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アメリカ中間選挙 試練のバイデン政権

髙橋 祐介  解説委員

アメリカの中間選挙は各州で開票集計が続いています。連邦議会は、下院で野党共和党が過半数の議席を確保する可能性がある一方、上院は接戦で、民主・共和両党のいずれが多数派になるかわかりません。与党民主党は議会の主導権を維持できるでしょうか?バイデン大統領の政権運営は、試練の時を迎えています。
これまでの戦いぶりをみながら、2年後の大統領選挙も含めて今後の見通しを考えてみます。

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さっそく開票集計の結果から見て参りましょう。

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まず画面左側の上院です。今のところ無所属議員も含めた民主党系が48議席、共和党が47議席をそれぞれ確保する見通しです。

共和党は、改選議席が民主党より7議席多く、守る議席が多い分だけ不利な戦いでした。しかし、そうしたハンディを乗り越えて、共和党は激戦州の中西部オハイオなどで勝利を確実にしています。これに対して民主党も激戦州の東部ペンシルベニアなどで勝利を確実にしました。
大接戦となった南部ジョージア州については、来月6日の決選投票に決着がもつれ込む可能性もあります。残る州の結果次第で、まだどちらが多数派となるかわかりません。

一方、画面右側の下院です。下院は今のところ、民主党が172議席、共和党が199議席を確保する見通しです。過去の中間選挙は、時の政権与党=今回は民主党に逆風が吹きやすく、下院で議席を大きく減らす傾向がありました。
指標のひとつとなるバイデン大統領の支持率は、いま40%台前半にとどまります。一時に比べやや回復基調にありますが、劣勢をはね返すほどの力強さに欠ける印象は否めません。
このため、下院はこのまま順調に開票が進めば、共和党が過半数を制して、4年ぶりに多数派を奪還する可能性があります。

ただ、共和党の勢いは、当初予想されていたほど強くはなさそうです。投票率は、前回2018年の50%を上回るかも知れません。コロナ禍をきっかけに郵便投票や期日前投票が各地で記録的な多さとなったことに加えて、両党の激しい対立が、投票率を押し上げた主な要因と考えられています。

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各種の世論調査や投票後の出口調査では、有権者の関心が終始もっとも高かったのは、経済とインフレ対策でした。記録的な物価上昇が家計を直撃する中で、共和党は、この問題を最優先に、バイデン政権を攻撃しました。さらに共和党は、バイデン政権発足以来、メキシコ国境からの移民の不法な流入が急増した問題と、治安対策で攻めました。

これに対して、バイデン政権と民主党は、ことし6月の最高裁判決をきっかけに、人工妊娠中絶の問題に力を入れて反転攻勢を試みます。中絶手術を選択する権利が奪われると反発した女性有権者の取り込みをはかりました。
さらに、トランプ前大統領とその支持者が、前回の大統領選挙は不正に盗まれたと根拠のない主張をくり返していることを問題視。選挙そのものを否定することに他ならないとして、「民主主義の危機」を訴えました。

双方の主張は、争点としてまったく議論がかみ合わず、それぞれ一方通行の応酬にとどまった観もありました。

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今回の中間選挙を受けて、来年1月から始まる新しい議会のもとで、バイデン大統領による政権運営は、どうなるでしょうか?

ホワイトハウスと議会の関係は、よく車の両輪に喩えられます。双方が協力しなければ、アメリカ政治は前に進みません。仮に民主党が議会下院で、多数派の座を失えば、バイデン政権がめざす予算や法案は、議会をますます通りにくくなるのは確実です。
予算の先議権を持つ下院の次期議長には、トランプ氏から支持を受けた共和党の下院トップ、マッカーシー院内総務が意欲を見せています。
共和党は、議会乱入事件へのトランプ前大統領の関与の有無を調査する特別委員会は、活動を終了させたいとしています。

両党の対立がこう着状態に陥れば、「決められない政治」が問題となりそうです。そうなると、バイデン政権の求心力は低下が避けられません。
無論これまで中間選挙で敗れても再選を果たした大統領は過去に何人もいます。ただ、バイデン氏は今月20日で80歳になる史上最高齢の大統領です。次の2024年の大統領選挙に向けて、すでに民主党支持層では、若者らを中心に、世代交代を求める声が高まっています。
しかし、民主党が予想外に善戦して、仮に上院で多数派を維持したら、バイデン大統領の再選を推す声が出てくるかも知れません。大統領自身は進退を明言していませんが、今回の中間選挙を機に、バイデン再選の是非を問う議論が活発化するでしょう。

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2年後の大統領選挙を考える上で、今回の中間選挙で36の州で行われた知事選挙もポイントです。両党の勢力が拮抗する主な激戦州の結果は、ご覧のようになりました。
選挙を管理・運営する州務長官などのポストには、「前回の大統領選挙には不正があった」と確たる根拠を示さず主張する、いわゆる選挙否定論者が一部の州で当選する可能性もあります。自分が選挙に負けたら結果を受け入れない。そうした民主主義の根幹を再び揺さぶる事態が今回も、そして、これからも頻繁に起きかねないことが心配です。

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中間選挙で共和党が上下両院いずれかで勝利すれば、トランプ前大統領の復権につながるでしょうか?
トランプ氏は今月15日、南部フロリダ州にある邸宅で「重大発表を行う」としています。2年後の大統領選挙に再び立候補を表明するとの見方も広がっています。

しかし、共和党がいわば「トランプ党」としてまとまるかと言えば、そう単純な話でもなさそうです。何があってもトランプ氏に絶対の忠誠を誓う、いわゆる岩盤支持層は、共和党支持層の3割ほどにとどまるとみられているからです。
トランプ氏は、在任中の機密文書の持ち出し疑惑などをめぐり、司法捜査の対象になっています。
今回の中間選挙で民主党候補に圧倒的な大差をつけて再選されたフロリダ州のデサンティス知事など、ポスト・トランプをうかがう“次世代リーダー”も台頭しています。
しかも2年後の共和党大会で、トランプ氏が大統領候補に指名されたとしても、そのとき彼は78歳になっています。
トランプ氏が今回共和党内で影響力の健在ぶりを見せたのは確かです。しかし、これから2年の長い道のりで、求心力を維持できるかどうかわかりません。

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議会の主導権を共和党に握られたら、バイデン大統領は、大統領権限が強い外交安全保障に活路を見出そうとするかも知れません。

焦点となっているウクライナへの支援は、継続されるでしょう。共和党内には、支援の見直しを求める声が一部にありますが、その一方で、支援規模はむしろ不十分だとする意見もあるからです。ただ戦争の長期化でアメリカにも支援疲れの兆しがあるのは確かです。ロシアによる軍事侵攻には断固対応する基本姿勢には、党派の違いを超えたコンセンサスがあると考えて良さそうです。

対中国外交についても、そうした超党派のコンセンサスが存在します。来週バイデン大統領は中国の習近平国家主席と、インドネシアで開かれるG20首脳会合で同席する可能性がありますが、仮に米中首脳会談が実現してもアメリカ側の強硬姿勢は変わらないでしょう。

一方、ミサイル発射をくり返す北朝鮮への対応は、優先順位が高いとは言えません。

気になるのは、インド太平洋地域への関与に、バイデン政権はどれだけ力を注ぎ込めるかです。内政に精力を割かれて、かけ声だけに終わるリスクはあるかも知れません。内向きになるアメリカのリーダーシップ低下が心配です。

アメリカ中間選挙は、開票集計が続いています。大勢判明には、なおしばらく時間がかかるかも知れません。


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