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動き始めた2024年アメリカ大統領選挙

髙橋 祐介  解説委員

“来年の事を言うと鬼が笑う”と言いますが、再来年の事を言ったら、鬼はひょっとして腹を抱えて笑い転げるでしょうか?そんなジョークを飛ばしたくなるほど、2024年のアメリカ大統領選挙に向けた動きが、異例の早さで活発化しています。バイデン大統領は再選を目指すか?トランプ前大統領の返り咲きはあり得るか?先月の中間選挙を通して、現状を分析し、今後の情勢を考えます。

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まず中間選挙の結果から見て参りましょう。

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議会下院は、野党・共和党が4年ぶりに多数派を奪還しましたが、与党・民主党との議席数の差はわずかでした。上院は、民主党が議席をひとつ増やし、無所属議員も合わせて、多数派を維持しています。36の州で知事選挙も行われ、民主党知事が2人増えました。

これまで中間選挙には、大統領の所属政党=今回の場合は民主党に逆風が吹く傾向がありました。しかし、民主党は、そうした傾向をはね返して善戦し、共和党が期待していたシンボル・カラーの“赤い大波”は起きませんでした。

トランプ前大統領が“推薦”した共和党候補250人以上の当落はどうだったでしょうか?勝率は82%でした。一見、高く見えますが、多くは、共和党が地盤とする州で、もともと再選が見込まれていた現職候補でした。
注目の激戦州で、トランプ氏が関連する政治資金団体が特に力を入れて応援した候補は、下院で0勝5敗、上院で1勝4敗、知事選で0勝2敗。次の大統領選挙でも接戦が予想されている州では、ほとんど勝てませんでした。

共和党が激戦州で競り負けたのは、過激な主張をくり返すトランプ氏が、政治家としての資質に欠けた候補をゴリ押しして、無党派層からの支持を遠ざけたからだ。いまトランプ氏は、党内でそうした批判にさらされています。

それでも、トランプ氏は、2024年大統領選挙への立候補に踏み切りました。これまでは、選挙前年の春ごろから立候補者が出てくるのが通例でしたから、異例の早さです。
しかし、共和党の“メガドナー”と呼ばれる政治資金の大口献金者たちは、これまでとは一転、トランプ氏と距離を置いています。ほかの誰より早い立候補表明には、求心力低下に歯止めをかけたい、そんなトランプ氏の焦りの色もうかがえます。

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トランプ氏に代わって一躍、共和党の新しいスターになったのが、フロリダ州知事に地滑り的な勝利で再選されたロン・デサンティス氏です。トランプ氏より32歳も若い44歳。“ピカピカの経歴”の持ち主です。
労働者の家庭に育ち、名門イェール大学では野球選手として鳴らし、ハーバード大学では法務博士号を取得。海軍で6年間、軍務に就き、イラクに派遣された経験もあります。

知事選のキャンペーンビデオでは、人気映画をパロディーにしながら、リベラル系メディアを一刀両断。(選挙ビデオでのデサンティス氏の発言)「攻撃目標は大手メディアだ!」敵を敢えて作り出し、自己アピールに活かす手法は、どこかトランプ氏に似通っています。

連邦下院議員を3期務め、保守強硬派グループ「フリーダム・コーカス」の創設メンバーのひとりでした。フロリダ州知事として、保守派に軸足を置きながら、ハリケーンの被災対策では、選挙運動を一時中断してバイデン大統領とも協力し、中道寄りの共和党支持層や無党派層にも、支持を広げました。
デサンティス氏はカトリック信者です。トランプ氏のようなスキャンダルはなく、保守的なキリスト教徒から絶大な支持を受けています。

デサンティス氏は、大統領選挙に挑む意思を明言していません。それでも、党内の期待が先行するのは、人口が全米で3番目に多い激戦州フロリダで“勝てる候補”だからです。
大統領選挙は、人口に応じて各州に割り振られた選挙人の獲得数を競う仕組みです。
人口がカリフォルニアに次いで2番目に多いテキサス州の共和党支持層でも、すでにデサンティス氏がトランプ氏を支持率で上まわっているのです。

