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GDP4半期ぶりマイナス成長 40年ぶりの物価上昇 日本経済の展望と課題

櫻井 玲子  解説委員

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日本の最新のGDP・国内総生産の伸び率は、4四半期ぶりのマイナス成長となったほか、物価も、およそ40年ぶりの高い上昇幅となりました。
私たちの暮らしへの影響を心配する声や、日本経済の今後は大丈夫なのか?といった、より長期的な見通しについての不安の声もきかれます。

そこできょうは、
▼「予想外」ともいわれた、GDPの数字と、40年ぶりの物価水準の背景。
▼その「物価高」がいつまで続くのかといった当面の見通し。に加え、
▼日本経済の「実力」を底上げするための中長期的な課題は何なのか。
様々なデータも踏まえ、みていきたいと思います。

【GDPは4期ぶりのマイナス成長】
まずは最新のGDPの数字です。

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ことし7月から9月のGDPは、前の3か月とくらべた実質の伸び率がマイナス0.3パーセント。年率に換算して、マイナス1.2パーセントとなりました。
ほとんどの専門家が小幅なプラス成長を予想する中で、それを裏切る形での、4四半期ぶりのマイナス成長でした。
▼輸入が予想以上に膨らんだこと。
▼GDPの半分以上を占める個人消費が、
新型コロナの影響と、食料品やエネルギー価格の上昇を背景に、思ったほど、伸びなかったことが、主な理由です。

従業員が受け取った賃金などを示す「雇用者報酬」も、物価の変動を加えた実質の数字では、3期連続のマイナスとなりました。
賃金の伸びが物価の上昇に追いつかず、個人消費が大きく伸びない要因となっていることも浮き彫りになりました。

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今後については、企業の設備投資が好調なこと。
入国制限の緩和による外国人観光客の増加や、政府の全国旅行支援などによる消費の押し上げ効果が期待されることなどから、ことし10月から12月までのGDPはプラス成長に戻るとみられています。
ただ、ここにきて新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されるほか、年明け以降は海外経済が減速して輸出も減り、日本経済の回復が鈍って、一時的にマイナス成長に陥る可能性もあります。
先行きは、予断を許さない状況です。

【足元の課題は「物価高」】
そして私たちの暮らしに大きく影を落としているのが、「物価高」の問題です。

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先月・10月の消費者物価指数は、前の年の同じ月にくらべて3.6パーセントの上昇と、1982年の2月以来、40年8か月ぶりの高い水準となりました。
食料品などの「値上げラッシュ」や、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに続く、電気・ガス代の値上がりを反映したもので、消費増税を実施したときを超える上昇幅です。
日本を訪れている外国人観光客や、金融資産をもつ富裕層による消費の盛り上がりがみられる一方で、それぞれの家計には負担が重くのしかかり、所得の低い家庭ほど厳しいやりくりが迫られる状況です。

では、この「物価高」はいつまで続くのでしょうか?
最近注目されているのは、物価高の要因となってきた円安・為替市場の動向。
そしてその為替市場を大きく動かしているアメリカの金融政策です。
これまでアメリカの中央銀行にあたるFRB・連邦準備制度理事会は、インフレをなんとか抑えようと、0.75パーセントもの大幅な利上げを続けることで金融を引き締めてきました。
これが利回りの高いドルを買って円を売る、ドル高円安を招いてきたのです。
しかしアメリカの最新の消費者物価指数が市場予想を下回り、インフレのピークは過ぎ去りつつあるのではないかという期待が高まっているほか、利上げで景気が一気に冷え込むのを避けるために、12月にも、利上げ幅を0.5パーセントに縮小するのではいう見方が強まっています。
こうした見方を受けて市場ではここ最近、ドル円相場が10円以上、円高方向に動く形になりました。
アメリカのインフレは依然として高い水準で、先行きはまだ不透明ですが、円安が和らげば、輸入価格がその分下がることになり、消費者にはプラスに働くことになります。

さらに、政府は物価高対策の目玉として年明けから光熱費の負担を軽くするための政策を打ち出しており、消費者物価の上昇を抑制する効果があります。
専門家の大半は、来年の年明けからは、物価の上昇幅は抑えられ、ことしほどの急激な変化に直面する可能性は低いのではとみています。

【「前年比の罠」】
ただ、ここで注意すべきは「前年比の罠」ともいえる現象です。

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物価の動きは前の年の同じ時期と比較した、変動幅でとらえられることが多く、ことし2022年の値上がり率が大きかったがために、来年前半以降、物価は落ち着きを取り戻したかのように、一見、「みえる」かもしれません。
しかし実際には高値がそのまま続くだけで、価格が簡単に下がるのは、考えにくい状況です。
「値上げの秋」を経て、企業によっては原材料費の高止まりを背景に、第二弾、第三弾の値上げを考えているところもあります。
物価が広い範囲で高止まりする可能性は高く、日本経済全体を底上げして物価の上昇に耐えられるような仕組みにしていけるかが問われることになりそうです。

【長期的な課題は成長力の弱さ】
問題は日本経済の回復力や成長力が弱く、なかなか賃上げにも結びついていないことです。
では、なぜ日本経済の成長は、弱いのでしょうか。
その一因として、この20年、日本が国内のインフラや研究開発、そして人材育成に、十分な投資をしてこなかったことが挙げられます。

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▼こちらは、民間企業の、設備投資額の推移です。
過去20年、アメリカやヨーロッパとくらべて、日本の設備投資が抑えられてきたことがわかります。
▼また官民あわせた研究開発への投資額。
こちらをみても、その差ははっきりしています。
▼そして、人材への投資も、海外にくらべて十分ではなかったことが指摘されています。

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これまではグローバル化がすすむ中、多くの日本企業が、より大きな市場がのぞめる海外に、生産や開発拠点を移し、進出先の人材育成に力を入れてきました。
そしてそこで挙がった収益も、再び現地で投資していく、といった循環が続いてきました。
ただ、その間、国内の投資は伸び悩み、人材育成も、あまりすすまず、国としての基礎体力が削がれた面も、あります。
海外と比較すると給料も上がらず、今は円安局面もあいまって、「日本の大卒の初任給と、アメリカ・ニューヨーク州の最低賃金で働いた場合とをくらべると、同じぐらいか、それより安い水準にすらなっている」という指摘もあります。

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そこで、今は、国内での投資を増やし、研究開発費も増やし、国内で働く人の給料を上げて人材育成に力を入れることが必要です。
特に重要なのは、世界の先行きが不透明な中、それを乗りきるための人材を育てる、「人への投資」ではないでしょうか。
企業は、インフレ時代の従業員の生活を守るためにも、「優秀な人材を確保するための投資」としても、賃金を上げ、国内の人材育成を積極的に行う必要がこれまで以上にあります。
政府も、総合経済対策の一部として「人への投資」を5年間で1兆円規模に拡充して、人材育成をてこ入れする考えを示しています。
世界の目まぐるしい情勢変化に耐えられるような、日本経済の土台づくりへの投資が、今、求められています。


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