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新型コロナ インフルエンザとの同時流行への備えと課題

中村 幸司  解説委員

新型コロナウイルスの感染は、2022年11月はじめ現在、全国的に増加しています。年末年始に向けては、新型コロナとインフルエンザの同時流行に警戒が必要だと指摘されています。政府は、同時流行の備えとして、国民がどう行動したらいいのかについて取りまとめ、10月末に公表しました。

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今回は、
▽なぜ、この冬に同時流行の警戒が必要なのか、
▽同時流行に対する備えと課題、
▽今後、求められることについて考えます。

政府は、同時流行した際の患者数を次のように想定しています。

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新型コロナの患者がこれまでの最大を上回る1日45万人、インフルエンザの患者が1日30万人、1人の人が両方のウイルスに同時に感染するケースがどれくらいあるかはわかりませんが、同時流行のピーク時には、合わせて1日75万人の患者になるという想定です。

なぜ、この冬は同時流行が指摘されているのか見てみます。

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新型コロナが拡大する要因には、次のようなものがあります。
年末年始は過去2回、感染が広がりましたが、これから迎える年末年始も感染拡大の懸念があります。冬は、呼吸器感染症が流行しやすいといわれています。寒さで換気がしにくいこと、クリスマスや正月の帰省など交流の機会が増えることなどがあげられます。

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一方、インフルエンザは、新型コロナ以降、日本で流行していません。しかし、この冬はこれまでと状況が違います。
そのひとつが、季節が逆の南半球のオーストラリアでの感染です。オーストラリアでも、新型コロナ流行後の2020年、21年は、インフルエンザの患者は増えませんでした。しかし、2022年はピークがコロナ前の2019年を上回る流行がありました。このため、北半球でも流行の可能性が指摘されています。

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さらに、日本は水際対策を大幅に緩和しました。アメリカなどインフルエンザの感染者が増えている国から、インフルエンザが入ってくるリスクがあります。そして、しばらくインフルエンザが流行しなかったことから、国民全体の免疫が低下していることも指摘されています。

政府は、大規模な同時流行への備えとして、発熱などの症状が出た際に、私たちがどのような手順で医療機関の受診や自宅療養などをしたらいいのか、その流れをまとめました。

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高齢者や基礎疾患のある人、妊婦といった重症化リスクの高い人、それに小学生以下の子どもは、発熱外来やかかりつけ医などをすぐに受診します。
新型コロナとインフルエンザのどちらに感染しているのか、症状からは、判別が難しいので両方の検査を行い、いずれか陽性であれば、自宅療養あるいは入院、いずれも陰性であれば、症状の原因を診断し、治療します。

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一方、若い世代などでリスクの低い人については、自分で抗原検査キットをつかって調べる「自己検査」を行い、陽性なら自治体の「健康フォローアップセンター」に連絡して自宅療養、陰性なら電話やオンラインによる診療、あるいはかかりつけ医を受診しインフルエンザの検査をするといった対応です。

ここで注意したいのが、小学生以下の子どもについてです。

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子どもは、新型コロナは2歳未満、インフルエンザは5歳未満では重症化リスクがあるとされています。この年齢以上でも、子どもは症状が様々ですので、何かと心配です。このため、小学生以下はかかりつけ医などへの相談が勧められています。
新型コロナでは、子どもの感染は「比較的少ない」という印象があるかもしれませんが、最近は違います。こちらは、2年前=2020年の、感染者数の年代別の割合です。10歳未満は、2%ほどです。これが、2022年1月以降の割合をみると、10歳未満は14%です。10代も大幅に増え、20代、30代、40代とほぼ同じです。
インフルエンザの感染は、例年、子どもが多く報告されますが、新型コロナでも子どもの感染が増えています。同時流行になると、多くの子どもたちがどちらかのウイルスに感染することが考えられます。

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子どもたちを、いかに混乱なく治療に結びつけるかが大切になります。

小児の医療体制は、どうなっているのか。

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例えば、神奈川県では、以前から地域ごとに拠点医療機関を中心に、それに連携した病院も含めた小児のコロナ患者受け入れ体制を整備しています。また、重症の場合は「小児コロナ高度医療機関」で治療するなど、症状に応じた医療を提供できるようにしています。

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現在は、同時流行に備えて、連携する医療機関を増やす取り組みをしているということです。
子どもの感染増加に対応できる医療体制の構築を、全国で進めることが求められています。

一方、新型コロナに感染して亡くなる人が多い高齢者についても、医療体制の整備を急ぐ必要があります。

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オミクロン株では、感染による肺炎ではなく、もともとの基礎疾患が悪化して亡くなるケースが多いと指摘されてきました。上の表は、国立国際医療研究センター病院のデータです。デルタ株が流行した2021年の夏と、オミクロン株が流行した2021年12月以降の高齢者の死亡の主な要因をまとめたものです。デルタ株の時期は、「肺炎による呼吸不全」が80%と多くを占めました。一方、オミクロン株が流行した時期になると、46%が「入院前からの基礎疾患などの悪化」が主な要因でした。

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高齢者が感染したとき、感染症治療の実績のある病院に患者を移すケースが多くみられましたが、入院している病院でそのまま基礎疾患を含めた治療を継続した方が良い場合が少なくないといった声が関係者からは聞かれます。

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そのために、高齢者が入院している各医療施設は、新型コロナ対策をしながら治療を進められるよう、病院内の感染対策を強化することが求められます。
このように、子どもや高齢者を受け入れる医療機関を増やすことが、同時流行に備えるために重要になっています。

そして、もう一度、重症化リスクが低い人の受診・療養の流れを見てください。

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最初に新型コロナの抗原検査キットを使って、自分で検査をする「自己検査」をすることになっています。これがどこまで機能するのか、この点も課題です。

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検査キットを持っていない人が多いと、検査のために医療機関を利用する人が増えることが懸念されています。医療提供体制に負荷がかかり、医療のひっ迫を抑えるのが難しくなります。
政府は、「抗原検査キットや解熱鎮痛薬を早めに購入するように」と呼び掛けていますが、今後、感染拡大に備えて、検査キットと薬を購入する人はどれだけ増えるでしょうか。

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同時流行の時の行動を示した上の図は、仮にインフルエンザの流行がなく、新型コロナの感染だけが拡大した際には、インフルエンザの部分を下の図のように削除すれば、そのまま使えます。この図は、感染が拡大したとき、医療のひっ迫を抑えるために必要な、基本的な行動を示しているのです。

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政府は、リーフレットをつくるなどして啓発を進めていますが、国民にはそのメッセージが、まだ十分伝わっていないと思います。

同時流行への備えとして、あわせて重要なのがワクチン接種です。新型コロナワクチンとインフルエンザのワクチンは同時に接種することも可能です。重症化を防ぐために、ワクチン接種の検討が大切になっています。

同時流行に対しては、ワクチン接種、医療提供体制の整備とともに、国民の行動でどこまで感染を抑え、医療体制を守ることができるかが大きなカギになっています。
政府は、新型コロナとインフルエンザの同時流行に向けて、国民にどういった行動を求めるのか。その内容と理由・意味をひとつひとつ丁寧に説明する必要があると思います。


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