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分断を深めるアメリカ~中間選挙まで1か月の攻防~

髙橋 祐介  解説委員

いまアメリカは「政治の季節」に突入しています。来月8日に迫っている中間選挙について、首都ワシントンからお伝えします。投票日まで1か月。すでに一部の州では期日前投票などが始まっています。民主・共和両党による攻防は、はたして何をもたらすでしょうか?

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解説のポイントは3つあります。

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▼まず、バイデン大統領とトランプ前大統領。今度の投票用紙にはどこにも名前がないこのふたりによる事実上の再対決、さながら代理戦争の様相を呈していること。
▼次に、アメリカを真二つに引き裂く分断の溝は、ますます深くなっているようです。
▼そして今回の中間選挙は、バイデン・トランプ両氏が、2年後の大統領選挙に向けて、それぞれ再選を実際にめざせるかどうかにも影響するかも知れません。

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そもそも中間選挙とは、4年ごとの大統領選挙の真ん中の年に、任期2年の議会下院は435議席すべてが、任期6年の上院は3分の1、今回は補選も含めて35議席が改選されます。上院で改選される現有議席は、今回は共和党が民主党よりも7議席多くなっています。
そのほか全米50州のうち、今回は36の州で知事選挙なども行われます。日本に喩えると衆参同日選挙と統一地方選挙が一斉に行われるといったところでしょうか。

現在の連邦議会で、下院はご覧のように民主党が辛うじて多数派です。
上院は同数ですが、法案や予算案などの審議で採決の結果が同数になった場合、上院議長を兼ねるハリス副大統領が決定票を投じますから、上院でも民主党が現在は事実上の多数派です。
民主党はこうした多数派の座を維持するか?それとも共和党が多数派奪還を果たすのか?それが今度の選挙の最大の焦点です。

ただ、過去の中間選挙には、ひとつ明らかな傾向が見て取れます。その時々の大統領が所属する政権与党(=今回の場合は民主党)に逆風が吹き、しばしば多くの議席を失いやすいのです。とりわけ大統領が就任後初めて迎える中間選挙は鬼門と言われます。

では、そうした傾向がある中で、民主党は今回どこまで巻き返せるでしょうか?
通例ですと、モノを言うのは政権の支持率です。バイデン大統領の支持率は、記録的なインフレへの不満などから一時30%台に落ち込んでいましたが、この夏以降はやや回復傾向にあり、現在は平均40%台前半。最悪の時期は脱したようにも見えますが、逆風をはね返すような力強さに欠ける印象は否めません。

そうしたバイデン政権批判の先頭に立つのがトランプ前大統領です。「中間選挙はアメリカを破壊するバイデンと民主党に審判を下す場だ」と訴えます。自らが推薦する共和党候補の応援にとどまらず、トランプ氏自身が次の大統領選挙で返り咲きをねらう布石と受け止められています。

では、最新の情勢予測を見て参りましょう。

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こちらは、世論調査各社の平均値をまとめた政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」による現時点(10月6日現在)での議席獲得の予測です。

まず下院は、民主党182議席に対して共和党は219議席、接戦が34議席です。仮に民主党が接戦の多くを競り勝っても、共和党の優勢を押し戻すことまではできそうにありません。下院は共和党が過半数を制する可能性が現時点では高そうです。

一方、上院は、改選されない議席も合わせると、民主党46議席に対して共和党は47議席、勝敗の行方がまだハッキリしないのは、現有議席が民主党4つ、共和党3つの、合わせて7つのご覧の州に絞られます。

ほかの中立的な専門家の分析もこちらで聞いてみましたが、やはり、下院は共和党が優勢を保つ一方で、上院は民主・共和両党が拮抗し、いずれが多数派になるかわからない。そうした見方が大勢を占めているようです。

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そのため、今度の中間選挙の結果、来年以降のアメリカ議会は、上下両院で多数派の党が異なる、いわゆる“ねじれ”=「分断議会」と呼ばれる状態になる可能性が指摘されています。仮にそうなると、バイデン政権がめざす法案や予算案は、ますます議会を通りにくくなるでしょう。共和党議員の一部には、バイデン大統領の弾劾を主張する人までいますから、内政の混乱は避けられそうもありません。

ただ、そうした状態は過去に何度もありました。どちらか一方の政党が単独で何事も決めるのではなく、超党派で議論を尽せば、むしろ偏りのない政治を進めることにもつながります。ある意味で、民主主義が機能する健全な姿と言えるかも知れません。

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ところが、現状は、健全な民主主義とは逆の方向に進んでいるように見えてなりません。現にトランプ前大統領は、今回の応援遊説でも「前回の大統領選挙は不正に盗まれた」と根拠のない主張をくり返します。
一方のバイデン大統領も、そうしたトランプ氏の主張を批判した演説で、「トランプ氏とその支持者は国家の敵だ」とまで糾弾しました。

両者の激しい言葉の応酬で、アメリカの分断はさらに加速しています。

就任演説では、トランプ氏の少なからぬ支持者を意識して、国民の融和と結束を訴え、「意見の違いで分裂してはならない」「私を支持しなかった人のためにも懸命に戦う」と誓ったバイデン大統領。しかし、2年近く経った今、党派色をむき出しにしてトランプ支持者を批判する大統領の姿そのものが、現在の苦境を物語っているようです。

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バイデン・トランプ両氏の対決は、いつまで続くのでしょうか?
こちらは、2年後の大統領候補として、誰を指名すべきかと、民主・共和両党の支持層にそれぞれたずねた先月の世論調査です。
民主党支持層では、バイデン大統領の再選よりも、誰か他の候補者が頭角をあらわしてくることを望む人の方が多いようです。
たとえ中間選挙で与党が敗れても、再選を果たした大統領は過去に何人もいます。しかし、バイデン氏は、来月の誕生日で80歳になる史上最高齢の大統領です。今回の中間選挙に敗北を喫したら、求心力の低下は避けられそうにありません。

一方の共和党支持層は、76歳のトランプ前大統領が再び立候補することを望む人の方が、他の候補者の登場を願う人よりも若干ですが多いようです。
ただ、トランプ氏が推薦した多くの候補は、今回の中間選挙で共和党の予備選挙は勝ち抜きましたが、本選挙でも勝てるかどうかはまだわかりません。トランプ氏自身も様々な疑惑で司法捜査も受けています。

もしかすると、今度の中間選挙は、民主・共和両党にとって、世代交代の動きが表面化してくるひとつのきっかけになるかも知れません。

ワシントンで話を聞いた議会関係者の多くは、選挙の盛り上がりに期待している一方で、その言葉の端々に、相も変らぬ党派対立に飽き飽きした様子もうかがえました。
中間選挙は、大統領選挙に比べて有権者の関心が薄く、これまで投票率は40%前後となる場合が多かったのですが、前回2018年の中間選挙は、およそ50%と、過去100年で最も高い水準に達しました。アメリカの分断の加速が、激しい党派対立を生み、それが皮肉にも投票率を押し上げたのかも知れません。今回の中間選挙も、投票率は前回並みか、それ以上という予測が多いようです。
投票日まで1か月。民主・共和両党の戦いは、これからいよいよ最終盤を迎えます。

(髙橋祐介 解説委員)


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