NHK 解説委員室

これまでの解説記事

問われる参議院議員の役割と責任

権藤 敏範  解説委員

j230210_01.jpg

参議院では憲法や国会法が想定していなかった事態が相次いでいます。海外に滞在し国会への欠席を続ける議員が懲罰委員会にかけられました。また、辞職した議員の残り任期を5人が1年ごとに交代して務める方針を示す政党もあります。こうした事態のどこに問題があるのか、参議院議員の役割と責任、今後の課題を考えます。

【議員登院せず】

j230210_02.jpg

NHK党のガーシー参議院議員は、去年7月の参議院選挙の比例代表で初当選しましたが、UAE=アラブ首長国連邦に滞在しているとして、1度も国会に登院していません。
憲法は、国会議員に厳格な出席義務を求めています。もちろん、ただ出席すれば良いという訳ではなく、国会で質疑をし、法案や予算案の議決に加わる、議員立法を提出するなど全国民の代表として国民の負託に応えなければなりません。ですから、まず出席するのが大前提です。そのための努力が本人にも党にも求められます。
尾辻参議院議長は、ガーシー議員に対し、国会法に基づく書面の「招状」を出して出席を求めましたが応じなかったため懲罰委員会に付託。これを受けて2月10日から審査が始まりました。欠席を理由に審査が行われるのは初めてです。懲罰は、重い順に除名、登院停止、議場での陳謝、議場での戒告の4種類で、審査を経て本会議で処分が決まります。

j230210_03.jpg

与野党からは「議員としての役割を果たしていない」、「職務放棄だ」などと一斉に批判が出ています。
懲罰委員会の今後の審査では、大きく2つのポイントがあると考えます。
1つ目のポイントは、ガーシー議員が国会に出席できない理由に妥当性や正当性があるのかということです。その理由として、ガーシー議員は「日本に帰ると不当な罪を着せられる恐れがある」などと説明しています。一方で、国会議員には会期中に逮捕されない不逮捕特権などの身分保障があります。鈴木宗男懲罰委員長は「国会議員の身分に関することなので丁寧に対応していく」としており、本人や党の説明がどう判断されるのかが焦点となります。

j230210_04.jpg

もう1つのポイントが、国会に来なくても議員の役割や責任を果たせるのかということです。立花党首は、ガーシー議員が「国会に来なくても仕事をしている」と擁護していますし、懲罰委員会の審査にあたってはオンラインで弁明の機会を与えて欲しいとも主張しています。
こうした一連の対応で改めて注目されているのが、国会でのオンライン審議です。去年3月には、衆議院憲法審査会が緊急事態などの場合には憲法上可能だとする意見が大勢を占めたとする報告書を議決。それを受けて衆議院では各委員会が実施する視察や意見交換会などから推奨していくことを申し合わせました。「出席」の解釈の概念は広がりつつありますが、懲罰委員会をオンラインで開くには参議院規則の改正などが必要だとされています。
ガーシー議員は海外で政治活動を行うと公言して28万7千票を集めて当選しました。一方で、問題を起こした議員が病気などを理由に欠席する例も繰り返されてきました。懲罰委員会は2月中にも結論を出す見通しですが、今回の事態はそれだけでは解決せず、議員が国会に出席することの意味そのものを問いかけているように思います。

【1年ごとの交代】

j230210_05.jpg

一方、れいわ新選組の「想定外」の対応にも波紋が広がりました。
去年の参議院選挙の比例代表で当選した水道橋博士氏が体調不良で1月に辞職。これを受けて山本代表は、残りの任期を有効に活用したいとして、比例代表の名簿から繰り上げ当選した大島九州男氏ら5人が1年ごとに交代して議員を務める方針を示しました。
山本代表は「多様で多彩なメンバーが国民の負託に応えていく」と述べ、投票した全ての人に報いる「実験的な試み」だと説明。しかし、他の党からは「任期を6年と定める憲法の精神に反する」、「有権者の思いに沿ったものなのか」などと批判が相次ぎました。
1年ごとの交代も議員が納得しなければ成り立ちませんし、経験も蓄積されないという指摘もあります。一方で、他の選挙に立候補するなどとして任期途中で辞職する議員は珍しくありません。制度の見直しや制限が必要になるのか、少なくとも選挙の時に有権者にこうした構想を示して判断を仰ぐことは必要ではないでしょうか。

【参院比例の「特定枠」】

j230210_06.jpg

また、比例代表の「特定枠」の課題も明らかになりました。
参議院の比例代表では特定枠の候補者から優先的に当選が決まります。自民党が選挙区の「合区」の救済策として導入を主導し、候補者を出せなくなった県を地盤とする人を処遇してきました。
しかし、2019年に特定枠で当選した徳島県出身の参議院議員が県知事選挙に立候補するために1月に辞職。これを受けて繰り上げ当選したのは、徳島県とは縁がない札幌市出身の候補者でした。
自民党にとっては特定枠のねらいから外れる事態です。「議員は任期を全うするもの」という前提に立ち、こうしたことが起きると想定しなかった見通しの甘さにも原因があります。
一方、特定枠によって、重度の障害があるれいわ新選組の舩後靖彦議員らが当選し、参議院では設備の面でも制度の面でもバリアフリーが一気に進みました。特定枠の使い方によっては、これまで国会に届いていなかった多様な民意を救い上げることができる証左となり、各党にはその活用の仕方が問われます。

【参院のあり方は】

j230210_07.jpg

参議院は、衆議院のように任期途中の解散がなく、6年間、腰を据えて活動することで、長期的な視点に立った「良識の府」、「再考の府」としての役割を果たす。今回は、そんな参議院のあり方が問われるような事態だとも言えます。
見てきた一連の事態は、政党にも候補者個人にも投票できる参議院の選挙制度に起因しているとの見方もあります。参議院の比例代表は、各党に配分された議席の中で得票数の多い候補者から順に当選が決まる非拘束名簿式に加え、特定枠もあり、複雑で有権者に分かりづらいと指摘されてきました。1票の格差を解消するために導入した合区にも、それぞれの県で投票率が著しく低下したという弊害も見られます。
こうした中、与野党各会派の代表でつくる参議院改革協議会は、参議院の選挙制度を検討するため専門委員会を設置して議論を始めました。そこでは1票の格差を是正するとともに、これまで想定していなかったものにどう対処すべきか、議員の任期や責任の在り様などを検討する必要があるのではないでしょうか。
今回の一連の「想定外」の事態を国会のルールや選挙制度の見直しで対応するのか、それとも有権者の判断に委ねるのか、議員個人はもとより政党にも問われていると考えます。


この委員の記事一覧はこちら

権藤 敏範  解説委員

こちらもオススメ!