ただ、全米レベルで幅広い支持を得られるかどうかを試されたことがありません。主な支持層も、トランプ氏と重なります。デサンティス氏は、共和党の有力候補になれるのか?その成否は、トランプ氏の今後の支持率の動き次第と言えそうです。

今度は民主党側の動きを見て参りましょう。

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ことし80歳になったバイデン大統領は、再選を目指して立候補するかどうかを来年の早い時期に決断するとしています。
中間選挙で予想外に善戦したことで、民主党内で、大統領の求心力は、ひとまず回復しています。かつてライバルだった左派のサンダース上院議員(81)や、民主党の次世代リーダーのひとりと目されるカリフォルニア州のニューサム知事(55)は、「バイデン氏が再選をめざすなら、自分は立候補しない」と言っています。

問題は、2期目を目指す場合は再び副大統領候補に指名するとバイデン氏が発言しているハリス副大統領(58)です。女性として、黒人、アジア系としても初めてという鳴り物入りで起用されましたが、これまで目立った実績に乏しく、不人気ぶりにあえいでいます。
仮に2期目に就任するとき、バイデン氏は82歳、任期を終える時には86歳。後継候補の筆頭と目される副大統領は、かつてなく重みを増すでしょう。このため、ハリス氏自身が、まず“勝てる候補”と看做される存在になれるかどうかが課題です。

民主党は、2024年の大統領候補選びの仕組みを大胆に改革する方針です。

党員集会を廃止して予備選挙に一本化。その上で、「より多様性を反映させるため」として、これまで白人が大半を占める中西部アイオワ党員集会と、東部ニューハンプシャー予備選挙からスタートしていた順番をあらためて、黒人が多い南部サウスカロイナ、ヒスパニック系が多い西部ネバダと白人が多い東部ニューハンプシャー、黒人が多い南部ジョージア、中西部ミシガンの順にすると言うのです。

バイデン大統領の強い意向で提案されたものですが、うがった見方をすれば、黒人女性には支持率が高いハリス氏にも有利に働くようレールを敷いたと取れなくもありません。

改革案は、来年2月の民主党全国委員会で決まる予定です。ただ、これまで緒戦の舞台として全米から注目を集め、影響力を及ぼしてきたアイオワ州などは反発していますから、なお紆余曲折もありそうです。

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中間選挙の出口調査を見てみると、青色の民主党は、性別では女性、人種別では白人以外のマイノリティー、年齢別では、若ければ若いほど、支持を集める傾向がありました。

激戦州で民主党候補が競り勝った決め手も、若者の投票率が比較的高かったからでした。

このため、民主党は、次の大統領選挙を勝ち抜くため、女性やマイノリティー、若者からの支持を固めたいとしています。
一方の共和党は、年齢の高い白人男性に偏ってきた支持層を、女性やマイノリティー、若者にも広げられるかどうかが課題になります。

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2024年には、有権者の世代交代がさらに進みます。
これまで社会の中核を担ってきたベビーブーマーは、全体の4分の1ぐらいまで減って、現在40歳前後から下のミレニアル世代と次のZ世代を合わせた“新しい世代”が、4割以上を占めると予測されています。両党の大統領候補が誰になろうと、こうした“新しい世代”から支持を得ることが、勝敗を分ける鍵になりそうです。

前回の大統領選挙は、不正に盗まれたとして、根拠のない主張をくり返した候補の多くは、今回の中間選挙で、あえなく落選の憂き目をみる結果となりました。
2024年の大統領選挙こそ、公正で透明性が高く、勝っても負けても、結果は受け入れる、かつてアメリカが誇りにした健全な民主主義を取り戻して欲しいと思います。


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