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北朝鮮ミサイルの脅威

出石 直  解説委員

文化の日、祝日の朝にJアラートが鳴り響きました。北朝鮮はことしに入ってかつてない異常とも言える頻度でミサイルの発射を繰り返しています。
その脅威は増す一方です。北朝鮮のミサイル開発はどこまで進んでいるのか、そしてその脅威にどう備えるべきなのかお伝えします。

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北朝鮮は3日、午前7時台から8時台にかけて、少なくとも3発の弾道ミサイルを東の方向に発射しました。
防衛省によりますと、このうち7時39分頃に北朝鮮の西岸付近から発射された弾道ミサイルは、最高高度がおよそ2000キロで、およそ750キロ飛行し日本海に落下したとみられています。韓国メディアは「発射されたのはICBM級の弾道ミサイル『火星17型』と推定され飛行に失敗したもようだ」と伝えています。

「火星17型」は2020年10月に行われた軍事パレードで初めて登場した超大型の弾道ミサイルです。北朝鮮はことし3月にピョンヤン近郊からこの「火星17型」だとする弾道ミサイルを発射しています。これが本当に「火星17型」だったのかどうかは諸説あるところです。
ただ北朝鮮はキム・ジョンウン総書記が発射に立ち会う様子を映画さながらの映像に収め、その成功を大々的に誇示しました。ミサイルは通常より高い軌道でおよそ70分間飛行し、最高高度はこれまでに北朝鮮が発射した弾道ミサイルをはるかに超えるおよそ6000キロに達しました。飛行距離は1100キロ、通常の軌道で発射されていれば1万5000キロ以上、つまり北米大陸全土を射程に収める可能性があると推定されています。
3日の朝に発射されたのはこの「火星17型」だったのかもしれないのです。

【かつてない頻度と多様化】
北朝鮮は、ことしに入ってこれまでにない頻度でミサイル発射を繰り返しています。

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これは年ごとの弾道ミサイルなどの発射回数を示したものです。キム・ジョンウン体制になって目立って回数が増えてきていることがわかります。2018年、史上初めての米朝首脳会談が行われた年には一回もありませんでしたが、ことしは4日正午現在で60発とかつてない多さです。
最近の北朝鮮の動きで特に注目されるのは、「火星17型」のような超大型のICBM級だけではなく、多種多様なミサイルの発射を行っていることです。

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▽例えばことし1月11日に発射された弾道ミサイルは通常より低い軌道で最高速度マッハ10という高速で飛行したうえ、途中で方向を変える変則軌道で飛んだと推定されています。北朝鮮の国営メディアは「極超音速ミサイルから分離した弾頭が方向を変えて目標に命中した」と伝えています。
極超音速で変則軌道を描いて飛ぶミサイルはレーダーで捉えにくく、探知や迎撃がより難しくなるとされており、弾道ミサイル防衛を突破する能力の向上を図っているものとみられます。

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▽このほか発射地点を隠すために潜水艦から発射するSLBM、▽鉄道から発射する弾道ミサイル、▽さらに異なる地点から特定の目標に命中させる試験発射も行われています。

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このように、北朝鮮はICBMなど弾道ミサイルをより遠くに飛ばすための大型化だけではなく、発射地点をわかりにくくしたり、弾道ミサイル防衛網をかいくぐったりするための技術を着実に向上させているものとみられます。

【北朝鮮の意図は】
早いペースでミサイル開発を進めている北朝鮮。その意図はどこにあるのでしょうか?

ひとつには「日米韓に対するけん制」です。
アメリカ軍と韓国軍は先月31日から空軍による大規模な共同訓練を行っています。訓練にはアメリカ軍のステルス戦闘機F35Bなど両軍合わせておよそ240機の軍用機と数千人の兵士が参加し出撃訓練を繰り返しています。これに強く反発する北朝鮮は軍の高官が談話を出し「おぞましい対価を支払うことになる」と報復を示唆していました。米韓の共同訓練に呼応するかのように行われたミサイルの発射には、北朝鮮に対する抑止力を強化してきている日米韓をけん制する意図があったと考えられます。

しかしそれだけではありません。北朝鮮にはもっと大きな目的、意図があるように思えます。

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ことし9月に開かれた最高人民会議でキム・ジョンウン総書記は、「戦略・戦術兵器の実戦配備を推し進め、戦争抑止力を強化するための総力戦を行っていくべきだ」と述べています。この会議では、核兵器を使用する場合の手続きや条件などが法制化され、会議の後には戦術核運用部隊による戦術核弾頭の搭載を想定した弾道ミサイル発射訓練が行われています。

こうした動きは何を示しているのでしょうか?
国防力を強化するための大きな目標に従って、アメリカ本土をも射程に収めるICBMに搭載する戦略核兵器、そして短距離弾道ミサイルに搭載する戦術核兵器、その両方を実戦配備することを目指し、その実現に向けて様々な種類のミサイルの発射を繰り返していると考えるべきではないでしょうか。

これは日本にとっても由々しき事態です。現に北朝鮮は核弾頭のさらなる小型・軽量化を目指し、すでに7回目の核実験の準備を終えているとされています。

【脅威にどう備えるか?】
日に日に増している北朝鮮の脅威にどう備えれば良いのでしょうか。

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急がれるのは弾道ミサイル防衛体制の強化です。弾道ミサイルの発射を確実に捉え、迎撃できる体制を早急に整える必要があります。

アメリカ、韓国との連携も欠かせません。今回も弾道ミサイルが日本上空を通過したのかしなかったのかをめぐってJアラートの通報内容に混乱がみられました。
2日の朝に発射された弾道ミサイルについても、日本の防衛省は「少なくとも2発」としているのに対し、韓国軍は「3発」と分析結果が異なっています。国民に正確な情報をいち早く伝えるためは、日米韓3か国による緊密な情報交換と監視体制の強化が必要と考えます。

忘れてはならないのは外交努力です。北朝鮮は対話の扉を頑なに閉ざしていて、外交も手詰まりの感がありますが、相手を非難するだけでは北朝鮮の暴走を止めることはできないのもまた事実です。例えば“瀬取り”と呼ばれる海上での違法な物資の横流し、これに対する監視を強化することも有効でしょう。いかに技術的に優れたミサイルであっても燃料がなければ飛ばすことはできないからです。国連安保理による追加制裁ができないのであれば、有志国による制裁の強化も検討に値するのではないでしょうか。
戦略核にせよ戦術核にせよ一度使ってしまえば北朝鮮にとって破滅的な結果を招くことはキム総書記もわかっているはずです。
来週からは各国の首脳が集う重要な国際会議が立て続けに予定されています。
北朝鮮の暴走に歯止めをかけるために、岸田総理大臣にはこうした場で大いにリーダーシップを発揮してもらいたいと思います。


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出石 直  解説委員

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