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習近平総書記に権力集中どこまで~あやぶまれる中国の行方

奥谷 龍太  解説委員 神子田 章博  解説委員

(神子田)
5年に一度開かれる中国共産党の最も重要な会議 党大会が16日から開幕し、習近平総書記へのとめどない権力の集中に、危うさを指摘する声が強まっています。中国担当の奥谷委員とともに、この問題について考えていきたいと思います。
奥谷さん、党大会の報告で習氏は、これまでの自らの統治の成果を強調したようですね。

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(奥谷)
そうですね。習総書記の政治報告ではこれまでの任期10年を振り返り、権威を自らに集中させた体制の下で、歴史的な成果が得られたと誇示しました。

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厳しいゼロコロナ政策で国民から不満が高まっている新型コロナ対策や、香港の民主化運動の鎮圧についても取り上げて、大きな成果を収めたと強調しました。さらに貧困対策について「『脱貧困』という歴史的な任務を達成した」と誇示したほか、貧富の格差を小さくしていくという、「共同富裕」という言葉も盛り込みました。

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注目されるのは、今後、一極集中をさらに強める方針だとしている点です。5年前の報告では、「新時代の中国の特色ある社会主義思想」という言葉が盛り込まれ、党規約が改正されて、頭に習近平の名前を冠した形で書き込まれました。国の憲法より上位にある党の規約に個人名がついた思想が入ったのは、建国の父、毛沢東の毛沢東思想以来です。きのうの政治報告では打ち出しませんでしたが、先週、習近平指導部は、今回の党大会でも党規約を改正し、「二つの確立」というスローガンを新たに盛り込む方針を発表しています。その意味するところは、共産党員が習総書記に絶対的な忠誠を尽くす体制で国を発展させていく、というものです。習氏の権威がさらに高められ、異なる意見すら許さない独特の国家像を、改めて打ち出すことになります。これに国民だけでなく党員の中にも疑問を感じている人は多くいますが、それを公に表明することはできません。

(神子田)
権力を集中させる習近平指導部の統制が経済の分野にまで及べば、今後の成長にマイナスの影響がでると懸念する声が強まっています。

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習近平氏は共産党のトップに就いた当初、民間企業の活動を重視する方針を色濃く滲ませたものの、5年前の党大会では、民間も含めたすべての活動を共産党が指導する方針を強調。実際に去年、中国を代表するIT企業に独占禁止法違反を理由に巨額の制裁金を課したり、個人情報を集める配車サービス大手を、国家安全上の理由でアメリカでの上場廃止に追い込むなど、民間企業への統制色を強めてきました。しかしこうした動きはスタートアップ企業などの事業へ意欲や、外国企業の中国への進出意欲をそぐとも言われています。こうした中で習氏の今回の報告では、資源配分における市場の役割について、5年前には「決定的な役割を果たさせる」としていた部分を「決定的な役割を十分に発揮させる」に改めました。市場原理にそった民間企業の活動を重視する姿勢を強調し、内外の企業の中国離れを防ごうとしたものとみられます。
 奥谷さん習氏は中国の長期的な発展の青写真についても語っていましたね。

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(奥谷)
 習総書記は国家目標について、5年前と同様に、「2035年までに社会主義の現代化を基本的に実現し、建国百年の2049年頃までに、『社会主義現代化強国』を建設する」と述べました。しかし自信や高揚感を感じさせた前回からは表現が抑えられ、「今後の5年はカギとなる時期で、任務は重く、警戒を強めなければならない」と述べました。経済の現状には一定の危機感をもっているようです。

(神子田)
その危機感の背景には、不動産投資に依存するこれまでの成長モデルが行き詰まっていることがあります。

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中国では土地は国有で、不動産業者は、地方政府が整備した用地を、使用権料を支払って獲得し、マンションを建てて販売。利益を上げてきました。一方、地方政府は業者から得た使用権料が豊富な財政収入となり、この資金を使って新たに用地を開発。そこにまたマンションが建てられたのです。部屋の価格が上がっている間は、地方財政も不動産業者も潤うという好循環が続きこれが成長を加速させる構図となっていました。ところが価格が高騰し庶民の手に届かないという批判が強まったことを受けて、中国政府は、投機的な取引の規制を強化。さらに中国の人口はやがて減少に向かうといわれ、今後は需要自体も減って、これまでのようなマンションの価格上昇も期待できないとみられます。不動産に頼った成長モデルは限界を迎えているのです。

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 不動産に変わる新たな成長のエンジンをどうするのか。これについて習氏は政治報告で、宇宙、デジタルなど新たな産業分野を強化すること。人材の育成を通じて科学技術を発展させて、イノベーション=技術革新が主導する発展戦略を加速させる考えを示しました。しかし不動産関連産業はGDPの5分の1を占めるといわれるだけに、その成長の伸びがなくなる分をほかの産業でカバーするのは容易ではなさそうです。

(奥谷)
 そうした経済の懸念とは裏腹に、対外的には強硬な姿勢が目立つ政治報告でした。

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習総書記が台湾問題について述べた、「決して武力の行使を放棄しない」という言葉は、前回5年前にはありませんでした。またアメリカについては、名指しこそしませんでしたが、「覇権主義や内政干渉に反対する」などと、強い言葉が並びました。
習氏への一層の権力集中にも警戒が高まっています。習氏個人に忠誠を尽くす体制が強化されれば、今後欧米などからは、これは個人の独裁体制だ、全体主義のようだなどといった批判も強まりそうです。
党大会閉幕翌日の23日には、新しく発足した中央委員会の総会で、習総書記の異例の3期目が正式決定する見通しです。そして3期目以降も終身の最高指導者の地位を保持し続けるのではないか、という見方も出ています。今後党大会で、毛沢東にしかほぼ使われたことがない、「領袖」という言葉が出てくるかどうかも注目です。
権威を極限まで高めた習近平総書記が、国是ともいえる「台湾統一」に向けて武力侵攻に打って出る可能性が、以前より高くなったと見ることもできます。私たちの民主主義や普遍的価値観を否定しつつ、力による現状変更を試みる中国と、今後、日本や欧米との関係がますます緊張することが懸念されます。

(神子田)
 欧米各国との対立の構図が続けば、中国経済の足を引っ張ることは、習氏みずからもよく理解しているようです。

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習氏は政治報告で、「多角的で安定した国際経済の構造と経済貿易関係を維持したい」考えを強調しました。中国はこれまで先進各国から進んだ技術や投資を呼び込むと同時に、製品を先進各国に売り込むことで経済発展をとげてきました。ところがいまやアメリカ向けの輸出には高額の関税が上乗せされ、最先端の半導体など安全保障にかかわるハイテク製品の輸入にも支障が生じています。

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こうした中で習氏は、生産に必要な原材料や部品などを自前で調達できるようにサプライチェーン=供給網を強化することや、科学技術の「自立・自強」つまりハイテク技術の自力での開発を一段と強化する考えを示しました。しかし、あらゆる技術分野で先進国に追いつくには相当な時間がかかるとみられます。中国が欧米や日本との関係を改善できるかどうかは、将来の経済発展の行方にも大きく関わってくることになるのです。

 習近平総書記へのとめどなき権力集中がうむ新たな危うさが懸念される中国。その行方にますます目が離せない状況が続きそうです。

(奥谷 龍太 解説委員 / 神子田 章博 解説委員)


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