2月の最終日は、毎年、世界希少・難治性疾患の日とされています。
4年に一度、29日を迎えるという「稀な日」である所から、定められました。
希少疾患とは、患者の数が極めて少ない病気のことを言いますが、診断に至るまでに長い年月を要するという大きな課題があります。
10年以上かかる人も少なくありません。
どうすれば、早期診断・早期治療に繋がっていくのか、考えていきます。
希少疾患とは、主に患者の数が5万人未満の病気を指します。
その種類は、世界で6000から7000あるとも言われ、全患者数は、人口の5%に上ると推定されています。
これを人数に計算すると、日本では約600万人となります。
全体を見ると決して、少ないとは言えません。
希少疾患の中には難病と呼ばれる病気も数多く含まれています。
治療が難しく、客観的な診断基準があるといった要件を満たすと、医療費が助成される難病に指定されます。その患者は102万人います。
病気の症状は多岐にわたります。
体の様々な場所に腫れができ、激しい腹痛や吐き気なども伴う疾患(遺伝性血管性浮腫)。
出血が止まりにくい疾患(血友病)。
肝臓や脾臓が腫れたり、痙攣したり発達が遅れたりする疾患(ゴーシェ病)など、実に多様で、命に関わる疾患も少なくありません。
多くは遺伝性のもので、患者の半数以上は、子どものうちに発症するとされています。
この希少疾患、多くの患者は、診断や治療に辿り着くまで、長い年月を要しています。
診断が確定するまでの期間は、多くの場合、数年かかります。
中には平均で10年以上という疾患もあります。
例えば、体の様々な部分が腫れる「遺伝性血管性浮腫」の場合、診断が確定するまで、平均で13年以上かかるというデータがあります。
また診断率は16%とも言われています。
多くの患者は診断すらされていないというのが実情です。
希少疾患には、根本的な治療が難しいものもありますが、それでも、症状の進行を遅らせたり、苦痛を和らげたりする治療はあります。
しかし、病名が分からなければそこに至らず、症状に苦しみ続ける患者が後を絶ちません。
治療までの長い道のりは、患者の旅=「ペイシェント・ジャーニー」とも呼ばれ、希少疾患は特に長期化しています。
ここまで時間が掛かるのはなぜなのか。そこには診断の難しさがあります。
患者は最初に、体の不調を訴えて身近な医療機関を受診します。
しかし、そこですぐに病名が診断されることは、ほとんどありません。
医師が希少疾患を疑い、患者を専門医のいる病院に紹介することで、初めて詳しい検査が行われ、病名が確定します。
ところが、この専門医に辿り着くまでに、時間が掛かってしまうのです。
その大きな理由の1つは、地域の医師が、希少疾患に気づかないというケースがあります。希少疾患は、体の様々な臓器に異常が出たり、年齢によって症状が変わります。
一般の病気と共通する症状も多く、知識がなければ、気づくことが難しいのです。
また、仮に医師が希少疾患の可能性を疑ったとしても、どこに相談すれば良いか分からないという場合もあります。
希少疾患は種類が多いため、専門医も分散していて、どの病院にいるのかが分かりづらいのです。
すべての都道府県に専門医がいるわけではない、という希少疾患もあります。
こうした現状について、長年、ライソゾーム病などの希少疾患の治療に当たってきた、東京慈恵会医科大学名誉教授の衛藤義勝医師は次のように話しています。
「希少疾患のような特殊な病気は、病名すら知らない先生もおられますし、患者をどのように専門医に結び付けていくか、専門医に紹介していくか、ルートがなかなか分かりづらいという点があります。
担当の医師が、どのようにアプローチしたら良いのかを知らないと、そこから先へ進まないわけです」
診断が遅れれば、それだけ症状が悪化するリスクは高まります。
早期診断は大変重要で、そのためには一般の医師と専門医との連携が重要になります。
そのために必要なこと。
まずは一般の医師に、希少疾患について広く知識を持ってもらう。
次に、専門医に繋がるルートを明確にすることです。
一部の希少疾患では、具体的な取り組みが始まっています。
例えば、代謝に異常があり、痛みやけいれんなどを引き起こす「先天性代謝異常症」。
その専門医で作る学会は、一般の医師などに向けた「診療ガイドライン」を作成しました。症状や診断のポイントを細かく記載し、広く公表しています。
また、精密検査を受け付けている病院や研究センターなどの一覧も、ホームページで紹介しています。
これは医師だけでなく、患者にも有益な情報です。
こうした情報発信が、より多くの疾患で広がっていくことを期待したいと思います。
また、国や自治体による希少疾患の検査にも、検討すべき課題があります。
今、すべての赤ちゃんを対象に、血液を採取して、先天性の疾患を調べる、「マススクリーニング」と呼ばれる公費検査が行われています。
国は推奨する検査対象を20の疾患としていますが、実はほかにも、調べられる希少疾患は数多くあります。
自治体の中には、これらの疾患を、独自に予算を付けるなどして、検査に加える所が出てきています。
つまり、地域によって調べる疾患の数に差が生じているのです。
これを埋めていくには、国レベルで、検査対象を今の20疾患から増やしていけないか、考えなければなりません。そのための検査体制の強化など、早急な検討が求められます。
また、赤ちゃんの時に病気が判明しなくても、成長した後に血液を調べて、判明する希少疾患は多くあります。
体の酵素がうまく働かなくなる「ライソゾーム病」などです。
一部の希少疾患の専門医グループは、開業医に対して、症状が疑われる患者が受診した場合、採血を専門機関に送るよう呼び掛けています。
一部の機関では、この検査を無料で受け付けています。
こうした、専門医が一般の医師に検査を積極的に働きかけていく取り組みも、さらに広げてもらいたいと思います。
そしてもう1つ、希少疾患で大きな課題となっているのは、患者への差別や偏見です。
病気が知られていないが故に、周りの理解が得られないのです。
例えば、夜も寝られないほど手足などに強い痛みが出るファブリー病という希少疾患では、見た目が病気と分かりにくく、頻繁に痛みを訴えた子どもが、「怠けたいだけ」「仮病だ」などと言われることが実際に起きています。
私たちが知らない病気はまだ多くあり、想像もつかない症状に苦しむ患者は大勢います。
まずは国や自治体が中心となって啓発活動を強化し、理解を広げていく必要があります。
このように希少疾患は実に様々な課題が残されています。
これまでは「特殊な病気」と見られ、関心が高まりにくかった面もありますが、誰もが関わる可能性があります。
理解が広がれば広がるほど、早期診断や差別の解消に繋がっていきます。
その気運を高めていかなければなりません。
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