通常国会が開会しました。
岸田政権が去年暮れ、防衛力の強化や原発を最大限活用する方針に舵を切り、少子化や新型コロナの対策見直しにも踏み込むなかでの国会です。
いずれも国を形作る重大な政策変更なだけに、論戦は激しさを増すとみられます。
今国会の論点と、政局の行方について考えます。
●防衛力の強化
今回最も問われるのは、先送りできない課題の解決とともに、意見が分かれ、反対も根強い一連の政策変更の意図や目的を岸田政権が説明する責任をきちんと果たすかという点です。
なかでも最大の論点のひとつ、安全保障政策をめぐるポイントは、去年暮れ改定した「国家安全保障戦略」などに盛り込み、先の日米首脳会談でも確認した「反撃能力」の保有です。
「反撃能力」は相手国のミサイル基地などを叩く能力で、歴代政権は憲法上許されるものの政策判断として保有してきませんでした。
今回の決定で自衛隊が「盾」、アメリカ軍が「矛」という役割分担から、日本も状況次第で「矛」の一部を担う可能性が指摘されています。
これについて野党側の意見は分かれ、立憲民主党が「先制攻撃となるリスクが大きく賛同できない」とし、共産党などが強く反対する一方で、日本維新の会や国民民主党は評価する立場です。
また防衛費増額とその中身も重要な論点です。
政府は、防衛費の規模を今後5年間で今の1.6倍の43兆円程度とし、2027年度には関連予算とあわせて今のGDP・国内総生産の2%相当にする方針です。
この積算根拠はどのようなもので、中でも反撃能力を得るためアメリカ政府に購入を約束した巡航ミサイル「トマホーク」の効果をどう考え、そもそも中国など近隣諸国と際限のない軍拡競争に陥ることにはならないのか。
また自衛隊の弱点とされ現場から要望も強い弾薬などの備蓄の改善や、今回の決定とは別に、自衛官の確保や、シェルターなど国民の避難・保護施設の整備も重要です。
一方、防衛費増額の財源として政府は、5年後の2027年度以降に必要な年4兆円のうち1兆円余りを所得税、法人税、たばこ税の増税で賄うとしています。
ただ実施時期は自民党内の反対もあって「2024年以降の適切な時期」としているだけで、国債の活用を求める声は自民党内でくすぶっています。
これに対し野党各党は防衛増税では、反対でまとまり、「43兆円の数字ありき、増税ありきで、歳出削減が不十分だ」などと批判を強めています。
防衛論議は事の性質上、抽象論に陥りがちです。
岸田首相自ら、今回を政策の大転換と位置づけ、日米安保条約締結、安保改定、安全保障関連法の策定に続く「日米同盟の歴史上、最も重要な決定の一つ」と誇っています。
である以上、説明は具体的かつ丁寧に行うだけでなく、国会審議をなおざりにし、党内論議も不十分だという批判や疑問にも真正面から答える必要があると考えます。
一方野党側も共闘の維持にこだわるあまり、政権の増税方針ばかりに焦点を当てるのではなく、東アジアの動向や必要な抑止力をどう考えるのか、見解を積極的に示し、外交の重要性も含め論戦をより現実的なものに深めるべきでしょう。
●深刻な少子化
そして今国会で、政治の危機感、解決に向けた本気度が問われているのが、深刻な少子化への対応です。
去年生まれた子どもの数は統計開始以来最も少ない80万人を下回る見通しで、わずか7年でおよそ2割も減っています。
この現状に岸田首相は施政方針演説で「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際」と危機感を強め、「従来とは次元の異なる少子化対策を実現する」と述べました。
政府が4月の「こども家庭庁」発足を前にまとめるたたき台の柱は、児童手当を中心とした経済的支援の拡充、幼児教育や保育サービスの充実、育児休業制度の強化です。
このうち児童手当をめぐっては、所得制限の見直しに加え、中学卒業までとなっている支給対象の拡大。
さらに第2子以降に対し、今の一人あたり原則1万から1万5千円からの増額などが焦点です。
ただ少子化対策をめぐっては、歴代政権も法律や計画を整えてきたものの、事態は一向に改善されず、むしろ悪化し続けてきました。
それだけにこれまでの政策を検証し、少子化の要因のひとつとされる未婚率を下げるため、社会の構造をどう変えていくのか。
なかでも男女間や正規雇用かどうかによって生じる格差の解消や、女性が出産後も働きやすい環境や雇用ルールの整備。
さらには家計の負担感が特に重い教育費の扱いなども待ったなしの課題です。
子どもを持ちたいにも関わらず、経済的な将来不安や、時代遅れの労働慣行から持つことができない、また持たないとするならば、現状を少しでも改善し、よりよい制度を構築するのが政治の責任です。
一方で選挙などを意識するあまり、必要な財源をめぐる議論を避けては、絵に描いた餅になりかねません。
今こそ政府、与野党が垣根を越えて議論し、従来の延長線上になくても、効果が見込めるのであれば積極的に国の政策に反映すべきではないでしょうか。
●政局の行方は
最後に今後の主な政治日程、そして政局の行方を考えます。
ことしは重要な政治日程がいずれも通常国会の会期末までに予定されています。
このうち4年に一度の統一地方選挙について自民党内では、旧統一教会の問題による影響を不安視する向きもあります。
また衆議院補欠選挙をめぐっては、過去に政権基盤が大きく揺らいだケースも少なくなく、おととしには、菅首相(当時)が選挙半年後に退陣する要因の一つとなりました。
今のところ「岸田おろし」の具体的な動きはみられませんが、結果次第では岸田首相の政権運営に対する党内の批判や不満が強まり、衆議院の解散戦略に影響を与える可能性もあります。
これに対し野党各党は、次の総選挙も見据え自民党に比べて脆弱な地方組織を強化できるか試される選挙です。
立憲民主党が日本維新の会と今国会も共闘するのは、選挙も念頭にあるためとみられます。
一方で維新は憲法改正や安全保障政策などでむしろ自民に近く、党内には立民と組むマイナス面を指摘する声もあります。
それだけに国会での共闘とその最中に迎える選挙が両党の思惑通りにいくかは不透明で、去年の参議院選挙で議席を減らした泉代表、地方議員を今の1.5倍の600人規模に増やす目標を掲げる馬場代表にとって正念場となります。
●政治への信頼
岸田首相は施政方針演説で、「政治とは慎重な議論と検討を積み重ねたうえで決断し、その決断を国会で議論し、最終的に実行に移す営みだ」と述べました。
しかし、就任当初掲げた「聞く力」は最近影を潜め、結論ありきで性急に物事を押し切ろうとする姿勢が目立つという指摘は与党内にもあります。
政策を前に進め実効性を高めるには、国民の理解と納得、何より政治への信頼が不可欠です。
その第一歩が政府、与野党の徹底した論戦であり、国民が厳しく見ていることを指摘しておきたいと思います。
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