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公文書管理と認証アーキビスト

清永 聡  解説委員

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公文書の改ざんや不当な廃棄をなくし適切な管理を実現しようと、国立公文書館はこのほど新たに専門の資格「認証アーキビスト」を作り、全国の職員に対する研修も行われています。
問題の再発防止への切り札と期待を集めた取り組みですが、この資格を持つ自治体職員の半分が非正規公務員であることが、初の実態調査で明らかになりました。全国の公文書管理の現状と望まれる姿を解説します。

【認証アーキビストとは】

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今回紹介する「認証アーキビスト」。初めて聞いた人も多いと思います。
公文書館をはじめとするアーカイブズで働く専門職員の公的資格です。記録を評価選別し、将来にわたっての利用を保証するという役割を担います。

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公文書管理をめぐっては、この10年あまり問題が相次ぎました。
東日本大震災に関する政府の重要会議で議事録が作成されず、南スーダンでの自衛隊PKOの日報、「森友学園」をめぐる財務省の文書。桜を見る会の招待者名簿など。国だけでなく地方でも不適切な廃棄などが繰り返されました。
文書が失われたため、事業の全体像が見えなくなり、後から検証することが不可能になりました。

こうした中でスタートしたのがこの資格です。
実務経験に加え、専門研修や審査などの条件があり、問題の再発防止につながると、大きな期待を集めました。
これまで認定されたのは全国247人。
多くは公務員で国・自治体、研究機関などで働きます。行政の文書に限らず、地域や歴史文書の保存・管理なども担います。
認証アーキビストの仕事はどのようなものか。地域の公文書館を取材しました。

【徳島県立文書館の取り組みは】

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徳島市にある徳島県立文書館。認証アーキビストで館長の金原祐樹さんに保管庫を案内してもらいました。

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防災関連工事の文書ファイルの棚があります。事業はとうに終わっていて行政文書としての保存期間は終了していますが、ここで保管されています。
今度は改修工事などの時期を迎えるため、再び貴重な資料になっています。県の職員がここまで見に来ることも多いということです。

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保管庫の中には30年前の地元の店のチラシもあります。徳島県立文書館は30年前の開館以来、新聞の折り込みチラシを今も毎日保管しています。
チラシからは物価の変動・扱う商品の違い、店の変遷などが見えてきます。
これも地域の歴史資料になるということです。

【その仕組みと認証アーキビストの関与は】

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自治体の公文書管理の仕組みの一例です。
条例などで内容に応じて保存期間が5年、10年、30年などに分けられます。そして「管理簿」に文書のリストがまとめられます。認証アーキビストはこの保存期間の設定にも関与し、保存後は公文書館などに移すか、廃棄するかなどで意見を述べます。地域の古い記録の寄贈を受けることもあります。
このように認証アーキビストは、公文書が恣意的に扱われないよう専門職員として担当と調整し、市民の間とをつなぐ大切な役割です。

【半数が非正規雇用】

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ところが、国立公文書館が今年行った実態調査で、自治体に勤務する認証アーキビストのうち、非常勤職員など非正規の公務員がおよそ半数に上ることが分かりました(認証アーキビスト実態調査結果より)。自由記述では「雇用が不安定だ」「実績を積み重ねる環境が整っていない」「仕事を継続できる保証がない」と、深刻な答えが相次ぎました。

【地域の文書管理の課題】
なぜ、厳しい現状なのでしょう。全国の公文書管理はどうなっているのか。
公文書管理法は、地方公共団体に対しても、適切な公文書の管理に努めることを求めています。

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しかし実際は今年4月時点で、6つの県は独自の公文書館がありません。政令指定都市も20のうち半分の10の市でいまだに独自の公文書館がありません。
現在247人いる認証アーキビストを、私は都道府県別に分類してみました。すると首都圏が圧倒的に多い一方で、いまだに1人もいない県が12に上ります。特に都道府県立の公文書館がない県はゼロが目立ちます。

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公文書管理の条例を作っている都道府県も、15にとどまります。多くは規則など内規で対応しているとしていますが、公文書管理法制が専門の東洋大学の早川和宏教授は「公文書管理は住民同意のもとでなされる必要がある。規則や規程は条例に比べると、住民の同意の程度が低いと言わざるを得ない。また、組織を横断して規律することが不可能なため不十分だ」と指摘します。

公文書館がない、条例がない。中には保存期間が過ぎた文書を基本的に捨ててきた自治体、文書一覧の作成が十分でない自治体もあるといいます。保存や管理の仕組みが整わない。その結果、認証アーキビストが十分に育たなくなっているのではないでしょうか。

【まず公文書管理の仕組みづくりを】
公文書館の設置と言っても、必ずしも単独で新しい施設を作る必要はありません。札幌市の公文書館は、廃校になった小学校の校舎を活用しています。福岡県では、県内の自治体と共同で公文書館を作りました。いまはデジタル化によって場所をとらない工夫も可能でしょう。
大事なのは箱モノよりまず公文書を管理・保存・利用できる仕組みを整えること。そして理想は、全国で認証アーキビストがその旗振り役となって職員を引っ張り、文書を作成する段階から行政の透明性を確保していくことです。

正規の職員が資格を取った場合、人事異動があるためずっと公文書館だけに勤務し続けることは難しいかもしれません。
しかし、認証アーキビストが別の部署に移ったとしても、新しい部署で文書管理のノウハウを活用することができます。そして公文書館は新たに認証アーキビストを養成する。こうしていけば、自治体の中に深い知識を持った職員が徐々に増えていき、行政をより良くしていくことにもつながるのではないでしょうか。

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アーキビストについて国立公文書館はその職務基準書の中で「常に公平・中立を守り、事実を隠ぺい・わい曲するような圧力に屈せず」などと明記しています。その理念は立派ですが、そのためには認証アーキビストの増加と、行政が業務の重要性を認識することが欠かせないのではないでしょうか。
認証アーキビストをめぐる現状は、いまの公文書管理の「貧弱さ」を象徴しているように思えてなりません。

【公文書を残すことは歴史を伝えること】
公文書の保存には、もう1つ。歴史を残すという役割もあります。
4年前の西日本豪雨で被害を受けた愛媛県宇和島市立間地区の歴史文書が修復を終え、この春、保管していた公民館に返還されました。

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公民館に保管されていたかつての村の公文書などおよそ4000点が水に浸かりました。大学の研究者など、のべ1200人を超えるボランティアが3年余りをかけて、1枚ずつ、乾燥と修復を重ねてきました。
民間による地道な活動が、公文書を復活させたのです。

記録を保存するということは、そこで起きた過去の出来事を未来へ伝えることでもあります。一度公文書が失われれば、その歴史も失われます。将来の検証に耐えることもできず、地域で何があったのかを知ることもできなくなります。
歴史を残し、未来へ正しく引き継いでいく。
そのためにも、行政は国民共有の知的資源である公文書などの管理と保存に積極的に進めてほしいと思います。


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