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旧統一教会を調査 寄付の規制へ

今井 純子  解説委員

旧統一教会の問題をめぐり、政府は、年内にも、宗教法人法に基づく質問権の行使による調査を実施し、解散命令に該当しうる事実関係を把握した場合は、速やかに裁判所への請求を検討する方針を打ち出しました。政府がこれまでの慎重な姿勢を転換した背景には、消費者庁の検討会が公表した報告書の提言がありました。長年、放置されてきた旧統一教会の問題は、大きな転換点を迎えています。今度こそ、被害を救済し、新たな被害を防ぐ対策につなげることができるのか。この問題について考えてみたいと思います。

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(政府の指示)
まず、政府の方針です。岸田総理大臣が指示をし、これを受けて、文部科学省が、年内にも調査を実施し、解散命令に該当しうる事実関係を把握した場合は速やかに裁判所への請求を検討する方針を示しました。調査が実施されれば、初めてのことになります。

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(背景には、消費者庁検討会)
岸田総理大臣の指示の背景にあったのが消費者庁の検討会です。旧統一教会などによる霊感商法や多額の寄付の被害への対策を検討しようと8月末に設置されました。その中で、最大の焦点となったのが、解散命令です。宗教法人法では、「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした宗教法人」などに対して、所轄庁などの請求に基づき、裁判所が解散を命じることができると、定められています。解散命令が出されると、宗教法人は解散となり、税制上の優遇措置が受けられなくなりますが、任意の宗教団体として活動を続けることはできます。検討会では、所轄庁の文部科学省が消極的な態度に終始しているとして、「猛省を促す」という厳しい指摘が出されました。

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(解散をめぐる提言)
そして、まとまった報告書。旧統一教会について「社会的に看過できない深刻な問題が指摘されている」とした上で「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」または「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をした」宗教法人に該当する疑いがあるとして、政府に、解散命令の請求も視野に入れ、宗教法人法に基づく質問権などの行使による調査を行うよう求めたのです。

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(解散命令の請求までには課題も)
では、今後、解散命令の請求までいくのでしょうか。当然、視野には入っているとみられますが、そう簡単ではありません。消費者庁の検討会は、民事の裁判で、教団の組織的な不法行為を認める判例が積み重なっていることなどが、解散命令の事由に当たる疑いがある、という考えをとっています。これに対し、岸田総理大臣は「政府の相談窓口に寄せられた相談の中に、刑法をはじめとするさまざまな規範に抵触する可能性がある案件が含まれている」とする一方、解散命令を請求するにあたっての要件について「1996年に最高裁判所の判決で示された考えを維持しており、民法の不法行為は入らない」という解釈を示しています。消費者庁の検討会とは異なる解釈です。政府が慎重に要件を見ているのは、もし、解散命令の請求をして、裁判所で認められなかった場合、旧統一教会の活動に改めてお墨付きを与えることになりかねない。という危惧があるものとみられます。今後、解散命令の請求に該当する事実関係を調査でどう積み上げていくのか。大きな課題になります。

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(被害の訴えの現状)
消費者庁の検討会では、霊感商法や多額の献金の被害を防ぐための法制度の見直し。そして、今ある被害を救済につなげるための相談体制についても、広く検討が行われました。その前提として、まず、被害の訴えの現状をみてみます。
▼ 政府が設けた合同電話相談窓口には、一か月で元信者や信者の家族などから、旧統一教会によるとみられる被害について1300件を超える相談が寄せられました。70%以上が「金銭トラブル」に関するもので、この5年以内の被害も25%に達しています。
▼ 高額な壺や印鑑などを売りつける形から、最近は、正体や勧誘の目的を隠して近づいた上で、多額の献金を強要する形に被害が変わってきていると指摘されています。相談の中には、「家族が1億円を超える献金をして自己破産した」「家族が献金の為借金をして、公共料金も支払えていない」など、深刻な相談も寄せられています。

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(法制度の限界)
こうした被害を防ぐための法制度。
▼ 霊感商法については、消費者契約法の2018年の法改正で「不安をあおられ困惑し、契約をした場合」に取消権が認められました。しかし、消費者庁の検討会では「要件が細かすぎる」「家族は取消権を使えない」「信者が影響から脱した時には、時効が過ぎている」といった指摘が出ました。いまや被害の多くを占めている「多額の寄付」については、そもそも「消費者契約と捉えきれないものもある中、規制する法律がない」という指摘が相次ぎました。

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(報告書の提言 法制度の見直し)
このため、報告書では、霊感商法などについて。
▼ 消費者契約法を改正し、取消権の対象を広げるとともに、時効を延長すること。

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「宗教上の寄付」については、
▼ 正体を隠しての伝道や、マインドコントロールのもと合理的な判断ができない状況で寄付を要求することも念頭に、幅広く禁止する。
▼ 違反した場合は、寄付を無効とする。
こうした内容を定めるための法制化の検討をするよう求めています。
ポイントのひとつが違法な寄付を無効とする考えです。無効は、取り消しと違って、もともと効力がありませんので、信者本人が長期間マインドコントロールから抜け出せなくても、時効がありません。また、家族なども請求できますので、救済できる被害の対象が大幅に広がることが期待できるという考えです。

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(相談体制の強化)
その上で、検討会が打ち出したもうひとつの提言が相談体制の強化です。
これまで、元信者や家族から相談を受ける窓口には、消費生活センターなどがありましたが、検討会では、「宗教だからといって及び腰になっていたのではないか」「横の連絡をとる体制がない」「情報が収集できていないため、救済や解決に向けた政策立案につながっていない」という指摘が出されました。

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これを受け、報告書では、
▼ 公認心理師や宗教社会学者などの専門家と連携し、
▼ より専門的な相談窓口を設けるなど、充実させること。
▼ 特に子どもの立場にたって児童虐待からの保護や、いわゆる「宗教2世」への支援を行う必要がある。と提言しています。心の問題や家族の関係、貧困、就労支援など幅広い相談に対応できるようにしようという考えです。
このように今回の報告書。今度こそ被害を救済し、新たな被害を防ごうと消費者行政の枠を超え、広く、踏み込んだ提言となっています。今後の課題は、いかに迅速に、具体化していくかという点です。

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(いまの国会で法改正へ)
岸田総理大臣は、こうした点についても
▼ 取消権の対象の拡大を行うなど消費者契約法などを改正すること。
▼ 寄付について法制的対応の是非を検討すること。
▼ 相談窓口の強化をはかること。
こうした考えを示し、法律の見直しは、いまの国会に提出できるよう準備を進める考えです。しかし、具体化していくには、例えば、違法な寄付をどう具体的に線引きするのか。相談体制の強化をするための研修をどうするのか。など、課題もあります。

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【まとめ】
ただ、今も、多くの元信者、家族、こどもたちが深刻な被害を訴え、苦しんでいます。政府は、運用の改善で取り組めることはすぐに。そして、法律の改正、新法の制定が必要なものはできるものから。課題を乗り越え、取り組みを、急ぐことが求められています。

(今井 純子 解説委員)


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