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新型コロナ 5類への移行とマスク着用 政府方針と課題

中村 幸司  解説委員

新型コロナの感染症法上の位置づけが、2023年1月27日、これまでの「2類相当」から季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行されることになりました。また、感染を広げないために、屋内ではマスクをつけることが推奨されてきましたが、このマスクのつけ方も見直されます。
新型コロナの感染が確認されて、3年が過ぎ、感染対策は、大きな転換点を迎えることになります。ただ、5類といっても季節性インフルエンザと同様の対策で新型コロナの感染が抑えられるわけではなく、課題は少なくありません。

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解説のポイントです。今回は、
▽5類への移行で何が変わるのか、
▽マスクの着用について、どのような見直しが考えられるのか見た上で、
▽課題と、今後、求められることを考えます。

政府は、新型コロナの感染症法上の位置づけを、2類相当から5類へと、3か月後の5月8日に移行することを決めました。5類、つまり「季節性インフルエンザ」と同じ分類になります。

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5類とする理由としては、新型コロナについて、どういった対策が有効なのか次第にわかってきたことを背景に、オミクロン株になって、致死率が従来に比べて下がってきたことなどがあります。

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厚生労働省の会議では、5類への移行について、専門家は「賛成」しました。その一方で、対策が緩和されることで、再び感染拡大、あるいは医療のひっ迫が起きないか、といったことを懸念する声も聞かれました。

というのも、新型コロナの特徴は、同じ5類の季節性インフルエンザと多くの点で異なります。季節性インフルエンザは、流行の時期が冬で、毎年経験していることから、治療方法や対処の仕方が確立されています。

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これに対して新型コロナは、1年に複数回の流行があります。さらに、感染者や死亡する人の数は、流行のたびに増加する傾向にあります。
また、オミクロン株の性質が対策を難しくしています。感染が広がりやすく、過去の感染やワクチン接種による免疫からのがれやすい、そして新たな性質の変異株が出現するスピードが速いなどといった点です。
専門家からは「季節性インフルエンザと同じような対応ができる病気になるには、もうしばらく時間がかかる」と指摘されています。5類に移行しても、引き続き対策は必要になります。

5類になると、どう変わるのか見てみます。

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法律に基づいた行動制限などは、できなくなります。緊急事態宣言や入院措置、感染者や濃厚接触者の外出自粛要請は、5類に移行した後、なくなります。
医療機関の対応としては、入院の受入れや診察ができるのは、これまでは指定された「一部の医療機関」などでした。移行後は、幅広く一般の医療機関にも広がりますが、政府は段階的に対象を広げる方針です。
入院が必要な感染者を、どの医療機関に入院させるかという「入院調整」は保健所などが行ってきました。これについては、医療機関の間での調整に段階的に移すことにしています。
入院や検査にかかる医療費は、受診をひかえることがないよう、当面は公費負担を続けます。しかし、後に一部自己負担へと段階的に見直していくことにしています。

一方、マスクの着用はどうなるのでしょうか。

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マスクについて、政府はこれまで、屋外では、近い距離で会話をするような場合を除いて着用の必要はないとし、屋内では、図書館のような会話がほとんどなく距離が確保できるケースをのぞいて、マスクの着用を推奨してきました。

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今回の見直しで、政府は、マスクの着用を「個人の判断に委ねる」としています。
マスクの着用が求められるのは、どういったケースなのか。専門家などからは、
▽自分に症状があるとき、
▽同居している家族に感染者がいるとき、
▽高齢者施設や医療機関の中などが考えられるという意見が聞かれます。
政府は今後、マスクが効果的な場面などを検討し、国民に示すことにしています。

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5類への移行後、私たち一人一人には、行動制限がなくなります。その一方で、マスクを着用するかどうかの判断も含めて、自分が感染を広げる危険性がどれくらいあるのか、周囲に高齢者や基礎疾患のある人など重症化しやすい人が居るのかどうかといったリスクを、自ら考えて行動することが一層求められます。

5類への移行で、専門家が課題として挙げるのが、感染拡大のたびに起きてきた「医療のひっ迫を解消できるのか」という点です。

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これまで、一部の医療機関では、自治体からの要請などにより新型コロナ患者の病床を確保し、治療にあたってきました。

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5類に移行し、段階的に医療機関の受入れが広がれば、こちらの医療機関は、新型コロナの病床を減らして、日常医療に重点を戻していくことができます。

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しかし、十分な感染対策ができないといったことから、5類になっても新型コロナの感染者を受入れられない施設が一定程度あるとみられています。受け入れ施設が十分増えず、結局は、一部の医療機関が新型コロナの患者の治療を続け、再び医療がひっ迫するのではないかという指摘もあります。

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また、入院調整は、これまで保健所が中心に行ってきました。

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これを段階的に医療機関の間の調整に移していく方針です。この方法は、感染者数が少ないときは可能でも、人数が増えると医療機関では、対応できなくなるといった声が聞かれます。

感染症法上の位置づけがかわることについて、多くの専門家から聞かれるのが、「5類に変更になっても、ウイルスの性質が変わるわけではない」という言葉です。

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5類への移行にあわせて、変わる必要があるのは、国や自治体、そして医療機関の対応であり、私たち一人一人の取り組みということになります。
医療ひっ迫を起さないようにする体制などについて、政府は検討を進め、2023年3月上旬をめどに具体的方針を示すことにしています。この中で、国や自治体には「医療機関が感染者を受け入れられる」ようにするため、どう「支援」するのが有効なのか検討することが求められます。
私たちにも、体調が悪くなった時に、まずは自宅で検査キットを使って自分で感染しているかどうか調べるなど「医療への負荷を増やさない行動」、そして「感染リスクを抑える行動」が引き続き求められます。
政府は、どういった行動が求められるのか、今後の検討結果を「わかりやすく示す」ことが必要です。また、各自治体が設けている「受診・相談センターなどの機能」は残して、国民が、適切な行動をとれるようにすることも求められます。

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第8波の感染者数は、減少傾向が続いていますが、再び感染が拡大することを考えておかなければならないと専門家は指摘しています。5類への移行による様々な見直しをスムーズに進めるためにも、感染者数が急激に増加しないようにして、ピークを低く抑えることが求められています。

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しかし、次も大きな流行になるかもしれません。そうした事態を考えて、5類になった後も、規模の大きな感染拡大に対応できる備えを並行して進めておくことも必要です。

いま、私たちには行動制限のような強い措置をとることのない5類で、新型コロナの感染を広げず、あるいは、医療ひっ迫などの混乱を最小限にすることが求められています。そのために、それぞれの立場で、何が必要なのか。
「準備期間」とも言われる5月8日までの3か月の議論や取り組み、それらをステップにして、感染症に強い社会に変えていくことが大切になっています。
                   


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