近畿地方を走るJR京都線などで、2023年1月、電車が駅と駅の間で、長い時間立往生するという問題が起きました。雪で、線路のポイントが切り替わらなくなったことが原因でした。車内に閉じ込められた乗客は、およそ7000人。復旧して電車が動いても、帰ることができず、大勢が朝になるまで電車内などで過ごしました。
運行するJR西日本は、2月、再発防止策をまとめた報告書を、近畿運輸局に提出しました。
今回は、大雪に伴って起きた電車の立往生をみた上で、指摘されている課題、再発防止に求められることを考えます。
1月24日は、気象庁が「全国的に10年に一度程度の低い気温になる」という見通しを発表し、大雪や低温への備えを呼びかけていました。
JR京都線などでは、夜になって、電車が次々に、駅と駅の間で停車しました。
まず、向日町駅のポイントが動かなくなり、3本が駅の間で立往生しました。続いて、山科駅と京都駅のポイントも、動かなくなりました。
動かなくなったポイントの数は、3つの駅の21か所ありました。15本の電車が、駅と駅の間で停車しました。車内に閉じ込められた乗客は、およそ7000人です。
閉じ込められた時間が最も長かったのは、山科駅の手前で立ち往生した電車(上の図で黄色の電車)です。乗客は、およそ1400人。京都駅を遅れて出発したことなどから、混雑していました。
乗客が降り始めたのは、停車からおよそ3時間半後でした。午後11時過ぎ、乗務員らの案内で電車から降りた乗客は、線路わきの階段をおりて、道路に出ました。しかし、夜の冷え込みで、階段は上の図の写真のように滑りやすくなっていました。
このため、午前2時以降、およそ1200人は、1200メートル先の山科駅まで雪の上を歩くことになりました。
最後の乗客が降りたのは、午前5時半。停車してから9時間50分が経過していました。
他の14本の多くは、ポイントが復旧した後、近くの駅で乗客を降ろしました。しかし、時刻は、午後11時、あるいは午前0時を回っていたケースもありました。
多くの人が家に帰ることができませんでした。電車内で仮眠をとる人や、自治体が用意した施設で体を休めた人もいました。
体調不良を訴えた16人が救急搬送されました。
JR西日本の総合指令所には、「体調不良の乗客がいる」といった大切な情報が、繰り返し入っていました。しかし、担当者は個別の対応に追われていたため、全体の状況を整理できなかったということです。このとき、体調不良の人について、すぐに対応できなかったことは大きな問題です。
対策本部が設置されたのは、午後10時25分。対策本部は、運行計画、電車を降りた乗客の移動手段や宿泊の手配、自治体との調整などを組織的に行うものです。JR西日本は「気象庁からの情報に基づいて、前日(=1月23日)には対策本部を置くべきだった」と、設置が大幅に遅れたことを認めています。
あまりに長い間、大勢の乗客が車内に閉じ込められた今回のケースについては、多くの課題が指摘されています。
まず、なぜポイントが動かなくなるのを防げなかったのかという点です。
ポイントには、レールを温めて、凍結を防ぐ「融雪器」が取り付けられています。JR西日本のこのエリアでは「予想される積雪10センチ」を目安に融雪器を使うことにしていました、しかし、当日は気象会社の予測が目安を下回っていたため、「融雪器を使う必要はない」と判断しました。
実際には、京都駅付近で午後5時から6時までの1時間で7センチの積雪がありました。その後も雪が積もり、気温がマイナス3度前後まで下がる中、融雪器では対処できませんでした。
再発防止策として、JR西日本は融雪器を作動させる判断の目安を見直しました。今後は、気温が0度以下で、雪が降ることが見込まれるときなどに作動させ、駅長が状況を見て判断することとしました。また、自動で作動させることができる電気式の融雪器を次の冬までに増やす計画です。
もう一つの課題は、なぜ、もっと早く乗客を降ろさなかったのかという点です。
JR西日本によりますと、総合指令所の担当者が、ポイントの凍結について経験が少なく、復旧に時間がかかることを認識していなかった上、夜で雪が降り積もっていたため、線路を歩くのはリスクが高いと考えたことがありました。
積雪が深くなり、気温も下がるなど、時間が経つほど条件は悪くなり、一層難しい判断を迫られることになりました。
では、どうすればよかったのか。
ひとつは、ポイントが動かなくなった時、復旧作業とあわせて、乗客を電車から安全に降ろす準備を「同時並行」で進めるという方法です。
作業を並行して進めれば、復旧に時間がかかることがわかった段階で、乗客を線路におろす方法に、すぐに切り替えることができます。乗客を車内に閉じ込める時間を短く抑えられます。
重要なのは、乗客への影響・リスクを小さく抑えられるかということを最優先に考えることでしたが、今回はそれができなかったと言わざるをえません。
予期しない大雪が降るということは、全国どこでも起こりえます。それでは、立往生そのものを防ぐ対策として、どういったことがあるのでしょうか。
運行を大きく変える2つの方法、ひとつは「計画運休」、もう一つは「間引き運転」を行うという考え方があります。
「計画運休」は、ここ数年、台風接近の際に行われるようになりました。台風のときは、2日ほど前から、運休の可能性があることを利用者に伝えています。これを大雪の際にも、行うという考えです。
ただ、雪の降り方は、台風の進路のように予測することは難しいという面があります。それだけに、どのようにして早い時点で計画運休を判断して、利用者に運休する可能性を伝えるのか。今後、さらに検討する必要があります。
もう一つの間引き運転。ここで言う「間引き運転」は、単に運行本数を減らすということだけではありません。電車の通過待ちをなくして、すべて各駅停車にします。上り線、下り線、それぞれですべての電車が1本の同じルートを走行するというシンプルな運行にします。
そうすれば、ほとんどのポイントは、切り替えをしなくて済みます。雪でポイントが動かなくなったとしても、動かさないのであれば運行に影響しません。
ただ、今回のように、ラッシュ時間帯に入った後に雪が強くなると、すでに多くの電車が本線を走っているため、電車の本数を間引くことは難しくなります。ラッシュ時間帯に入る前の早い段階で判断することが必要です。
同時並行や計画運休などについては、既に、雪による立往生の対策に組み入れている鉄道会社があります。というのも、5年前の2018年、新潟県のJR信越線で、400人あまりを乗せた電車が、雪のため、半日以上動けなくなったことがありました。
対策は、これを教訓に、鉄道会社ぞれぞれで検討が進められていたものです。
この中では、警察・消防や自治体との連携についても、乗客の安全、そして水や食料、毛布などの確保という面で、重要な項目になっています。
しかし、今回、こうした教訓を生かすことができませんでした。
国土交通省は、今回のケースを重く見て、各鉄道会社に大雪対策の徹底を求めています。
大雪のとき、私たち利用者は、計画運休や間引き運転などが行われるかもしれないということを念頭に、鉄道会社の情報発信に注意することも大切だと思います。
そして、全国の鉄道会社には、駅の間での立往生を防ぐこととあわせて、仮に立往生しても乗客を長時間閉じ込めないよう適切に判断できるかどうか、大雪の対策をあらためて見直すことが求められています。
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