解と協力が得られるかが課題です。
ここは十分な議論が必要になってきます。

【 財源 】
だだき台がまとまったことでそうした財源をどう確保するかという議論に今後舞台が移ります。

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岸田総理大臣はきょう、総理を議長とする「こども未来戦略会議」という会議体を新たに開いて、財源の議論を急ぐ考えを明らかにしました。

財源の検討対象としては
・税
・社会保険料
・そして国債発行、主にこの三つが考えられます。

このうち、大きな焦点となりそうなのが政府がかねてから検討を進めている社会保険料を使った子育て連帯基金構想です。
年金、医療、介護、そして雇用保険など、様々な社会保険財政から少しずつ拠出してもらい、子育てを支援する基金を作ろうという構想です。

ただ、この仕組みについては医療も年金も介護も、その制度を利用するために保険料を払っているのに、なぜ、関係のないこども予算にまわされるのか?
という疑問が予想されます。

こどもが多く生まれない限り、社会保障制度も、この社会そのものも、維持することができません。
こどもがいてもいなくても、より多くの人に、子育て支援への理解と協力を求めることができるか、そこがポイントになります。

ラストチャンスが迫る中、社会全体でこども・子育てを支えていくためにはどのような制度を、誰の負担で、作っていけばいいのか?
議論を急ぐ必要があります。


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竹田 忠  解説委員

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