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「ゼロコロナ」に異例の抗議 習指導部の対応は

宮内 篤志  解説委員

中国で、厳しい外出制限などをともなう「ゼロコロナ」政策に対し、異例の抗議活動が相次ぎました。
経済の減速が長期化する中、先行きが見通せないことなどへの人々の不満が一気に噴き出した形で、習近平指導部は3期目に入って早々、難題に直面しています。
「ゼロコロナ」政策が抱える課題と、今後の習指導部の対応について解説します。

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【極めて異例の抗議活動】
中国では週末、各地で「ゼロコロナ」政策に対する大規模な抗議活動が相次ぎました。
首都・北京だけでなく上海や広東省広州など10の都市を超え、若者を中心に数百人規模になったものもあります。
抗議活動では、参加者の多くが何も書かれていない白い紙を掲げていたのが目につきました。
スローガンなどは取り締まりの対象となるおそれがあったため、あえて何も書き込まず、白紙にしたのです。
言論の自由が認められない中でも抗議の意思を示そうとした人々の苦肉の策ともいえます。
さらに、「習近平は退陣せよ」などと声を上げる人たちの姿も見られました。
共産党が一党支配する中国で、公然と政権批判が行われるのは極めて異例です。
 
【なぜ同時多発的に起きた】

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では、いったいなぜ、このような抗議活動が同時多発的に起きたのでしょうか。
きっかけとなったのは、新疆ウイグル自治区の中心都市ウルムチで先月(11月)24日に起きた高層マンションの火災です。
国営メディアが「10人が死亡した」と伝えたこの火災をめぐっては、「感染対策として逃げ道が封鎖されていたため救助が遅れた」などとして、これに抗議する映像がインターネット上に相次いで投稿・拡散されたのです。
この投稿に触発される形で、抗議活動は各地に広がったとみられます。
抗議活動が起きた現場では、大勢の警察官が配置されるなど監視が強化され、表面上、混乱は抑え込まれています。
さらに、中国のネット上では抗議活動の写真や動画などが次々と削除されているほか、警察官が市民のスマートフォンをチェックし、政府の規制が及ばない海外のSNSに接続が可能なVPNと呼ばれるサービスのアプリを削除させているということです。
今回の抗議活動は、政権そのものを揺るがすまでには至っていません。
しかし、それに関連した情報の拡散には、当局が神経を尖らせていることがうかがえます。

ただ、人々の不満は、依然としてくすぶり続けています。なぜなら、「ゼロコロナ」政策が抱える課題が、根本的に解決されていないからです。

【「ゼロコロナ」政策の課題とは】

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中国の「ゼロコロナ」政策の特徴は、厳しい行動制限を通じて、文字通り、感染者がゼロになるまで封じ込めを徹底する点にあります。
いったん感染者が確認されれば、濃厚接触者も含めて直ちに専用の施設などに隔離。
その地区や建物からは外出ができないよう封鎖が行われ、毎日のようにPCR検査が義務付けられます。
上海ではことし3月から2か月あまりにわたって外出制限が続いた結果、一部では食料などの配達が滞り、適切な医療も受けられない事態となり、「人道危機」とも指摘されました。

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こうした強制的な措置は、共産党の一党支配体制だからこそ可能ともいえますが、習国家主席は、むしろ一党支配の正統性をアピールする手段として活用してきました。
2020年の感染拡大初期に湖北省武漢の感染を抑え込み、いち早く経済を回復させることができたのは、共産党による統治の賜物だと自画自賛したのです。
ところが、「ゼロコロナ」政策によるこうした「成功体験」は、習主席の政治的実績と結び付けられたため、問題が生じても簡単には変更できないという課題が生じました。
また、中国は農村部の医療体制が脆弱で感染対策を緩めれば多数の死者が出るおそれがあることや、欧米のメーカーと比べて有効性が低いとの指摘があるにもかかわらず、ワクチンの自主開発にこだわり続けていることも、「ゼロコロナ」政策から抜け出せない要因とされています。

【「成功体験」にほころび】
さらに、その後、感染力が強い変異ウイルスのオミクロン株が出現し、感染が急拡大したことで、これまでの「成功体験」にほころびが生じているのです。

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それが顕著に表れているのが経済です。
厳しい行動制限によるサプライチェーン=供給網の混乱に加えて、工場の従業員が出勤できなくなるなど企業の生産活動への影響も長期化。
小売店や飲食店の営業も制限され、消費は低迷しています。
中国政府はことしの経済成長率の数値目標について5.5%前後としていましたが、IMF=国際通貨基金は10月、これよりさらに低い3.2%にとどまると予測しています。

【緩和に舵切るも「面従腹背」】

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共産党にとって、経済の減速は求心力の低下に直結します。
このため、中国政府は先月11日、隔離期間の短縮などを含めた「ゼロコロナ」政策の緩和方針を打ち出しました。
「経済の立て直し」と「感染対策」を両立させる方向に事実上、舵を切ろうとしたのです。
しかし、この方針は今までの「ゼロコロナ」政策の問題点を認めたうえで変更するという姿勢が明確には伝わらない、あいまいなものでした。
中国では先月になって感染者の数が3万人を超え、過去最多を更新するなど、足元では感染拡大に歯止めがかからない状況となっていました。
こうした中、感染対策を担う末端の行政レベルでは、むしろ緩和とは逆に、厳格化の方針がとられていたのです。
「これ以上感染が広がれば、中央政府から厳しく責任を問われかねない」として保身に走ったとみられます。
政府の緩和方針があいまいなものだったために、これに従わないという、いわば「面従腹背」のような状況が生じていました。
具体的には、外出制限の対象区域を必要以上に拡大したり、期間の延長を繰り返したりすることや、1日に何度もPCR検査を受けさせること、などがあります。
こうした過剰な対応に住民の不満が募っていきました。

折しも中東のカタールでは、サッカーのワールドカップが開催中で、多くの観客がマスクをしないで応援する姿が世界中に中継されていました。
中国の人たちから見れば、「なぜ自分たちだけが厳しい制限を受けなければならないのか」と気づくきっかけになったのかもしれません。

今回の抗議活動は、先行きが見通せない閉塞感が漂う中、募り募った人々の不満が一気に噴き出したものといえるのではないでしょうか。

【行き詰まりをどう打開するか】
こうした中国の状況を、各国は世界経済へのリスクととらえ、習指導部が「ゼロコロナ」政策の行き詰まりをどう打開しようとしているのか注視しています。

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共産党トップとして3期目に入って早々、難題に直面した習主席ですが、「ゼロコロナ」という看板政策が、いまさら間違いだったとは認められません。
10月の最高指導部人事で登用された側近の「イエスマン」たちも、習主席の威信を傷つけまいと忖度の度合いを強める可能性もあります。

しかし今、中国の人たちが求めているのは柔軟性を発揮し、速やかな方針転換を図ることだと思います。
具体的には、人々の権利を尊重しつつ、日常を取り戻すために、まず、厳しい行動制限の緩和を末端の行政レベルに至るまで着実に実施することです。
抗議活動の後、一部地域では緩和が始まったという情報も伝えられていますが、全国に行きわたらせることができるかが問われます。
また、感染の拡大に備えた医療体制の整備や、有効性のあるワクチンの導入などの対策も求められることになります。

今回の抗議活動には、政権批判という要素も含まれていましたが、むしろ過剰な行動制限など人間らしい生活が送れないことへの人々の怒りを強く感じます。
こうした声に真摯に向き合うことができるのか、習指導部の姿勢が問われています。


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