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Jアラート・避難 国民保護の課題は

田中 泰臣  解説委員

有事の際、私たちに情報を伝えるJアラートや避難。
北朝鮮による弾道ミサイルの発射やロシアによるウクライナ侵攻によって国内でも有事の際の国民保護への関心が高まっています。その課題について考えます。

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《5年ぶりのJアラート》
北朝鮮は今年、かつてない頻度で弾道ミサイルの発射を繰り返しています。
中でも緊張が高まったのは10月4日、日本の上空を通過する形で発射した時でした。政府はJアラート=全国瞬時警報システムで情報を発信。5年ぶりのことでした。Jアラートは、実際には上空を通過しなかったと訂正したものの先月3日にも発信されました。

《Jアラート 発信の迅速化は?》
2回のJアラートで課題として出てきたのが発信のスピードです。
10月の時は発射から7分後、青森県に発信した同時刻に上空付近を通過したと推定され、先月発信したのは通過を予測した時間の2分後でした。自民党内などから発信の遅れを指摘する声が出て、政府は改善策を検討しています。

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では実際に早めるのは可能なのでしょうか。Jアラートを出す流れは、アメリカ軍の早期警戒衛星が発射の情報をキャッチ。軌道の予測と共に防衛省に伝えられ、防衛省から内閣官房に。内閣官房から消防庁のシステムを通じて自治体や携帯電話会社に伝えられ、防災行政無線やスマートフォンを通じて私たちに届く仕組みです。
防衛省の担当者は、技術が進展すれば、発射の情報をより早くキャッチできるかもしれないとしています。先月、韓国ともリアルタイムで情報を共有することが決まり、それによって早まるのかも注目されます。ただ防衛省は、得た情報は自動的に内閣官房に伝えていて、そこ以外に早められる余地はほとんどないとしています。では内閣官房の所はどうなのか。ここでは担当者がどの都道府県に出すか最終的に判断し発信しています。この手続きについて担当者は、政府内では内閣官房が国民への避難の呼びかけを行うとなっているためと説明していて、必ずしもシステム上必要というわけではありません。ただ仮にここを省いても、数十秒ほどの短縮にとどまるとして発信時間の大幅な短縮は容易ではないようです。弾道ミサイルは発射から10分足らずで到達するとされていて、情報を受け取った私たちが身を守る行動をとる時間はわずかしかないと言えます。

《身を守る行動は?》
では情報を受け取ったら私たちは、どのような行動をとるべきなのでしょうか。
政府は次のような行動を求めています。
▼屋外にいる場合は近くの建物の中や地下に避難。
▼建物がない場合は物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭部を守る。
▼屋内にいる場合は窓から離れるか、窓のない部屋に移動する。

地下への避難が重要なのは、ウクライナ侵攻を見ても理解できますが、他の行動はどの程度身を守ることができるのでしょうか。

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内閣官房の担当者は「過去の戦争でも建物の陰にいて一命をとりとめた事例がある」と言います。
日本大学危機管理学部の福田充教授は「木陰に隠れる、地面に伏せるだけでも爆風や熱風から身を守る可能性はある。自宅だったら浴槽に身を隠すのも有効」と話します。政府は今回、Jアラートの対象となった地域の住民がどのぐらい行動したか調査を行っていますが5年前に発信した際の調査では5%台にとどまりました。住民が身を守る行動をとらなければJアラートは意味を成しません。
政府には、過去の事例また科学的な根拠などを列挙し国民に納得感を持ってもらう。そして行動につなげることが必要だと思います。

《訓練で啓発も》
また訓練を通じた啓発も重要だと思います。沖縄県の与那国島で11月30日、弾道ミサイルの飛来を想定した避難訓練が行われました。日本の最も西に位置する与那国島は有事が懸念される台湾から111キロ。8月には軍事演習として中国の弾道ミサイルが周辺の海に落下しました。訓練は危機感を強める与那国町が政府からの呼びかけに手をあげて行われました。

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各地で政府と自治体が共同で行っているこの訓練。実は今年再開するまで4年ほど中断していました。その背景には、アメリカと北朝鮮の間で融和ムードが広がったことなどがありました。福田教授は「国民の意識を高めるのには時間がかかり、時の国際情勢で訓練の要否を判断すべきではない」と言います。
わずかな時間しかないことを前提にした訓練を重ね、住民の知識を深め、意識を高めていくことが必要ではないでしょうか。

《避難施設の整備は》

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さて別の課題としては、住民が避難する施設の整備があります。
政府は地下施設や堅ろうな建物を緊急一時避難施設に指定するよう自治体に強く呼びかけています。ただ当然ながら大規模な地下施設は都市部に多く、地方では堅ろうな建物も限られています。地方の自治体からは「既存の施設ではまったく足りないし、新たな施設を作る予算もない」との声も出ています。
海外に目を向ければ、スイスやシンガポールなどは公共施設にシェルターの設置を義務づけています。政府は、シェルターの設置に必要なコストや設備を調査することにしているほか、自衛隊施設の地下化を進め国民保護にも活用できるか検討を進めることにしています。政府主導で対策を急ぐ必要があると思います。

《避難の手順は》
市町村は、突然のミサイルへの対応だけでなく、攻撃が事前に予測できる際などに具体的な避難の手順を定めることになっていて、ここにも課題があります。

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国民保護法では、市町村が複数の事態を想定した避難のパターンをあらかじめ作成するよう努めるとしています。
沖縄県宮古島の北にある大神島から住民が避難するケースは、集合する場所や船で島から避難、さらに航空機で県外に避難することなどを定めています。
このパターン、全国で作成している市町村は7割ほど沖縄県内では2割にとどまっています。所管する消防庁によりますと、市町村の担当者から、どのような事態を想定すれば良いか分からないという声が出ているほか、地方の町や村では担当者が1人、しかも他の担当と兼務していて作成が進んでいない所が多いとしています。政府が市町村にパターンの作成を要請したのは17年も前。ただ各地で研修を行って本格的に作成を後押しし始めたのは3年前です。有事への備えが後手になってきた感は否めません。

《住民守れる制度?》

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また、そもそも避難に関する制度の見直しが必要ではとの声も出ています。国民保護法では、政府が、武力攻撃が発生もしくは組織的・計画的に発生する可能性が高い「武力攻撃予測事態」と認定すれば手順に沿って避難を始めるとしています。
これについて現在、防衛力の強化を検討している自民・公明両党の実務者協議で「認定した後では民間の飛行機や船舶は動けないのでは」という指摘が出て、政府に、より早い段階で民間を活用し避難できるよう法改正も含め見直しを求めることになりました。
国民保護法の制定は18年前。この時と今の安全保障環境が大きく違うのは明らかで、住民を守れるものとなっているのか見直しを検討していくことは重要だと思います。

《今必要なことは》
国民保護は、日本が攻撃を受けた時の備えであり、もちろん政府には、その前に攻撃をさせない、また思いとどまらせる外交努力や抑止力の強化というのが求められます。ただ今の日本を取り巻く状況を鑑みれば、万が一への備えをしておく重要度は増していると言え、行政だけでなく私たち国民自身も意識を高めていくことが必要ではないでしょうか。


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